『終の魔女』
自殺志望 第五弾 『理の使役者』投稿開始です!
今回はトリップや転生じゃない異世界もの。
ファンタジーですが戦闘より陰謀や策略がメインの話になります。
完結目指し、頑張ります!
「はぁ、はぁ、はぁ、もう、しっつこいわね!」
街の光も月の光さえも届かない暗い森の中を駆ける。
捕まったら、間違いなく命はない。
「ウォォォォォン」
「嘘、魔獣まで出してくるなんて、か弱い女の子相手には優しくするのが世の条理ってもんでしょ!」
まずい、このままじゃ、確実に捕まる。
ただの、一般兵ならまだしも、魔獣を相手取るなんて無理!
だけど、なんとしてもこれだけは『デュナミス』に届けなきゃ。
「ウォォォォォン」
「こんなところで───死ねないのよ!」
ありったけの魔力を込めた、渾身の一撃、これで、時間稼ぎ位は……
「ウォォォォォン!」
くっ、やっぱり私程度じゃ無理、万事休す、ここまでなの……
「アァァァァァァァ!?」
え?
「おい、ここをどこだと思っている?」
嘘、魔獣を倒した?
しかも、一撃で? そんな事、一流の魔導師でもないとそんな事!?
「魔獣に追われているなんて、罪人かなにかか?
だが、ここに来た者は人であろうが魔獣であろうが関係ない。
例外なく殺せと、主から命じられている」
一難去ってまた一難、美人薄命とはよく言ったものね。
でも、相手が人であるなら、まだ交渉の余地が……!?
「ちょっと、いきなり攻撃してくるってどういうことよ!」
「いや、さっき言っただろう」
「男が細かいこと気にしてるんじゃない!
とにかく、あんたの主とやらに合わせてちょうだい。
あんただって、人なんだから会話位通じるでしょう?」
「お前こそ会話が通じない程、可哀想な頭らしいな」
あ、こいつ、いま、鼻で笑いやがった。
心底、馬鹿にしてる風に、鼻で笑いやがった!
「あんた、美少女には優しくしろって親に習わなかったの!
それに、私は可哀想じゃない!」
「自分で美少女って言うか、普通?」
「誰がどう見たって、美少女じゃない」
これでも容姿、体形には自信あり、うちの組織でも1,2位を争うと自負している。
「ああ、はいはい、美少女様だろうがなんだろうが、うちの主は忙しいんだ。
そろそろ、いいだろう、死ね」
『待って、シオン』
「なんでしょうか、いまこいつを殺して戻りますので、少々お待ちを」
『相変わらず、頭が固いね。
別に人前だからって口調を変える必要なんてないのに。
それに、『主』だって、あんまり面白かったからつい録音しちゃったよ』
あれ? この堅物の主人にしてはやけにフランクというか、声を聴く限り幼いし、女だ。
でも、これはいい流れかもしれない。
「───はぁ、分かりましたよ、師匠。
それで、この女をどうしろっていうんです?」
『とりあえず、家まで連れてきて。
詳しい話はその後するから』
「話は聞いていたな、さっさと行くぞ」
「あの~、とっても言いづらいんだけど、腰が抜けて立てない」
いや、そんな目で見られても、元をただせばあんたが魔法なんてぶっ放すから悪いんでしょ。
「仕方ない、手を貸せ」
「あ、うん」
うわ、そう言えば、私って男と手を繋ぐのってこれが初めて!?
こいつ、性格は最悪だけど、顔だけは良いし、ちょっとドキドキしてきた。
「お前……」
え、なになに、もしかして、私に見惚れちゃった?
いや、でも私には使命があるし、でも、こいつ強いし、もし、一緒に来てくれるなら……
「言う程、可愛くないな」
「死ね!」
我ながら、いいビンタだったわ。
障壁張られて、届かなかったけど……
「師匠、入りますよ」
「どうぞ」
うわ、なんだか高そうな物がいっぱい。
あ、この短剣いいわね。
「最初に忠告しておくが、この家にある物に触らない方がいいぞ。
強烈な呪いが掛かっているからな、ちなみに、死んだ方がましだと思えるものばかりだ」
そうよね、魔獣を一撃で倒すような奴の師匠なんだから、その位はやってるわよね……
「ん、いつもご苦労様。
とりあえず、お茶入れてきて」
「分かりました」
「それじゃあ、ようこそ、エルナ・ファミルネさん。
私がシオンの師である、ミトスだよ」
落ちつこう、私、確かにいろいろ突っ込みたいところはある。
例えば、何この幼女とか、どうして、目隠しして、両手首を鎖とバンドでつないでるのとか、その切り裂かれた服はなんなのとか、心臓の部分に突き刺さっている短剣は大丈夫なのとか、もう、見た目で突っ込みたいところだらけなんだけど、それより、どうして私の名前を知ってるの?
「あ、その顔はどうして名前を知ってるの? って顔だね。
あ、ちなみに、この手の鎖は私の趣味ね。
こういうひらひらした服って切り刻んで、鎖が似合うと思わない?
ほら、反骨精神みたいな」
この子、Мなの?
だ、駄目だ、幼女の手を鎖で拘束するとか、もういろいろアウトだ。
「師匠の事でいろいろ思うことはあるだろうが、一切考えるな。
それが、一番いい」
「あ~、シオンったら酷いな~、昨日はあんなに興奮してたのに」
え、なに、今度はロリコンなの?
いや、他人の性癖をどうこう言うつもりないけど
「半径10m以上、近づかないでください」
「言っておくが、俺はロリコンでもないし、師匠が言っていることは半分は嘘だ」
「半分は本当なのね?」
「ああ、師匠特製の興奮剤を飲まされたからな。
やっているときは理性なんて残っちゃいない」
なんなんだろう、この師弟は……
「ほら、いっつも仏頂面のシオンががっついてくるところを見たいと思わない?」
確かに、この冷血漢が興奮しているところを見てみたくないかと言われれば、見てみたい。
意外と、この人とは話が合うのかも。
「さて、話が逸れたし、戻そうか」
「そういえば、どうして私の名前を?」
「あ、それは視たからだよ」
「え、な…に…を?」
あれ、声が震えてる?
体に力が入らない?
「師匠、話をするつもりならもうちょっと抑えてください」
「ん、ああ、ごめんね。
いつも、シオンしかいないから手加減を間違えちゃった。
ん~、これくらいなら大丈夫かな?」
「ほら、大丈夫か?」
「う、うん……」
もしかして、私はとんでもないところに呼ばれてしまったんじゃ、それこそ、魔獣なんて目じゃないくらいにやばいところに。
「どうして、名前を知っているかだったよね?
アカシックレコードって知ってるかな?
この世界のすべてが記録されている場所なんだけど」
「あれって、お伽噺のはずじゃ……」
「まぁ、信じるか信じないかはエルナ次第だよ。
さて、私がどうしてこの家にエルナを呼んだかっていうとね、エルナが持っているものがちょっと気になったんだ」
怖い、子供のような無邪気な笑みなのに、なんて凶悪な笑み
逃げなきゃ、ここに居たら、殺される!
「か、体が……!?」
「酷いなぁ、せっかく、招いてあげたのに逃げ出そうとするなんて」
「───ひっ」
「───師匠」
「うふふふ、ごめん、ごめん、ちょっと脅かしすぎちゃったかな?
それにしても、シオンって意外とフェニミストだよね」
「師匠が殺せと命じれば殺しますよ。
俺はこのまま話がずるずる延ばされるのが嫌なだけです」
「シオンってば相変わらずツンデレなんだから」
なんなの、こいつら……?
明らかに、人としての領域を超えてる
「へぇ、これが伝説と謳われた創造の神が落とした秘宝『スラント』。
サンスクリット王国が厳重に封印してたのによく持ち出せたね」
「か、返して! それだけは!」
やっと、取り返したのに、こんなところで!
「いいよ」
「───え?」
「ちょっと興味があっただけだし、別に欲しいわけじゃないよ。
それが、どんな末路を辿るのか興味もわいてきたしね」
「あなたはいったい……」
「あれ? 私のこと知らなかったんだ?
有名人だと思ってたけど、私もまだまだだなぁ」
「だからと言って、これ以上悪名を増やさないでくださいよ」
「え~、ちょっと格好いいじゃない『厄災の神』とか『破滅の前兆』とか」
え、まさか、ミトスって、あの……
「でも、一番のお気に入りはやっぱり『終の魔女』だよね」
『終の魔女』、200年前まで続いていたサンスクリット王国とデーヴァ帝国の戦争をたった1人で両軍を壊滅させ終戦に導いた、最凶の魔女。
それじゃあ、ここって、まさか
「そう、ここは『終の魔女』の住処、迷い込んだら生きては帰れない死の森『アインナッシュ』よ」
やばい、私とんでもないところに着ちゃったんだ……
私生きて帰れるのかな……
用語説明
魔物
先天的に魔力をもつ生物の総称(人は含まれない)
魔獣
魔力を持たない生物に無理矢理、魔力を付与した生物の総称。
主に、軍の戦力として作られる。
魔導師
魔法を使える人の総称。
魔力は生まれながらに持っているが、魔法を使える者は1/10程度。
種族によって、差がある。