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転生したら嫌われ者の悪役令嬢でしたが、前世で倒したドラゴンが守護精霊になってついてきたので無敵なようです  作者: As-me・com


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第7話 公爵家のお家騒動③


 私は今とても困っている。それはもう、なんというかものすごくだ。




 ……湖に落ちたあの時、前世の記憶を思い出した衝撃で“私”と“フィレンツェア”はほとんどの人格や記憶が混ざり合ってひとつになった。


 だが、それとは別に“今までのフィレンツェア”の意識も“小さなフィレンツェア”と言う別人格として確かに存在している。それはたぶん、心の奥底の深層心理的な意識なのだろうと思っていた。いずれ自然に全てがひとつになるのだろうと……“そうゆうもの”だと思っていたのだ。


 しかし、今はこの小さなフィレンツェアからは完全に私と混ざり合う事を拒否しているような雰囲気を感じていた。こちらの考えは筒抜けなのに小さなフィレンツェアの事はなんとなくの感情しかわからない。もしかしたら“悪役令嬢”の魂は“元聖女”の魂より強いのだろうか……などと考えてしまった。神様に散々「強い魂だから」とおだてられたせいもあるが、少し自意識過剰だったのかもしれないと思わず反省した。


 とにかく“隠された記憶”があるのだ。この小さなフィレンツェアの意識は私には知られたくない“何か”を隠している。それもかなりの強い意志でだ。そう直感が働いていた。


 “私”と“フィレンツェア”が完全に一緒になればこれまでの経験も、もちろん細かな記憶も全てが共有されるはずだったのに、小さなフィレンツェアが抵抗したことにより最後の一欠片が混ざり合えなかった状態にいるのである。


 そして、それが原因かはわからないが“私”の記憶が戻る前……フィレンツェアが湖に落ちる寸前の記憶だけはあれからどうしても思い出せないでいたのだ。もしそれが、小さなフィレンツェアの隠している記憶だとしたら────。一体、あの瞬間に何があったのかをすぐに知るのは難しい事のように思えた。


 確かにその辺は少し気にはなっていたのだ。だが実際に転生したばかりで状況整理の方を優先していたからそれどころではなかっし、それに基本的にこの体の主導権は“私”の方が握っていたから妙な安心はしていたのかもしれない。


 しかしこのその隠された記憶以外にも、小さなフィレンツェアがあまりに強く反応するとどうしてもそちらへ気持ちごと引っ張られてしまうようだった。いや……まぁ、実はちょっとはそんな気がしていたのだけれど、まさかここまでの強制力があるとは思わなかったのである。小さなフィレンツェアからは言葉自体が聞こえるわけではないのだが、感情の強さで小さなフィレンツェアの気持ちを体感していると言う、なんとも不思議な事になっている。


 まぁつまり、“こうなってしまう”と小さなフィレンツェアの方が強いと言うことだ。私だけではどうにもならないと感じている真っ最中であった。……せっかく転生してきて、悪役令嬢の運命から一緒に助かろうとしているのだから少しは融通を利かせて欲しいものである。






 さて、私が何を困っているかと言うと……。





「さっきは驚いてしまったけれど、ドラゴンでもトカゲでもなんでもいいわ!さぁ、フィレンツェアちゃん今夜はお祝いよ!パーティーよぉ!!

あぁ、いつも親子デートを妄想しながら買い揃えてきたドレスや宝石達がやっと活躍する時が来たのね……。これまでフィレンツェアちゃんと正面から顔を合わせてサイズを測り服を作っていた商人や仕立て屋達がどれほど羨ましかったか……!これからはフィレンツェアちゃんの体のサイズはわたくしが測るわ!なんなら服もわたくしが作るわ!その為なら仕立て屋に弟子入りだってする覚悟よ!やっと母親らしいことができるようになるなんて……感激だわ!」


「いえ、服はこれまで通りでいいんで……えっと、あの」


「お料理はお嬢様の為に腕によりをかけて作りますからね!これまで遠目で見ていたお嬢様のお食事のご様子と各料理をお食べになった時のわずかな表情と召し上がるスピード、お残しになった食材などから分析しましてお嬢様の好物はコレとコレで……苦手なのがアレとコレで……料理長としてもプライドと命にかけて全て大好物フルコースにさせて頂きます!昔お部屋で隠れてお食べになっていた木の実もありますよ!」


「えーと……もう子供じゃないんで別にそこまで好き嫌いは……えっ、なんでこっそり部屋で食べてた事知って……?!ちがっ……あれはたまたま気になっただけでつまみ食いしたわけじゃ……それに子供の時の話だし!」


「これまでほとんど触れられなかったフィレンツェアお嬢様のお肌やお髪をじっくりお手入れ出来る日が来るだなんて……!今厳選したメイド隊がお風呂とマッサージの準備をしております!例え近寄ってお話が出来ずとも、壁に隠し通路と覗き穴を作ってそこからフィレンツェアお嬢様のお肌のチェックは毎日欠かさずにおこなってきておりましたので抜かりはございません!ここ数日はお肌が少し乾燥気味で、毛先が2ミリ程ですが傷んでいるご様子……爪も少々伸びてきているかと。マッサージに爪のお手入れも追加致しましょう!

あぁ、いつかこんな日が来ることを夢見て、最高級の石鹸とマッサージオイルと香油を定期的に仕入れておき常にすぐにご用意できるようにしておいて本当に良かったです!あ、もちろんアロマもございます!」


「え、毛先が傷んでたの?知らなかっ────て、の、覗き穴ぁ?!どこに?!とにかく今すぐ塞いで!!」


 それは、私を囲ってお母様と料理長と侍女頭が大騒ぎしているからである。


 特に怪我はしていないと言ったのだが、念の為にと主治医に診察してもらい(これまたおじいちゃん先生で「普通に診察が出来るようになるなんて……長生きはするものですなぁ」と泣きながら診てくれたが)大丈夫だとわかった途端にこんな状況になってしまっていた。私の話も全然聞いてくれないし、さっきから衝撃的事実ばかりが暴露されていて困り果ててしまっているのだ。嫌われていなかったのは良かったんだけど、逆にこれまで押さえつけられていたフラストレーションが一気に解放されたのか勢いと執着がすごいことになっている気がしてきた。これでは小さなフィレンツェアが恥ずかしいやら悩ましいやらで動揺するのも仕方がないか。


 もちろんこれだけでも充分なのだが、さらに小さなフィレンツェアが動揺する事柄が今まさに目の前で……いや、足元で起きている。しかし一緒にそれを見ているはずのお母様や使用人達はまるっきり無視して私の事ばかり騒いでいるのでもはや困惑しかない。


「あのー……」


 やっと小さなフィレンツェアが落ち着いたと言うか、諦めてこの状況を受け入れたようで体の自由が戻ってきた。やはり状況の変化にあまりに驚き過ぎていただけのようで私から主導権をどうこうしようとは思っていないようだった。まぁ、さっきから声だけは出ていたからいっそこの事態を収める役目を丸投げにしてきた可能性もあるが。


 つまりは私的にはそれくらいの事が起きているのである。私は思い切って足元の“それ”を指差して息を飲んだ。その指先にみんな視線が一斉に集まったのだが……。




「さっきから、お父様が白目を剥いてる上に泡まで吹いて気絶して倒れてるようなんですが放っておいていいんですか?まさか病気だとかは……」



 そう、その足元に転がっているのはまさしくお父様……ブリュード公爵家当主、その人だったのだ。最初に発見した時は死んでるのかと思って心臓が止まるかと思ったくらいびっくりした。しかし時々ビクッと痙攣でもしてるのか一応動いていたし呼吸音もわずかに聞こえていた。同じくお父様を発見していたお母様が何も言わないので黙っていたのだが、全然起きる気配が無いのでやはり気になって仕方がない。なんで使用人達までため息混じりに残念そうにお父様を見ているのだろうか。



「あぁ、旦那様ね。病気と言うか……そうなるのはいつもの事なのよ。旦那様ったら見た目からはそう見えないのにとても気が弱いの。ちょっとショックな事があっただけでもすぐに体調を崩してしまったり気絶してしまう残念なお方なのよね。

 今も、フィレンツェアちゃんが湖に落ちてしまったと聞いた途端にこの状態になってしまって……わたくし達がなんとか情報を得ようと四苦八苦しているのに呑気に気絶しているんだから困ったものだわ」


「呑気に気絶してるっていうか……」


「だって、密偵は学園内に入れないし下手に騒ぎにすればコレ幸いとフィレンツェアちゃんの失態を狙う輩が出てくるわ。第二王子であるジェスティード殿下の婚約者でブリュード公爵家のひとり娘となればどこに敵がいるかわからないもの。しかも、あの学園の教師にはジェスティード殿下とフィレンツェアちゃんの婚約に反対している人間がまぎれ込んでいるのだとわかったばかりだったのよ。もしも学園に連絡をしたとしても、任せる人間を間違えればフィレンツェアちゃんを助けるフリをしてそのまま……なんてこともあり得たわ。それでなくてもフィレンツェアちゃんには守護精霊がいないからって理由で悪評を流す者も多いし、あんなにフィレンツェアちゃんが熱望した婚約者の座をなんとか守ってあげたかったのよ……。だからわたくし達は気絶したくてもそれどころじゃなかったの!

 その後で密偵からなんとかフィレンツェアちゃんの生存と湖に落ちた事も学園には知られていないと知らせが届いたものの、学園内でトラブルに巻き込まれたようだとか、様子がいつもと違う。なんて聞いて、もしかしたら怪我をしたり体調が悪くなったんじゃないかとか心配で心配で……」


 そう言ってお母様は頬に手を当ててため息をついた。


 その言葉に、もしかしてそれは私にはわからない“隠された記憶”の部分を密偵が見ていた可能性があるのでは?と思った。


「あの、その密偵は私が湖に落ちる時の事はなんて言っていたんですか?」


「それが、わからないって言うのよ。その密偵は守護精霊の力を借りて望遠の魔法でフィレンツェアちゃんを見ていたのだけど、フィレンツェアちゃんが湖にやってきた時に突然魔法が使えなくなってしまったらしいの。すぐに見えるようになったけれど、見えたのは沈んでいくフィレンツェアちゃんの姿で……周りに人は見えなかったそうだけど焦っていたせいで正確にはわからないのですって。助けに行こうにもあまり近づくとその密偵も体の自由が利かなくなるから助けるどころか二次被害になりかねないと公爵家に知らせを飛ばしたそうよ。自分は密偵失格だと落胆していたけれど、それはわたくし達も同じだわ。叶うならば学園に乗り込んでフィレンツェアちゃんを助けに行きたかったのに、それが出来なかったもの……。でも、アオちゃんのおかげでフィレンツェアちゃんはこうして無事だったわ。アオちゃんには感謝してもしきれないわね!」


『ぴぃ?』


 ちなみにアオは私の横でトカゲの姿に戻って他の精霊達もに上げ膳据え膳ともてなしてもらっていた。みんなとすっかり仲良しになったのはいいことだけど、クッションの上で手足を伸して寝転がっているなんてくつろぎすぎじゃないだろうか。


 そんなアオの姿がを見てお母様が「あ!」と声を上げた。


「そうだわ!フィレンツェアちゃんにはアオちゃんがいるからもう加護無しなんて呼ばれなくなるじゃない!

 しかもその守護精霊がドラゴンとなれば、これまでフィレンツェアちゃんを馬鹿にしていた奴らもきっと手のひらを返すわ!この事を王家に言えば絶対に大々的に発表してくれるはずよ。そうすればもうジェスティード殿下の婚約者に相応しくないなんて言われなくなるし、きっとジェスティード殿下もフィレンツェアちゃんに興味を向けてくれるわね!」


 お母様のその言葉にドキッとする。王家にアオの事が知られたら私のスローライフ計画は終わりだからだ。お母様の言う通りこの婚約はフィレンツェアが熱望したのに今更婚約破棄したいなんて言ったらお母様の態度は豹変してしまうのだろうか?


 初めて感じたお母様のぬくもり。優しい言葉。心から心配してくれる眼差し。もしかしたらやっと手に入れたそれらをまたすぐな失ってしまうかもしれない。


 でも、それでも……!


「お母様……、その件についてお話があります。私に守護精霊が出来た事を誰にも言わないで下さい!私は……ジェスティード殿下と婚約破棄したいと思っています。どうか、私の最後のワガママを聞いて下さい……!」


「えっ……!」


 私が勢いよく頭を下げるとお母様も周りの使用人達も言葉を失ったようだった。それに反応したかのように下げた視線の先に転がるお父様の体がビクッと仰け反る。


「確かに私はジェスティード殿下の婚約者になりたいとワガママを言いました……。でもそれは、ジェスティード殿下を愛していたからではなく王子の婚約者になればお母様達が私に興味を持ってくれるかもと期待していたからなんです。でも、湖に落ちて私は目が覚めました。そんなの何の意味もないって。それに、ジェスティード殿下には恋人がいるようで……きっと私は邪魔者になると思います」


 さすがに神様や乙女ゲームの話なんて信じてもらえないだろうから出来ないが、湖に落ちた衝撃で「憑き物が落ちて生まれ変わった気分」であること、「アオの事がバレて騒ぎになるのが嫌」なこと、「ジェスティード殿下には他に好意的な女性がいる」こと。私とアオの前世の事はぼやかし、とにかく婚約破棄したいと伝える事にしたのだ。本当は王子の有責で婚約破棄したかったが、今はアオの事を内緒にしてもらうことが先だ。せめて無事に婚約破棄が成立するまで絶対にバレたくない。


「それは、本気なのね……?アオちゃんの事を隠すと言うことはこれからも加護無しと呼ばれ続けると言うことなのよ?それにもしも婚約破棄したとしたら、どんな理由であれあなたはキズモノになってしまう。また後から再婚約したいなんて言っても絶対に無理なのよ?」


「本気です!アオの存在が知られたらそれこそ婚約破棄出来なくなってしまいます!それに、ジェスティード殿下は私を側妃にしようと考えているみたいでそれも嫌なんです!

 もし加護無しの娘の存在が公爵家の名前に泥を塗った事になるなら家から勘当してもらってもかまわな「そんな事、するわけないでしょう!」お母様……」


 お母様は私を優しく抱き締めてくれた。わかってくれたのかと嬉しくなり顔を上げるとお母様がなんだかニッコリと笑っている。……目は笑ってないけれど。


「少し雰囲気が変わった気がしていたのは、湖に落ちた衝撃で“憑き物が落ちた”からとして……ジェスティード殿下に恋人がいるですって?貴族や王族の結婚なら政略結婚が当然なのだからフィレンツェアちゃんがあの馬鹿王子を愛していなくてもなんの問題もないけれど……あの阿呆はこんなに可愛いフィレンツェアちゃんと言う婚約者がありながら浮気しているってことなのかしら?しかも側妃って……どんな計画を立てたらそんな考えになるのかは謎だけれど、自分の国の法律も知らないのかしら。そこまで馬鹿にされて、それでもフィレンツェアちゃんは自分がキズモノになってもいいから身を引こうと……」


 お母様の腕にきゅっと力が込められる。


「あ、あの……お母様?私は私の為に婚約破棄したいのであって……」


「いいのよ、わかってるわ。これまで散々フィレンツェアちゃんの気持ちを利用して我が家から資金を巻き上げていたくせに、結婚前から浮気なんていい度胸よね。あの馬鹿王子がフィレンツェアちゃんの事を加護無しだと馬鹿にしているのは知っていたわ。自分が馬鹿のくせに!それでもフィレンツェアちゃんの気持ちを優先していたけれど────」


 バキッ!と、足元で破壊音が鳴った。恐る恐る視線を動かすとお父様の顔の横に小さな穴が空いている。お母様の履いているヒールの破壊力が恐ろしい。というか、もう少しズレていたらお父様の顔に穴が空いていたかもしれない。お父様、早く目覚めて!


「わかったわ、フィレンツェアちゃん。あなたの最後のワガママ……お母様が叶えてあげましょう!ブリュード公爵家に喧嘩を売ったらどうなるかとことんわからせてやるわ!」


 その日、おーほっほっほっほ!!と悪役令嬢よりも悪役っぽい笑い声がブリュード公爵家に響いたのだった。











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