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転生したら嫌われ者の悪役令嬢でしたが、前世で倒したドラゴンが守護精霊になってついてきたので無敵なようです  作者: As-me・com


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第15話 侍女は語る(侍女・エメリー視点)


「お嬢様はとても集中されたご様子でその本をお読みになっておられました。《《白紙のページ》》も時間をかけてじっくりと……。なんでも前半の白紙のページを全て確認しないと後半の重要なページが捲れないように魔法がかけられているとかで、お嬢様は何もお言いになられませんでしたが、きっとその事を知っていて丁寧に白紙のページをご覧になっていたのだと思います。ですがその後、急にあの場を離れるようにと……アオ様と共にとても慌てたご様子だったのです。わたしはそのご様子に、もしかしたら新たな“呪い”ではないかとお嬢様にお聞きしたのですが……その後すぐに、階段から転落を────」


 わたしは奥様に事の顛末を説明する為に口を開きましたが、目の前でフィレンツェアお嬢様が階段から落ちる瞬間を見ていながら助けられなかった事に後悔して思わず俯いて下唇を噛みました。

こうでもしないと涙が溢れそうだからです。ですが、こんな役立たずの侍女には泣く権利すらありません。


「どうせなら、わたしが身代わりに落ちていればよかったんです……!わたしはお嬢様の身をお守りする事が出来ませんでした……申し訳ございません……!」


「……」


 目の前にいる奥様は黙ったままでした。わたしは奥様の目を見ることが出来ず、膝を折り頭を床に打ち付ける勢いで頭を下げます。


「本当に……本当に申し訳ございません……!!どんな罰でも受ける覚悟は出来ております……!」


 自分でもびっくりするくらいにその謝罪の声は震えていました。でもこれは罰が怖いからなんて理由ではありません。これは、フィレンツェアお嬢様の身にもしものことがあったらと……それが怖くて震えているのです。


 せっかくお嬢様の笑顔を見ることが出来たのに、これからもっとお嬢様の笑顔を見るはずだったのに……!と、そんな思いがずっと巡っています。


あの時、わたしの手が離れなければ……と。


「罰ならば俺に……!護衛でありながら肝心な時にお守り出来なかったなんて……!」


 護衛さんもわたしと一緒に頭を下げてくれました。でも護衛さんは荷物運びとお嬢様の帰り道の安全を守る為に馬車の確認をしてくれていたのです。罪ならばお側にいたわたしにこそあるべきでしょう。


「……言い訳はいらないわ。とにかく、その後に何が起こったか話してちょうだい」


 顔色を悪くした奥様にハッキリと促され、わたしは息を呑みました。確かにこれは言い訳です。誰かに罰して欲しいと願うわたしのエゴでしょう。


 わたしは息を整え、目を閉じました。


 その瞼の裏には、あの時の光景がはっきりと浮かびます。わたしの見た、あの恐ろしい光景が……。



「フィレンツェアお嬢様が転落した時、あの場では予想外の事が起こっておりました……」



 目を開けて、今度は真っ直ぐに奥様の目を見ることが出来ました。せめて真実を伝える……それが今のわたしに出来る精一杯の事だからです。


 これも言い訳になるかもしれませんが、その予想外の出来事によって起こった騒動はとてもわたしのような侍女や護衛の手に負えるものではなかったのです……。








***






「フィレンツェアお嬢様……!」


『フィレンツェア……っ!』



 わたしの叫び声とアオ様の声が重なって聞こえた時には、すでにフィレンツェアお嬢様の体はまるで見えない力に放り投げられたかのように弧を描いて階段から落ちていました。


 その時の衝撃でわたしの体も後方へと弾かれてしまい打ち付けた体が悲鳴を上げます。でも体の痛みなど……そんなことはどうでもいいと、急いで体勢を戻してわたしもお嬢様の後を追おうとしましたが、その時のわたしはまるで誰かに押さえつけられているかのように体が重くなり動く事が出来なかったのです。これも言い訳だと思われるかもしれませんが、決して足が竦んだりなどはしていません。見えない誰かに押さえつけられている…そんな違和感を全身で感じていました。


 それでもと、力を込めれば少しだけ動いた指先をお嬢様の方へと伸ばしましたが……時はすでに遅く、その手がお嬢様に届くことはなかったのです。



 ほんのついさっきまで、苦しそうにしながらもわたしの手を握ってくださっていたのに……なぜわたしの手はお嬢様をもっとしっかりと掴んでいなかったのかと悔やんでも悔やみきれません。


 あの時の絶望感と、大きく見開かれたお嬢様の湖の底のような深いアクアブルーの瞳が脳裏に焼き付いて忘れられませんでした。



 そして、アオ様がフィレンツェアお嬢様を追いかけるように勢い良くその場から飛び出されたのです。体が自由に動かないわたしにはそれを止めるすべなどありません。


「アオ様……っ」


 絞り出した声は周りの声にかき消されてしまします。


 するとアオ様のそのお体が淡く輝き出したと思った途端、なんと擬態されているトカゲの姿から本来のドラゴンの姿へと変わってしまわれたのです。どうやらアオ様はご自分の変貌に気付いておられない様子で必死にフィレンツェアお嬢様を追っておられましたが、徐々に輝きは弱まり途中から気を失ったかのように見えました。



 わたしは思わず公爵家のお屋敷で見た大きなドラゴンのお姿を思い浮かべましたが、その時の大きさはトカゲの時と変わらぬくらいでした。周りの人間達の視線は落ちたフィレンツェアお嬢様の方に集中していましたので今は気付かれていないようでしたが、それも時間の問題だろうと思いました。


 誰かが気付いた瞬間に大騒ぎになるに決まっています。そしてそうなれば、フィレンツェアお嬢様はもう望んでおられた平穏は手に入れられなくなるでしょう。


 フィレンツェアお嬢様はアオ様の正体が希少なドラゴンで、さらにはご自分の守護精霊だと世間に露見するのをとても嫌がっておられました。ずっと“加護無し”だと蔑まれていたお嬢様に守護精霊が……それもドラゴンだとわかれば周りの人間が手のひらを返すだろう事は目に見えていますが、フィレンツェアお嬢様はそれを望んでおられません。



 第二王子殿下と婚約破棄するためにも騒がれるのが嫌なのだと、その後の生活は憂い無くゆっくり過ごしたいのだと馬車の中でお話して下さったのに……。そして、アオ様の正体が周りにバレないように協力して欲しいとも。


 わたしはお嬢様のそんなささやかな願いすらも叶えてあげられないのかと、自分の無能さに嫌気が差しました。


 体が上手く動かず飛び降りれないのならば、せめてここから勢いをつけて転がり落ちればもしかしたらフィレンツェアお嬢様の下敷きになれるのではないか?そしてアオ様への注目を逸らすことが出来るのではと、悲しみと混乱で無茶苦茶な事を考えたその時。




 どこからとも無く現れた《《その方》》がお嬢様を抱きとめて下さったのです。



 階段の上から確認出来たのは、マントを着用した背の高い黒髪の青年だろうと言う事だけでしたが……その方の腕の中に無傷のお嬢様が存在する事実に思わず神に感謝しました。


 さらにその方はお嬢様に向かって何か呟いた後、時間差で落ちて来たアオ様も同様に受け止めたかと思うと自身のマントを脱いでお嬢様とアオ様を隠すように包んでしまわれたのです。慌てて周りの反応を見ましたが……アオ様の正体はバレていないようでした。もしも明らかにドラゴンの姿をしたアオ様の姿が確認されたならばもっと大騒ぎになっていてもおかしくありませんから。


 ただ……《《別の事》》では大騒ぎしておりましたが。もはやそのせいでフィレンツェアお嬢様への視線などほとんど無くなったように思えました。


 その騒ぎの原因については、わたしにもなんとなくわかりました。それは、《《わたし自身》》にも同じ現象が起きていたからです。





「お、おい……!オレの守護精霊はどこに行った?!」


「ワタシの守護精霊も……いつの間にかいなくなっているぞ?!さっきから呼んでいるのに反応がないなんて────」


「せっかく精霊魔法を使おうと思ったのに、なんで守護精霊が言う事を聞かないんだ?!いつもなら、追い払っても鬱陶しいくらいにすぐ側にくるのに……!ど、とこにもいないぞ?!」



 どうやら、この図書館にいる人間の全ての守護精霊がいなくなってしまったようでした。もちろんそれはわたしも同じです。いつもなら心で語りかければすぐに反応を返してくれていた……この世に生まれ落ちた時からずっと側にいてくれていた半身とも言える存在の気配がいつの間にか消えてしまっていたのですから仕方が無いかもしれません。そして、それに気付いた人間から焦りと不安の感情があっという間に広まっていったのでした。


 もはやお嬢様やアオ様の事を気にする余裕など彼らにはないように見えました。ただひたすらに自分の守護精霊はどこに行ったのかとわめくばかりの姿は滑稽でしたが、これはチャンスだとも思ったのです。


 すると、お嬢様を助けてくださったその方が動き出しました。一瞬わたしに視線を向けてきたのは合図だったのでしょう。その方が動き出すと同時にわたしの体を押さえつけていた違和感は無くなり体に自由が戻ってきました。体の節々は痛みを訴えておりましたが気にはなりませんでした。



 そしてわたしは急いで足を動かし、図書館から脱出することが出来たのです。



 とにかく早くフィレンツェアお嬢様の元へ行きたくて無我夢中でしたが、この騒ぎのおかげでわたしを咎める者はおりませんでした。なにせ図書館の司書達にも同様の事が起きていたので、わたしを捕まえようなんて考えている場合では無くなったようでした。



そして、騒ぎに気付き図書館の中へ戻ろうとしたもののごった返した人達に邪魔され困惑していた護衛さんを見つけることが出来たのです。


 護衛さんもご自分の守護精霊が消えた事に驚きはしていましたが、まずはフィレンツェアお嬢様の無事を確認せねばと必死だったようです。


 わたしは護衛さんに掻い摘んで説明をし、ふたりでお嬢様を探すと《《その方》》はすでに公爵家の馬車の中におられてわたし達を待っていたと言うのです。疑問は尽きませんでしたが、今はそれどころでは無いと騒ぎに乗じてなんとか帰路につくことが出来たのですが……。











「主治医様にも診てもらいましたが、フィレンツェアお嬢様のお体にお怪我はありませんでした。ですが……未だにお目覚めになられておりません。わたし達の守護精霊は戻ってきましたがその間の記憶が無いと言っていて原因は不明のままです。アオ様もドラゴンのお姿のまま意識がお戻りにならず……」


「……その助けてくれた青年は、アオちゃんの事をなんと言っているの?」


「それが、なにも……。ドラゴンのお姿を見ても特に興味が無いようでしたが……ただ、公爵家に頼み事があるとおっしゃられてまして……。奥様の判断をお伺いしなければとお連れいたしました」


 わたしの言葉に奥様は息を吐き「どのみちフィレンツェアちゃんの恩人ですもの、まずはお礼を……それと、とにかく話を聞きましょう。フィレンツェアちゃんはとにかく安静にさせて何か反応があればすぐに対応出来るように主治医を待機させておいてちょうだい」と使用人達に指示を出されました。


「主治医様はすでにそのつもりでお嬢様の隣の部屋に待機なされております。お茶をお出ししておきました。もちろんお嬢様の恩人の方も応接間にておもてなしさせていただいております」


 執事長様がそう言うと奥様は「ありがとう」と返事をされましたが顔色が良くなることはありません。きっとフィレンツェアお嬢様が心配で仕方がないのでしょう。それはブリュード公爵家にいる使用人達の全ても同じ気持ちでした。


 ちなみに旦那様はいつもの如く気を失って奥様の足元で泡を吹きながらピクピクと痙攣されております。早くお目覚めになって欲しいとは思いますが、旦那様よりもお嬢様の方が心配なので……しばらく放置させて頂きたいと思いました。




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