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第18話

カイルを冷たく突き放し、一人自陣の天幕に戻ったサラは、静かに愛用の杖をテーブルに置いた。

カイルから向けられた熱を帯びた視線と、切実な告白の言葉。昔の自分なら、全てを投げ打って彼の胸に飛び込んでいたかもしれない。


けれど、今のサラの心は、夜の湖面のように静まり返っていた。


(……私はもう、一人で立てる)


テントの隙間から覗く冷たい星空を見上げながら、サラは自身の内側で静かに脈打つ、強大で確かな魔力の流れを感じていた。


昔は違った。

いつもカイルの背中に隠れ、彼に置いていかれないためだけに必死に魔法の呪文を暗記した。彼が「妹」だと言うならその枠に収まろうとし、彼の視線が気になれば、苦しい思いをしてまで自分の身体をさらしで縛り付けた。

カイルの存在がサラの全てであり、彼がいなければ自分は何もできないと、本気で思い込んでいたのだ。


でも、それは違った。

カイルという強すぎる光から離れ、第三部隊という新しい環境で必死に自分の足で立つ努力をした数ヶ月。

サラは気づいてしまったのだ。前で魔獣の攻撃を凌いでくれる強靭な盾がいなくても、隣で笑いかけてくれる優しい相棒がいなくても、自分は決して困らないということに。


むしろ、カイルという存在に依存し、彼の色に染まることばかりに執着していた頃の自分は、自分自身が持つ本当の力や可能性を、自らの手で潰していたのだと。


(誰かに依存して、自分の可能性を潰すような生き方は、もうやめだ)


サラはきゅっと唇を結び、自分の両手を真っ直ぐに見つめた。

華奢な手だが、もう震えてはいない。上位魔獣を一撃で屠り、仲間を、そして自分自身を守り抜くことができる、強い魔道士の手だ。


泣き虫で、いつもカイルの背中ばかりを追っていた弱くて惨めな「サラ」は、第一部隊の女子寮を出たあの日の朝に、完全に置いてきた。


今の私は、誰の庇護も必要としない。


「……さよなら、カイル」


誰に聞かせるでもなく、夜の空気に溶かすようにそっと呟く。

彼への初恋は、もう完全に終わったのだ。今はただ、この胸に宿る確かな力と共に、自分の人生を歩いていく。サラの瞳には、かつてないほどの強く、気高い光が宿っていた。



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