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第15話

あの決定的な別れから、数ヶ月の時が流れた。


季節は移り変わり、王都騎士団は近隣の山地に出現した大規模な魔獣の群れを掃討するため、第一部隊(前衛)と第三部隊(後方魔導支援)の合同任務を発令した。

巨大な野営地には、数ヶ月ぶりに顔を合わせる両部隊の団員たちがひしめき合っている。


「……おい、見ろよ。第三部隊のサラだ」

「すげえ美人になったな……! 前からスタイルは規格外だったけど、なんかこう、洗練されたっていうか」


野営地の中心で、ひときわ周囲の視線を集めている女性がいた。サラだ。

彼女は第三部隊の意匠である、深い蒼色を基調とした魔道士のローブを美しく着こなしていた。窮屈なさらしで隠すことをやめた豊かな胸は、上品な意匠のローブ越しでも圧倒的な存在感を放ち、それでいて彼女の凛とした立ち振る舞いがいやらしさを微塵も感じさせない。

第一部隊にいた頃の「カイルの後ろを歩く泣き虫な幼なじみ」の面影はもうない。自立し、魔道士としての実力と自信を身につけた彼女は、誰の目にも見惚れるほどの大人の女性へと変貌を遂げていた。


「サラ殿! もしよければ、明日の布陣について俺と少し——」

「あ、ずるいぞ! サラちゃん、この後少し時間ある? 珍しい茶葉が手に入ってさ」


彼女の周りには、他部隊の男たちがこぞって言い寄っている。しかしサラは、困ったように微笑みながらも、誰の誘いにも乗らずに上手く躱していた。


その光景を、少し離れた天幕の陰から、射殺すような視線で見つめている男がいた。

カイルだ。


数ヶ月ぶりのサラの姿に、カイルの心臓は早鐘のように打ち鳴らされていた。

あの日、彼女を失った絶望から這い上がるため、カイルは全てを剣に捧げてきた。ただの「才能ある若手」から脱却し、誰よりも強く、そして彼女の隣に立つのに相応しい「頼りがいのある男」になるために。

かつての甘さや人当たりの良さは鳴りを潜め、今のカイルが纏う空気は、抜き身の刃のように鋭く、研ぎ澄まされている。ミアとの根も葉もない噂など、彼が放つ鬼気迫るオーラの前ではとうの昔に立ち消えていた。


(……綺麗になった。俺の手が届かないくらいに)


他の男たちが彼女に群がっているのを見て、腹の底からドス黒い嫉妬が湧き上がる。かつては、あの隣が俺の特等席だったのに。

だが、今のカイルはただ指をくわえて見ているだけの子供ではない。

彼女を取り戻す。そのただ一つの目的のためだけに、今日まで地獄のような鍛錬に耐えてきたのだ。


カイルは静かに息を吐き出すと、迷いのない足取りでサラの輪の中へと歩み寄った。


「……そこを退け」


低く、地を這うような声。

第一部隊のエースが放つ、文字通り肌が粟立つような剣気に、群がっていた男たちがビクッと肩を震わせて道をあけた。

モーゼの十戒のように割れた人だかりの先で、サラがゆっくりと振り返る。


数ヶ月ぶりに視線が交差した。

カイルの喉がゴクリと鳴る。あの日、涙を堪えて背を向けた彼女の瞳には、今はどんな感情も浮かんでいなかった。


「サラ……」


カイルが絞り出すように名前を呼ぶ。今すぐその華奢な身体を抱きしめ、これまでの愚かさを詫びて、ただ「愛している」と叫びたかった。

しかし、サラはカイルの熱を帯びた視線を正面から受け止めると、ふわりと、あまりにも完璧な「営業スマイル」を浮かべた。


「お久しぶりです、第一部隊副隊長殿」

「……え?」

「本合同任務において、第三部隊第三班の支援要請を受け持ちます、サラです。数日間の任務となりますが、第一部隊の皆様の背中は、私たちが責任を持って守らせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします」


流れるような、一切の淀みもない敬語。

それは、かつての幼なじみに向けるものでも、怒りや恨みを抱く相手に向けるものでもない。完全に「ただの他部隊の同僚」に向ける、完璧なまでに冷たい事務的な対応だった。


「サ、サラ……? なんでそんな他人行儀な……俺だぞ、カイルだ!」

カイルが思わず一歩踏み出そうとすると、サラはスッと冷ややかな目で彼を見据え、はっきりと拒絶の意思を示して一歩下がった。


「馴れ馴れしい呼び方はお控えください、カイル副隊長。私たちは今、合同任務中の騎士です。それに……彼女さんに、誤解されてしまいますから」


数ヶ月前の「呪いの一言」が、再びカイルの胸を深く抉った。

彼女の中では、あの日のまま時間が止まっているのだ。俺はまだ、彼女に相応しい男のスタートラインにすら立たせてもらえていない。


「……っ」


カイルが言葉に詰まった隙に、サラは「では、作戦会議がありますので失礼します」と一礼し、優雅な足取りで立ち去っていった。残された男たちの間に、カイルの放つ凄まじい冷気と殺気だけが取り残される。


「……ふぅん。見事なフラれっぷりだねぇ」


呆然と立ち尽くすカイルの背中を、ルアがポンと叩いた。

「ただ強くなっただけじゃ、あの子の心に張られた氷は溶かせないみたいだぜ、エース殿?」


「……分かってる」


カイルはギリッと奥歯を噛み締め、サラが消えた方向を真っ直ぐに睨み据えた。

「あいつが何度俺を突き放そうと、もう絶対に逃がさない。この合同任務で、俺が変わったってことを必ず証明してみせる」


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