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転生したら嫌われ者の悪役令嬢でしたが、前世で倒したドラゴンが守護精霊になってついてきたので無敵なようです  作者: As-me・com


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第16話 夢の世界




『ミツケタ……オマエダ!!!』






 遠のく意識の中で、私に向かって飛んでくるアオの体が淡い光に包まれていたのが見えた。



 危ないからダメよ、アオ。



 そう言おうとしたが、声が出ない。その時にはすでに私の意識はあの声の主に囚われていたのだった。












***








 気が付くと私は青い空に溶け込んでいた。そして、私ではない“誰か”の意識が私の中に流れてきたのだ。






『“彼”がこの世に生まれ落ちたの!私にはわかるわ、だってこんなにも強い魂なんだもの!』



 “私”は、とてもはしゃいでいた。それは何百年と待ち望んでいた魂を見つけることが出来たからだ。“彼”は“私”とは違う存在として生まれていたがそんなことは関係なかった。


 “私”は定められた形を持たない精霊だ。精霊とはこの世のあらゆるものに宿る超自然的な存在が意思を持った塊であり全てが自由なのである。それが自然であり当たり前だったので疑問に思った事などなかったが、人間として産まれたばかりの“彼”がそのせいで“私”の存在になかなか気付いてくれないのだとわかると、初めて目に見える形が欲しいと思ったのだ。


 それが、“私”の初めての欲望。


 だから……わずかな可能性すらも見逃さないように、“彼”の側を漂いながら“私”は観察したのだ。




 どんな姿なら“彼”が少しでも早く気付いてくれるのか。


 どんな姿なら“彼”がわずかにでも喜んでくれるのか。


 どんな姿なら“彼”がより確実に好意を持ってくれるのか。




 どんなに見つめても気付いてもらえないのは寂しかったが、その分ずっと“彼”の事を考えている事が出来た。みんながそれを知って、からかってくる精霊や理解出来ないと疑問に思ってくる精霊もいたがどう思われようと関係ない。



 だって、“私”が“彼”の強い魂にとても惹かれているのは本当なのだから。



 そして、そんな感情が“私”は楽しいと感じていた。


 それからまた何年も経ったが、“私”はなかなか満足のする目に見える形を手に入れることが出来ずにいた。理想とは程遠い自分の姿に落胆してしまう。だから思いきって相談してみることにしたのだ、“彼”に今度こそ気付いてもらえるように……。



 でもその相談相手、精霊の母とも言える存在はそれを許さなかった。


 “私”達を生み出した元となる自然の意識の集合体。それは精霊達を束ねる女王のような存在。母は“私”の理想の姿をしていたがその姿になれる方法を決して教えてくれなかった。


 母は嫉妬深く独占欲の塊だ。決して精霊達を手放さないし精霊達が彼女に逆らうことなどあり得なかった。きっと母は“私”に嫉妬したのだと思った。自分にとって特別な、強い魂を見つけた“私”の事が羨ましくて反対しているのだと。


 その母が『狂ってもいいのか』と叱ってきたが、そんな言葉などに意味が無い事はすでにわかっている。


 “私”は初めて母に逆らった。もうこれ以上の話など聞きたくない。嫉妬に狂っているのは母だ。

それにもう遅い……なぜなら“私”もすでに恋に狂っていたから。



 そして、“私”を許してくれない母の存在を────抹消した。


 まさかあんな小さな木の芽が母の本体だと知った時は驚いたが、元の大樹が枯れる寸前に新しい芽を出し命を繋いでいたようだった。母は自然そのものの一部だったのだ。


 “私”は協力してくれた仲間達とその芽を摘み取り、その力を取り込んだ。そして今度は“私”が女王となった。すると“私”の姿がまるで母のような……“私”の理想の姿へと変貌したのだ。


 しかし、母の力を取り込んだのになぜか完全には馴染まない。不完全な仮初めの力しか無かったがそれでも女王には変わりないはずだ。どうせ他の精霊達にはわからないだろうと思った。“私”と仲間達はこの秘密を共有した。



 こうして“私”は、やっと“彼”の前に完璧な目に見える形の姿を見せることが出来たのだ。





 その頃にはすっかり大人になっていた“彼”だったが、“私”の事を知るととても喜んでくれた。でもそのせいで“彼”はひとりになってしまったようだったが、“私”がいるから大丈夫だと思った。もう“彼”には家族も友人も必要ないのだから。



 “私”は言った。



『あなたの魂に惹かれて我はやってきた』と。



 他の精霊達がいつどこかから見ているかわからないので女王らしく振る舞わないといけなかった。仲間達からも母のような堅苦しい話し方を強いられたので“私”らしさはなくなってしまったが、それでも“私”は幸せだった。


 なぜなら、“彼”がどんどん“私”に夢中になってくれたからだ。“私”は“彼”の特別になれた気がした。



 “私”の精霊魔法のおかげで「賢者」と呼ばれ出したと喜び、もっともっとと“私”を求めてくれる。それが嬉しかったのだ。母の真似を続けるのは辛かったが、母の力を取り込んだおかげで“彼”の役に立てているのだ。


 それにどんなに辛くても願いの為なら我慢できる。……“私”はずっと“彼”とひとつになりたいと願っていた。


 “彼”に望まれるままに精霊魔法を使い続けていたある時、“彼”は言った。



「精霊達が人間が認識出来る姿になれば、強い魂の持ち主以外でも精霊を見ることが出来るのではないか」と。



 精霊は元来強い魂にしか興味を示さないのだが……“彼”が望むのなら叶えてあげたいと思った。


 それから“私”は精霊達に命令して回った。中には『面白そう』だと興味を持つ精霊もいたので“彼”には《《みんな》》楽しみにしていると、真実の中に少しの嘘を混ぜて伝えておいた。


 精霊にとって女王の命令は絶対だ。弱い精霊ほど逆らったりしない。“私”が母のように振る舞えば振る舞うほど面白いくらいに言う事を聞いた。例えばその存在を危うくすることさえも……。


 自由で気まぐれだからこそ、統一する唯一無二の存在が必要なのだと母が言っていたことを思い出したが、その時は意味を考えることなどなかった。



 “彼”は、精霊達の精霊魔法はそれぞれが違う能力で魔法の力の強さも違っている事、みんなが“私”と同じような姿になれるわけではないのだと初めて知ったと言っていた。それは“私”が女王だからだ。女王であった母の姿を模しただけの“私”に個性などありはしない。


 でも“私”は“彼”にとっての理想の精霊でいたかったので“彼”には内緒にしている。だって“彼”は“私”と対等か、それ以上の存在でありたいと願っているからだ。精霊の女王だとバレたらいけない。もちろん女王であった母に成り代わっていることもだ。なぜかそんな気がしていた。


 そして“彼”は言った。



「この世界に生存する生き物の姿になって人間を驚かしてやってはどうか」と。もちろん精霊には承諾させた。“彼”の理想を崩すのは許さない。


 全ては“彼”の望む世界にするために。


 だが、他の精霊達が“私”と同じ形になる事は出来ない。もはやこれは、“私”だけの特別な形なのだから。


 弱い精霊達は虫や小動物、せいぜいが大型動物などにしかなれなかったので“彼”か落胆しないか心配だったが、強い力を持つ精霊は人間の夢見る空想生物の形になれた。それを見て“彼”が喜んでくれたのでほっとした。


 “彼”の前には『面白いから』と形を決めた精霊達を出しておく。その楽しそうな姿に安堵するも、“彼”が勝手に接触した精霊達は“彼”にあまり良い態度を取らなかったようだった。それは“私”と秘密を共有する仲間達だったようだが、そのせいで“私”は“彼”に責められてしまった。



 精霊はある意味本能に忠実なのだと誤魔化し、説明してひたすら謝ったらなんとか許してもらえた。嫌われたらどうしようと悲しくなってしまう。仲間達にはキツく言っておかないと……。


 今は“私”が女王なのだから言う通りにすべきなのに、酷い裏切りだと憤りを感じた。



 そして“彼”は、“彼”の元へ訪れた人間と精霊を引き合わせるようになった。“私”から見たら相性はあまり良くなさそうな魂を持つ人間とばかりだったが、これ以上“彼”の機嫌を損ねたくない。さすがに強い精霊達は嫌がったので、弱い精霊達には我慢するように命令しておいた。


 しばらくは、ひたすら人間達が「さすがは賢者だ」と“彼”に感謝しだした。それは、ほんのわずかな時間だけだったが。



「こんな姿の精霊では格好が悪い」


「こんな地味な魔法ではなく、違う魔法が使いたい。なぜもっと便利な精霊と引き合わせてくれないのか」


「あいつの精霊の方が欲しい。自分で選ばせろ!」



 人間はいつしか、自分達が選ぶ側だと主張しだしたのだ。そんな弱い魂しか持っていないのに精霊を選ぼうだなんて、どこまで烏滸がましいのか。だから“彼”以外の人間は嫌いなのだ。


 あまりの酷さに精霊達からも不満が出てきた。中には人間へ増悪を抱く精霊まで……さすがに“私”もその不満に目を背ける事は出来なかったのだ。その時に気付いたのは、森の一部が枯れかけていることだった。精霊が自由を奪われたせいだ。“私”は女王として早急にこの事態をどうにかしなければならなかった。



 今、精霊達が本気で人間を排除する気になっては“私”が困る。なぜなら“私”は────。



 仕方が無く、“私”は精霊達と共に“彼”の前から消えることにした。



 





 そう、“私”は自分の体の異変に気付いてしまった。これは予感だが、きっと外れることはないだろう。


 だから、せめて最後に“私”の出来ることを出来るだけやっておこうと思う。


 “私”は精霊達に今までの傲慢な態度を謝った。私利私欲の為に利用したことを後悔していると。もう命令はしないから、どうか人間を嫌いにならないで欲しいと。精霊達は“私”の変化に気付き、許してくれた。





「これからは、精霊達が人間を選ぶのだ」




 大切な事を伝える為に再び“彼”の元へ行くと、“彼”はそう言った。


 こうして精霊達は気まぐれと自由の元、人間を選ぶようになった。例え強い魂でなくても精霊が気に入ればそれでいい。新しいおもちゃを手に入れたとはしゃぐ精霊もいれば興味本位で実験を繰り返す精霊もいたが、人間がそれを知るすべはない。


 これでいい。とにかく《《精霊がいて当たり前の世界》》さえ作れれば、後はなんとでもなるだろう。何よりも精霊が自由である事を周知しておかねばいけない。自由を奪われた精霊の心は自然界にも影響する。どちらかが消えなくてはいけない事態にだけはさせないを精霊と人間、どちらも存在してもらわねばならないのだ。


 これで“私”の大切なモノは守られるはずだ。これで、これからはずっと“彼”と一緒にいられる。もう離れる必要はなくなるのだ。


 “私”は全てを“彼”に話そうと決めた。きっと“彼”なら受け入れてくれると信じていた。ふたりの理想は同じなのだからと……。




 それがなのに、まさかこんなことになるなんて。




 ある意味願いは叶った。だが、“私”は“彼”とひとつになり……大切なモノを奪われたのだ。“彼”は変わってしまった。そして、今やっと“私”は母の言っていた事を理解した。あの言葉はこの事を言っていたのだと。


 母は決して嫉妬深くなどなかった。ただひたすらに“私”を心配してくれていただけだったのだ……。


 今更遅いだろうが、心の中で母に謝罪する。でも、大切なモノに対してだけは後悔したくなかった。




 取り戻さなくては……奪われた大切なモノを。その為には《《必要》》なのだ。


 あれから“私”は、ずっとずっと探している。《《必要なモノ》》を。“私”のその想いはとある本に魔法をかけた。いや、これは呪いか。


 そんなことはどちらでもいいことだ。問題は“彼”に気付かれていないかどうかなのだから。


 “彼”の大切なモノと“私”の大切なモノが《《違う》》とわかった時には遅かったのだ。



 それでもずっとずっと待ち続けているしかない。いつか現れる《《必要なモノ》》を────。





「あっ……」


 いつの間にか私は青空から弾き出されていた。そして、私の目の前にはさっきまで意識が流れてきていた“誰か”が立っていたのだ。


 その“誰か”は虚無のような大きな瞳を見開き、私を見てニタリと笑った。



『ミツケタ』



 それは確かにあの時の声で、どこからとも無く現れた無数の白い手が私を捕まえようとゆらゆらと動き出している。私は背すじが寒くなるのを感じて咄嗟にその場から逃げ出した。



 青空だったはずの場所はすでになく、辺りは真っ白な空間になっていた。だがその白さも追いかけるようにやってくる黒に染まっていく。



『ミツケタ……ツヨイタマシイ。ミツケタ、ミツケタ、ミツケタ……!!』



 手が、足が、次々と自由を奪われていく。無数の白い手はぐねぐねと伸びて私の体に巻きついてきた。すでに真っ黒になってしまった世界にこの白い手だけが異様に浮かんでいる。


「やめてぇっ!」


 私は逃れようと懸命にもがいたが締め付けは緩むどころかどんどんキツくなっていった。


『ツカマエタ』


 動けなくなった私の前に“誰か”は歪んだ口をさらに歪ませた。




 誰か助けて……!




 恐怖のあまり、思わずそう願ったその時。




『────────!』



 真っ黒な世界に一筋の光が差し込んだ。


 その眩い光の中から《《誰か》》が姿を現して私に向かって手を差し伸べてくれたのだ。


『イヤァァァァァ……!』


 光に照らされ“誰か”は苦しみ出し、白い手は怯んだように緩くなり力無く足元へと落ちていった。


「あなたは……」


 逆光で顔はよく見えないが、それは黒髪の……ひとりの青年だった。何かを私に向かって必死に叫んでいるがその言葉は聞き取れない。でも……。


 なぜかはわからないが、私は無我夢中でその手を掴み────その腕の中に飛び込んでいた。そこが、何よりも安心出来る場所だと知っているかのように。










***








「────目が覚めたようですね?」



 重いまぶたをうっすらと開くと、眩しい光に目が眩む。その光に慣れてくると真っ先に視界に入って来た目の前にいるその人物の姿を私はぼんやりと見ていた。



 真っ黒な髪をしたひとりの青年がそこにいたのだ。


「あなた、は……」


 長い前髪で目元が隠れていて顔はよくわからないが、その青年の薄い唇が安心したように息を吐いた。


 なぜかはわからないが、視線を動かすことが出来ずに私はただその青年を見つめてしまっていた。



「階段から落ちたのを覚えていますか?目立った怪我はないようですが、ずっと気を失っていたんですよ」


「────あなたが……あそこから、助けてくれたの…………?」


 私が未だぼんやりする思考の中でそう呟くと、「図書館では、災難でしたね……」と笑みを見せてきたのだが、それに反応して私の心臓が大きく跳ねた気がした。


「……っ」


 なぜだろうか、この青年の笑みを見ていると妙に落ち着かない気分になる。私はこの笑みを知っているのだろうか?いや、小さなフィレンツェアの記憶にもこんな黒髪の青年などいなかった。だってこの世界では、黒髪はとても珍しいはずだからだ。前世の聖女時代なら当たり前のようにいた黒髪の人間がフィレンツェアの記憶にはいなかった事に驚いたのをよく覚えている。


 ……でも、夢の中で助けてくれたのも黒髪の青年だった。あれは普通の夢ではないはず。ならば、あの青年にも意味があったのではないだろうか……。



 ドキドキドキ……と、自分の心臓の音がやたら大きく聞こえた。



 これは私の気持ちなのか、それとも小さなフィレンツェアの気持ちなのか。嬉しいような、焦るような……。聖女時代にも感じたことのないような、そんなよくわからない気持ちが私の中を駆け巡っていったのだった。


 








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