第58話 神様(神様視点)
ボクの目の前で聖女の奇跡を見てしまった。なんて綺麗なんだろうかと、思わず目を細めてしまう。聖女にはもうボクより大切な誰かが出来たんだと思ったら、嬉しい反面ちょっと寂しく感じてしまったのは友達を取られたみたいな気分になったからかな。
それにしても、まさかあのドラゴンが古代竜の生き残りだったなんてボクも驚きだよ。いくらなんでもおかしいと思っていたんだ。ボクが管理するパラレルワールドにボクの許可なく勝手に転生するなんて有り得ないはずだったんだから。(と言うか、古代竜の卵がどっかのパラレルワールドで行方不明になった事件とか昔にあったような、無かったような……?)
とにかく、どうりで封印されてるはずなのにあんなに魔法を使うわけだよね。古代竜って規格外の力を持ってるって聞いたことあるからさ。だって転生が出来たとしても本当ならフィレンツェアが聖女の記憶を思い出してからやっとドラゴンの記憶が戻るはずなのに、封印されながら周りを威嚇して精霊たちを寄せ付けさせないとか意味わかんないよ。まぁ、偶然とは言え悪役令嬢を呪っていた奴の力の弱体化も出来ていたから今となっては良かったんだろうけどさ。
でもさぁ……賢者ってムカつくなぁ。もう滅んだ人間のくせに、本来の意識も無くて本能だけで彷徨ってるくせに、精霊魔法を乗っ取って無意識に聖女の魂に惹かれて呪ってたってどうゆうつもりなんだろうね?そして、それを〈腐った神〉経由で知っちゃったボクの気持ちも考えて欲しいよ。もしフィレンツェアにボクがそんな設定を作ってたなんて誤解されてたらどうしてくれるのさ。嫌われちゃうじゃないか。これってフィレンツェアに伝えた方がいいよね?公爵家の人間も探っていたみたいだけど、今はそれどころじゃないだろうし、なにより誤解だけはされたくない!
うーん。なんかなぁ、二重に力を封じた伝説の古代竜が紛れ込んでいた事にも真偽はわからないけど誰かの裏工作の気配を感じるんだよね。もしかしたら他の神のいたずらかもしれないけど、ボクを困らせようとしてるのをヒシヒシと感じるんだ。まさかとは思うけど、ボクをからかって楽しんでた神って言えば……うん。考えるのよそう。
まぁそうだとしても、まさか他のパラレルワールドに転生して精霊になってから聖女の奇跡で最後の封印が解かれるなんてそいつも思ってなかっただろうけどさ。今頃ブラックホールで元気にしてるかなぁ。
というか……もしも元の世界でそうなっていたら、そして古代竜が聖女に敵対心を持っていたら……今頃あの世界はどうなっていたんだろうか。とりあえず、ボクが困って残業する羽目になってたのは確定かな。
「これもまた運命か……」
フィレンツェアは喜んでいるみたいだけど、古代竜って粘着質らしいから大変だよ?それにこの世界の精霊が人間の姿になれるってことは精霊王になれる素質があるくらい強いわけだし……。もうひとりのフィレンツェアは今のところおとなしくしてるみたいだけど、後で揉めないといいね。
まぁ、先の事はまだいいか。ボクは今を考えられる神様だからね。
それにしても、さっきはボクの正体を知って驚いてたなぁ。本当に気付いてなかったなんてこっちがびっくりなんだけど。マジなの?
ボクは、アオと喜び合うフィレンツェアを見つめながら、さっきまでのやりとりを思い出して苦笑いしていた。
***
ボクはこの世界の事について考えていた。
あれから〈腐った神〉から詳しい話を聞き、さらに腐女子たちに集めてもらった情報と照らし合わせて神様として考え出した結果だ。
やっぱり……この世界の管理は放棄されているってね。だからこんなに荒れ放題なんだ。いくらなんでも酷すぎる。
〈時間の神〉共め、ボクを追い出して満足したら後は知らないってことか。もしかしてボクがいなくなった事ってまだバレてないのかな?他の神たちは何してんの?職務怠慢って言葉知ってる?いくらボクが万能だったからって、定期確認はちゃんとやってよ!
「想定より早いでござるが、この世界の容量を考えたら間違ってはいないと思うでござるよ」
「まぁ、聖女の魂が転生したせいでパラレルワールドになっちゃった世界だからね。しかもこの世界自体が勝手に設定を作り出したみたいで最早ボクの知らない世界になってるようなんだ。それでも世界の容量は変わらないはず……賢者に精霊の怨念、さらにそれを利用して“加護無し”の量産に未知の魔法なんてとっくにキャパオーバーだよ。このままじゃ耐えきれなくなった世界はどかーんと破裂して、ボクらを含めたこの世界の生き物は全部輪廻転生に回されるね。……あいつらがちゃんと仕事してたらの話だけど」
「そのまま放置された場合は……消滅するしかないでござるな。パラレルワールドの重要性を深く考えていない若い神が多いでござるからなぁ」
それにしても〈腐った神〉の腐女子たち、有能過ぎない?いくら〈腐った神〉が繋げた別世界から来たからってスペックの違いがすごいんだけど。
「結界のせいで中には入れなかったそうでござるが、だからこそ怪しいのではないかと報告があったでござる。たぶんそこに捕まった精霊たちが集められているのではないでござろうか。ただ……かなり強力な結界であると」
そう言って〈腐った神〉は一瞬目を泳がせた。言い難いんだろうけど、まぁ、言いたい事はわかるよ。
「……《《本当の力》》を使ったら、たぶんこの体ともお別れかなぁ。でも世界には代えられないよね」
早く賢者をどうにかしないと、世界が崩壊するなんて言ったら……フィレンツェアはどんな反応をするのかな?
ボクが〈腐った神〉とそんな話をしている最中にフィレンツェアが教会に連れて行かれたと腐女子から報告が来た。しかしボクは首を傾げる。
「フィレンツェアなら学園内にいるよ?ボクが聖女の魂の気配を間違えるはずないだろ」
あ、聖なる力に目覚めたみたいだね。じゃあボクのことも今度こそ思い出したかなぁ?でもあんまり使い過ぎると世界の崩壊の前に前世の二の舞だから注意しとかなきゃ。
「どうやら何か起こったようでござるな」
そうして向かった先にあったのがあの光景だよ。ヒロインの足に変態くっついてるしびっくりだよね。思わず趣味なのか聞きたくなったよ。あ、違うの?まぁ、とにかく役者が揃ってたから全部そこでぶっちゃけたってわけ。
「か、神様?!神様ってあの神様なの?!え、転生してきた?なんで?いつからジュドーの中にいたの?!……はぁ?他の神様に追い出されたですって?いやいやいや、そんな軽い感じでテヘペロ☆じゃないでしょうがぁ!」
もうフィレンツェアがパニックになってたよね。可愛いなー。
「まぁまぁ、なんならそこにいる赤いドラゴンもボクの仕込みだし☆黒髪くんなんか本当ならラスボスになる予定だったんだけど、悪役令嬢を助けるために運命捻じ曲げてやったんだよ☆なんかそのせいなのか知らないけど賢者の子孫になっててびっくりだよね!ボク、そこまで暗い過去作ってないしー☆あ、君を引き取ってくれた伯爵家が実は遠い親戚だった事は知ってる?実は君の父親が……。え、父親は王様?伯爵家は賢者の遠い親戚?ちょ、怖っ!設定変わりすぎじゃない?なにやってんのさー」
いやいや、ほんと。精霊の血を引いてる設定でなんやかんやあって、なぜか“加護無し”を恨んじゃうはずが賢者なんてどこから出てきたのかよくわかんないものに巻き込まれてて意味わかんなかったよ。確かに王家とは確執あるようにしたけど、こーゆうんじゃなかったのになぁ。ちょっと、腐女子たち?賢者の情報の一部、足りてなかったよー!ここに孫がいたよー!
「いや、言ったでござるよ。〈オタ神〉殿が途中から聞いてなかっただけでござる」
あ、そうなの?ごめんごめん。
あれ?なんで黒髪くんはがっくりした感じで両手を床に付いてるの?あ、それってorzだよね!もしかしてこの世界でも流行ってるの?ヘビになってる赤いドラゴンは『あなたには配慮ってものがありませんことよ!』と怒ってるし。
「……流行り云々ではなく、〈オタ神〉殿の軽いノリに心底がっくりしているのではござらんか?」
「えー、神様からの言葉なのに?ありがたがってよ」
〈腐った神〉が「素直に謝った方がよろしいのでは……」と耳打ちしてくるけど、なんで?
「……神様って、この世界を作った神様ってこと?じゃあ、攻略とかなんとかって……」
ヒロインがブツブツとなんか言ってるから「そうだよ」と答えてあげた。
「あ、そーだ。君にはわからないかもだけど、作ってる最中で何度も失敗しちゃってバグがいっぱいだったんだよね。どうやら破損データを上書きしちゃったみたいで君の設定もバグ起きてるかも☆もしかして攻略が上手くいかなかった?ごめんね~☆」
テヘペロ☆とすると、今度はヒロインが「はぁぁぁぁ?!嘘でしょ?!あたしの苦労って……!」と、orz状態になった。セイレーンが『ルル、どうしたのぉう?しっかりしてぇ!』と慌てている。いや、ほんとにどうしたの?
「やっぱりちゃんと謝った方がよいと思うでござる」
「え?今、謝ったよ?」
今度は外が騒がしくなってくる。フィレンツェアが言うには公爵家の侍女が迎えに来た合図らしい。でも、今は公爵家に戻ってる時間は無いかなぁ。すると〈腐った神〉が「それならば、拙者にお任せくだされ」と指を鳴らした途端に腐女子が勢揃いした。……忍者なの?
「公爵家の方々には腐女子たちにロットン帝国王女の名を使って伝言を持って行かせるでこざるよ。ついでにそこの変態もお引き受けいたそう。それよりふざけている暇はないでござる。お急ぎくだされ」
ふざけていたつもりはないんだけど、まぁ確かにヤバいよね。
「じゃあ、今から空間を繋ぐからみんな集まっ「お前たち、こんな所で何をしているんだ?!爆発騒ぎがあったから早くひな」あ、ついでに連れて行こうっと!この後落下するから精霊魔法よろしくね~」
偶々やって来たグラヴィスの首根っこを捕まえてボクの作った空間通路へレッツゴー!
いやぁ、さすがは真面目な先生だよね!詳しく説明しなくても状況で判断して通路を抜けた瞬間に精霊魔法をみんなにかけてくれたよ。
え?ジュドーの精霊には空間を繋げる魔法なんて使えないんじゃないかって?そりゃそうだよ。だってこれ魔法じゃないもん。ボクが持つ、ボクの力さ。聖女の聖なる力に近いかな?同じようにちょっとリスクがあるけどね。
おっと、空間を抜けるついでにあっちの結界にも切れ目を入れて侵入成功☆さすがはボクだね!ボク最強☆
でも、闇の力を浄化出来るのは聖女の力だけだ。本当なら使わせたくなかったけど、今だけは仕方がないかな。それに《《今は》》大丈夫だね。なにせ彼女の中には《《二つの魂》》があるから。さすがは2倍、あんなに大きな闇の力も真っ二つだ。うん、捕まってた精霊たちも解放されたみたいだ。
なーんてホッとしてたら、まさかの古代竜だったってオチだよ。まぁ、いいんだけどさ。




