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少しだけ酸っぱいガパオ(仮)

作者: yuzuyuzu
掲載日:2026/06/26

私は何になりたいんだろうか

そんなことを考えながら料理をしていたら指を切ってしまった

痛っ

血がにじむ

それが今から自分の口に入る料理につくのはさすがに勘弁してほしいので絆創膏を探した


絆創膏、ばんそうこう、どこに置いたっけな?

あった

引越しをしてから一度も明けていなかった段ボールの中にあった


春から一人暮らしを始めてそろそろ半年

段ボール箱は最初の一週間である程度片付いた

まだ空いていないものは日常生活で特段必要がなかったものだ

例えば親が持たせてくれた救急セットとか

狭いワンルームに四角いボックスのちょっと場所をとる救急ボックス

もちろん机の上に置くわけにもいかないのでそのまま段ボールの中に入っていた

腐るものでもないしずっとこのままでもいいやと思っていた矢先に出番がきた

噂をすればなんとやらだ


絆創膏を張りそのまま料理を続ける

今日はタコライスだ

外食となるとどこも高くなる

実家が田舎だからお米は無料でもらえるし野菜もある程度届けてくれる

必然と自炊の頻度が上がった

引っ越して半年たって余裕も出てきたし

毎日の残業にはなれないけれど


社会人になって驚いたことはみんな意外と残業をしているということと

一日八時間労働だなんてただの譜面上の約束事でしかないということだ

それを律義にしっかりと守る企業のほうが珍しい

世知辛い世の中だ

台風が来ても真夏の猛暑日でも毎日満員電車に揺られ

知らないおっさんの加齢臭を吸った汗を自分のお気に入りの服にしみこませながら出勤している

いい加減都会にも飽き飽きしてきて田舎に帰ろうかと思ったりもしているが

満員電車が来るまでの通勤ラッシュに代わるだけだし、遅延証明もない完全自己責任の世界に飛び込めるほどメンタルが強いわけではない

出勤時間も勤務時間に含まれるべきだと思う


そんなことを考えながら料理を続ける

さっきは固いアボカドに苦戦して指を切ってしまったが今度はトマトだ

逆に柔らかすぎて危ない

アボカドは好きだがまだ熟す前のものと見分けがつかないぐらいの経験値しか持ち合わせていない

この前は半額になっていたバナナを買ったら腐っていた返金もめんどくさいのでそのままごみ箱捨てた

せっかく家に帰ってきたのにもう一度外に出る元気なんてなかったのだ


トマトは嫌いだ

個人的にあのぶにぶにした内側が嫌いだ

カレーに入っていたりモッツアレラと一緒に出されると食べれるが

単品で食べようとは思えない

そうめんに入っているのは好きだが


ひき肉をフライパンに入れる

お肉の見分けもまだつかない

ひき肉と筋がとられたささみと、唐揚げ用に切られて味付けがされている鳥のもも肉ぐらいしか使っていない

わざわざ普通の一枚になっている感じのお肉を買うのはちょっと贅沢だと思っている

ダイエット中だし

最近は物価高がひどくて会社から対策としてお金が出ていたが

そろそろ慣れてきただろ?と言わんばかりに先月打ち切られてしまった

東京の物価をなめるな


「ピンポーン」

チャイムが鳴った

友達が来ると連絡があったわけでもなく家族が急に訪ねてくることもない

おそらく宅配だろう

「はーい」

確認すると家族からの仕送りだった

「扉の前に置いといてください」

いつもの常とう句だ

一人暮らしのワンルームの女であるため気安く扉を開けられないのだ

扉を開けると真っ先に目に飛び込んでくるのは下着だ

仕方ないだろ室内の構造上そこが一番干しやすいのだ


一旦火を止め荷物を確認すると故郷納税で届いたという鮭が大量に入っていた

60サイズの段ボール名いっぱい縦も横も天井もすべてが鮭で埋め尽くされていた

聞くところによると2キロを3回頼んだらしい

........6キロ?ちょっと多すぎやしないか


とはいえ一人暮らし貧乏社会人にとってはとても良い節約になる

アイスやら冷凍食品やらが入っていた冷凍庫を無理やり開けねじ込む

2つ3つ入らなかったがこれは明日のお昼と晩御飯にしよう

骨はあるらしいからお弁当には向かない

会社の唯一の休息時間にお昼にわざわざ骨を取りながらご飯を食べるだけの気力はない


火を止めていたひき肉を再加熱して焦げ目をつけたら冷凍ご飯を解凍する

ご飯は冷凍に限る

1週間に一度3号炊き、できた瞬間に粗熱を取って冷凍にする

水分も完全に封じ込まれるため比較的味の鮮度は落ちにくい

第一味にそこまでこだわりはない

腐ってなければ腹を満たせればそれである程度満足できる

我ながら素晴らしい才能だと思う


ご飯が解凍され器に盛り付けたらひき肉を入れて少しケチャップ

最後に適量の葉っぱとトマトとアボカドを入れる

これはガパオだっけか?何か違う名前があった気がしなくもないが完成したのだ

なんておいしそうなのだろう


毎日同じことの繰り返し

満員電車に揺られ加齢臭を嗅ぎながら他人の汗と体温を体にまとわりつかせて会社に向かう

土日に平日分のお弁当を準備して冷凍してゲームしてそうして1日が終わる

いつまでこんなことを続けているのか、いつまで続けるのかを考えると気が遠くなりそうだが

なりたいものもなければしたいこともない私にとっては今が最大限なのだろう

そう考えながら食べたご飯は予想よりも少しだけ酸っぱい気がした

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