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彼氏は女装好き

作者:


久々のラブコメです。

楽しんでいただけたら嬉しいです。



 私の幼なじみと出かけるときは、おしゃれをしていかなければならない。

 その理由は――

「ねーねー、君たちヒマ?」

 お決まりの文句で近寄ってくる若い男たち。そのとき、私は幼なじみと一緒に駅前に立っていたのだが、明らかに彼らの狙いは幼なじみである。

「っていうか君かわいいよね」

「いくつ?中学生なの?めっちゃかわいいね」

 そんなふうにナンパされるのはしょっちゅうだ。いい加減嫌になってくるところだが、幼なじみは嫌がるどころか大喜びだ。

「聞いた?めっちゃかわいいって!」

「はいはい。いつも言われるでしょうが」

「やべー・・・()ってそんなかわいいかなー」

 幼なじみは正真正銘の男だった。


            ◇


 それからすくすくと成長した私たちは無事に高校生になっていた。

「あゆ、おはよー」

「おはよー」

 川嶋あゆ――高校3年生。幼い頃から外見にはこだわっていたため、同年代の女子の間ではそれなりに容姿は整っているが、まだ足りない。

 彼がいるからだ。

「あ、生徒会長だ」

 友人の飛鳥(あすか)の言葉に反応して前を見ると、そこにはウェーブのかかった長い黒髪をなびかせ、がにまたで自転車をこぐ生徒の姿があった。服装は極めて女性らしい清楚(せいそ)な格好で、誰もが振り返るほどの美人だ。

 ただ、じっと見ると、少しだけ違和感を感じる。

速水(はやみ)ー、お前今日のコンセプトはなんだー?」

 次々と話しかけられる言葉に、その生徒は自転車に乗ったまま振り返る。

「箱入り娘のお嬢様」

 それが速水裕司の今日の女装の格好だった。



 幼なじみの速水は順調に成長し、より端整な顔立ちになっていった。そして、綺麗・かわいいと言われるたびに調子に乗り、私服で通えることをいいことに女装して現れるようになった。

 普通なら変人だと思われるかもしれないが、持ち前の明るさで周囲に受け入れられ、最近では速水が翌日にどんな格好をしてくるか楽しみにしている雰囲気さえある。その上、生徒会長まで務めているため、目立つことこの上ない。



 さらに付け足すと、

「あゆ、おはよー!」

 笑顔で駆け寄ってくる速水に、私は深々とため息をついた。

「おはよー裕司。今日もかわいらしいですね」

「まさかーあゆには負けるよ」

 自分でも不思議だが、照れ笑いを浮かべながら言ってのける速水と私はつきあっていた。


            ◇


「なーにが不満なのよ」

 朝のホームルームが終了するまでむすっとしていた私に、飛鳥が声をかける。彼女とは小学生からのつきあいだったため、大体私の考えていることがわかるらしい。

「え?なにが?」

「だからー、面白いし、優しいし、クラスの人気者とつきあってんだよー?そりゃぁ確かに女装が好きっていう変な趣味があるけど・・・顔がいいから許されてるし」

「別に不満ってわけじゃ・・・」

 その間にも、教室の中央では今日の速水の格好のお披露目会が行われている。いつ見てもクラスの中心にいる男だ。

 そんな人とつきあっているなんて自分は幸せ者なんだろう。だけど、私の中で何かモヤモヤとしたものがあるのも事実だった。



 そんな私の様子を見て、ふと飛鳥が何かを思いつく。

「そうだ。今日の帰りヒマ?」

「え?なんかあるの?」

「ちょっと寄り道して帰ろうよ」

 どこへ行くとは言わなかったが、寄り道して帰ることに異議はなかったので、あゆはこくんと(うなず)いた。


            ◇


 放課後、教室で私が帰り支度をしていると、いつになく上機嫌な速水がにこにこと笑いながらやって来た。

「あゆ、今日一緒に帰ろー」

「ごめん・・・今日飛鳥と一緒に帰る約束しちゃったんだ・・・」

「あーそっか・・・・じゃぁ、明日は空けといてよ。一緒に帰ろう!」

 こんなふうに帰る約束をすることは初めてだったため、私は少し不思議に思った。


            ◇


 てっきりショッピングモールに行ったり、駅前の有名なアイスクリームショップにでも行くのかと思っていた。しかし、私の想像は全く当たらず、代わりに飛鳥によって連れてこられたのはカラオケだった。

 そして、気がつくと目の前には男子2人がいた。

「飛鳥・・・これって」

「小学校が一緒だった寺山君と、彼と同じ高校の森野君。寺山君のことは覚えてない?」

 飛鳥がケロリとして答える。

「いや、覚えてるけど」

「久しぶりに連絡したら遊びたいってことになったから、今日その約束しちゃった。ちなみに、仕組んでたわけでも、合コンでもないからね」

 私は小学校以来会っていない旧友たちを見た。そして、一瞬だけ速水の顔を思い浮かべたが、まぁバレなければ大丈夫だろうと思い直すことにした。



「今寺山と同じクラスの森野っていいます。あはは、よろしくね」

 まるで柔道部であるかのようなガタイだが、女子には慣れていないのか気弱な印象を受けるこの森野という男。私は彼と話すことになった。

「川嶋です。よろしくね」

 私はとりあえず愛想よく振る舞ったが、見ず知らずの男女で会話が弾むわけがない。

「趣味は?」

「好きな食べ物は?」

「最近読んだ本は?」

 まるでお見合いの席のような会話だったが、森野が一生懸命話題を作り出そうとしていることがわかる。体つきはしっかりしているが、どうも不器用なようだ。

 私はそれらの質問に答えながら、ずっと速水のことを考えていた。


            ◇


 その日は森野に途中まで送ってもらった。本人は家まで行くと言っていたのだが、私はさすがに申し訳ないと思ってそれを断った。

 だがその時、清楚な女性と女子学生が一緒に歩いているのが見えた。それはまぎれもなく、速水と生徒会で書記を務めている女子だった。

 すぐに隠れようと思ったが、速水が私に気がついていたことがわかった。

「あゆ!」

 隣の女子に一言言ってから速水がこっちに駆け寄ってきた。

「今帰り?っていうか、飛鳥ちゃんとどっか行くんじゃ・・・」

「あ、うん・・・まぁ」

 上手い言葉が見つからずに口ごもると、速水は清楚な顔のままにこっと笑った。

「それより明日なんだけど、俺生徒会があるから少し待ってもらうかもしれないけど・・・」

 話題を変えた速水に少し驚いた。それと同時に言いようのないモヤモヤが心の中に残る。

 なんだろう?なんで?



「怒らないの?私、他の男の人と一緒にいたんだよ?」

 私は自分から事実を告げた。まるで確認するかのように。

「うん。見たけど・・・俺がどうこう言えるわけじゃないし・・・・」

 困ったように言う速水。私の中のモヤモヤがまた濃くなった。

「裕司、もっと男らしくなってよ!そんな女装ばっかりしてる彼氏なんて私いらない・・・」

 イライラした感情。それに任せて言ってしまった。完全な八つ当たりだ。

 それがわかっているから、私はどうしようもなく、ダッシュでその場を後にした。速水は追ってこなかった―――


            ◇


 言い過ぎた。自分が100パーセント悪いのに、一方的に怒鳴りつけて私は帰ってしまった。

「謝らなきゃ・・・」

 私は朝早く学校へ行き、彼を待つことにした。だが、他の生徒は来ても、速水だけはなかなか現れなかった。待っても待っても来なかった。

「速水は――休みか」

 先生がホームルームを始めようとした時――・・・

「先生!いるよ、俺」

「なんだいたのか・・・・・・」

 先生が奇妙な顔で固まる。他のクラスメートもなぜか一言も発しなかった。

 私も目が離せなくなった。

「珍しく男じゃないか」

 速水はいつもの女装をやめ、いまどきの若い男らしい格好で教室に立っていた。



 速水が男の格好をしていると、元々人気だったのに加えて、女子生徒からもますます話しかけられるようになった。こうなってしまうと、謝る機会さえもなかった。

 その日は1日も話すことができなかった。

「あゆ、もう帰るの?」

 飛鳥に訊ねられ、私は迷う。昨日あんなふうに言ってしまったのに、速水を待っていてもいいのだろうか。

 と、その時だ。携帯電話が振動する。

『今日一緒に帰れますか?』

 丁寧な文面のメールは森野から送られてきたものだ。

 どうしようか迷う。本来なら迷ってはいけないのだろうが、誠実な森野に悪いことをすることができない。

「今日は・・・・・帰るよ」

 速水に謝り、1人で帰ろう・・・・・


            ◇


 教室を出て生徒会室に向かっていると、ちょうど廊下を歩いていた速水に出くわした。

「帰んの?」

 その表情はいつもと違って笑っていない。久しぶりに女装していない姿を見たからか、妙に緊張してしまった。それに昨日あんなことを言った後だ。

「ううん。昨日のことで裕司に話があって・・・」

 意を決して謝ろうとしたときだ。それを(さえぎ)るように速水が、

「別れないよ。ちゃんとした理由言ってくれなきゃ」

「は?」

「俺は確かに昨日の男と比べて全然頼りないかもしんないけど、俺だって女装しなけりゃ普通に男だ!」

 昨日私が女装している彼氏なんていらないと言ったことを気にしているのだろうか。真剣な顔で見つめられる。私は謝るつもりだったのに、逆に目を丸くするしかなかった。

「知ってるよ。今の裕司も女装した裕司も、全部ひっくるめて裕司だもん」

 素直に答え、再度速水に向き直った。

「裕司、私に言いたいことがあるなら言って」

 しばらく速水は黙っていたが、やがて口を開く。

「じゃぁ、昨日の男とはどういう関係なの?」



 私は昨日のことを全て話した。本当は昨日のうちにそう話しておくべきだったのだろう。そうしたらこじれることもなかったのかもしれない。

 そして、話していてわかった。私は裕司に怒ってほしかったんだと・・・

「じゃぁ別れたいとかそういう話じゃないんだ」

 どこかほっとしたように彼は息を吐く。

「ごめん・・・確かに他の男の子と会ってたことはほんとだし・・・」

「ううん。でも、めっちゃ不安だったから安心したー・・・・冷静に考えたら、女装する彼氏なんてキモイよなって気づいたよ。これからはもうやんないから」

「ううん。キモイなんて思ってない」

 私は首を振った。

「どんな裕司でも私は大好きだから」

 こんなセリフ今まで言ったことなんてなかった。だけど、今なら言える気がした。普段から思っていることを。



 ぐいっ

 急に腕を引っ張られてどこかへ強引に連れて行かれる。私が何を訊いても、彼は黙って早足で歩き、近くの小さな教室に入っていった。

 そして、ドアを閉めた。

「―――っ!」

 裕司の顔が目の前にあり、私たちは文字通りキスをしていた。優しく包み込まれるようなキスだった。



「おーまーえーらー・・・学校でなっなにを・・・!」

 気がつくと、担任の先生が頬を赤くして教室に、正確には印刷室に立っていた。どうやら私たちが入り込んだのは職員室と繋がっている印刷室のようだった。

「学校で・・・こんな堂々とちゅーちゅーと・・・・」

「やっべ!逃げろ!」

 見られた恥ずかしさよりもとにかく逃げなきゃという思いの方が強かった。私たちは全速力で走り出していた。

 走っている間は今日の緊張も忘れ、ただただ楽しかった。


            ◇


 結局、生徒会の会議をサボる形になったが、速水はあまり気にしていないようだった。

「だって昨日は俺たちがつきあい始めた記念日だよ?毎年忘れられてるけど、その日はデートしたいじゃん?」

「あ・・・そっか」

 ようやくその記念日を思い出し、最初から最後まで私は最低だったなと確信する。

 隣の速水を見たが、彼はやっぱり怒ることなくにこにこと笑っている。これが彼のいいところなんだと私は改めて感じた。

「それにしてもあれだよね・・・もし俺が女装してたら、女同士でちゅーしてたように見えたよね」

 ぼそっと呟いた言葉に私は思わず想像してしまった。

「裕司のバカー!」

少し長くなってしまいました・・・;

速水には実は姉が4人いるという無駄な設定があるんですが、

また機会があったらこの続きを書きたいと思います。


ここまで読んでくださってありがとうございました。

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