第14話 〈閑話〉神様の憂鬱
やぁ、みんな久しぶりだね!ボクに会えなくて寂しかったかい……?さぁ、お待ちかねのボクだよ!
えっ、お前は誰だって?そんな……神様だよ?!やだなぁ、もう!ボクって個性的だとか浮いてるとかよく言われるのに……忘れないでよね!?
おっと、そんなことより大変なんだ!なんと事件が起きたんだよ!ボクってば驚いたのなんのって……そう、まさかまさかの大事件なんだよ!
その事件は、ボクがいつものようにボクの大事な友達……悪役令嬢に転生してしまったフィレンツェアのいる世界を見守る為に仕事をこなしている時に起きたんだけど────。
「あ!」
そうそう!そういえば、この世界が元はボクが趣味で作った乙女ゲームの世界だって事はもう知ってるよね?でも間違ってあの子が転生してしまったせいでひとつのパラレルワールドになってしまった所までは話したかな。未完成だった世界設定やキャラクター達の事もパラレルワールド自身が都合良く作り変えてしまったんだよ。それこそ歴史ごとね。
それでも、元となってるのはボクが作った設定のままのはずだったんだけど……守護精霊がいないはずの悪役令嬢に最強のドラゴンが守護精霊となって付いてきてるなんて、せっかくの基本設定をガン無視されてる気分なんだよぉ!
まぁ、そのおかげで悪役令嬢の死亡フラグを回避出来る可能性が出てきたから結果的には良かったんだけど……そりゃボクだってあの子が悪役令嬢に転生するってわかってたらもっとなんかこう、どうにかしてたよ!
それにしてもさ、確かに細かい設定を作ってなかった所もたくさんあったけど!まさか“世界”が勝手に補正するなんて思わなかったんだよ。おかげでバグだらけさ。
だってボク、守護精霊の歴史なんて全然作ってなかったんだもん!いやほんと、乙女ゲームにそんな暗い世界設定とかいる?!攻略対象者達の過去とかはまぁ……その場のノリと思い付きで色々したけどね。あの時はなんだかテンション上がっちゃってたからさ。あの子が止めてくれなかったらもっと酷い事になってたキャラクターもいるけど、ちゃんと参考資料も見ながら設定したからそんなに酷い事にはなってないはずなんだけどなぁ。ほら、参考にした本なんかはここに並べて……。
バサッ
おっと、手が当たって本が落ちちゃったよ。あ、これは乙女ゲームの攻略対象者の設定を作る時に悩んでいたら参考資料にしてって他の神がくれた大事な本じゃないか。貴重な本だからカバーは絶対に外すなって言われてて……あれ、落ちた拍子にカバーが取れちゃって中身が────。
【これからの男は顔じゃなくって中身で勝負しないとね!~恋人にしたくない顔だけ男ランキング!こんな男はやめておけ!~】
「・・・・・・?!」
ボクは【ときめき!素敵な乙女ゲームの世界♡~理想の王子様特集~】と書かれたカバーの下から出てきたその本の本当のタイトルに言葉を失ってしまった。顔は相変わらず見えないのになんかわかったって?そりゃそうだよ。それ位に衝撃的だったんだよ!
そしてボクにこの本をくれたとある神の事を思い出したんだ。
あんの……〈いたずらの神〉ぃぃぃぃぃ~~~~!!!
今から思えばなんだかニヤついていたような気がしたし、ふざけた態度だったような感じはあったんだけど(光ってて表情は見えないんだけど)あの時はボクの趣味に興味を持ってくれた〈神〉がいたんだと嬉しくなって疑いもせずにこの本を受け取ってしまったんだ!そういえばその後、〈いたずらの神〉はダークホールに左遷されてたな。何やらかしたんだ、あいつ。
って言うか、今はそれどころじゃないよ!
ボクってばこの本に載ってるキャラクターデザインを思いっきり参考にしちゃったんだよ?!ついでに通りすがりの〈腐った神〉がゲームの世界を作ってるって言ったら「それならば是非、筋肉✕知性派眼鏡の組み合わせをオススメいたすでござる!これは今の腐女子に最先端で大人気なカップリングござるよ♡幼馴染みの関係なら尚良しですので!(ジュルッ)」って教えてくれたから「腐女子」が何かはよくわからなかったけど女の子に大人気だって言うなら乙女ゲームに絶対採用でしょ!とてんこ盛りにしたのに……だ、大丈夫だったのかな?!
え?〈腐った神〉は何者かって……もちろん神様だけど?どれかのパラレルワールドで“お腐り様”って神様として信仰されてるそうなんだ。そのパラレルワールドは〈腐ってる世界〉なんだって。ボクの管轄外だから何が腐ってるのかは知らないんだけど、そういえばいつも頭からすっぽり黒フードを被ってて見つけにくいし普段は引き籠もりだから滅多に出会わないんだよね。たまによくわからないワードを通りすがりに呟いていくようなちょっと変わり者だから他の神様とはあんまり仲良くないんだけどさ。ボクが「心が煌めいちゃうようなゲームの世界を作りたいんだ」って言ってるのを聞きつけてわざわざアドバイスしてくれたんだから悪い神ではないと思うんだけど……あぁ、でも今はそれどころでもないよ!
「あぁ~!ど、どうしよう?!もうパラレルワールドとして認定されちゃったから今更キャラクター設定の変更とか出来ないし……フィレンツェアが困ってるかも『いつまであたくしをお待たせし続けたら気が済みますのぉぉぉ?!』ほぐぁっ?!」
おもわぬ展開に思わず慌ててしまっているボクの腹部に“この子”が突進してきた。実はさっきボクの前に突然現れたんだよね。
“この子”は赤く燃え盛る炎のような姿をしているんだ。これは魂の姿なんだけど、なんというかその魂の性質を表した姿なんだよ。“あの子”は天界にいる間は前世の聖女の姿をしていたけれど、それは魂が強いから出来たことなんだ。普通の魂なら意思のない小さな光の塊みたいな、そんな存在のまま次の転生を待ってたりするからね。無理をすれば消滅だってありうる。それが天界さ。魂が自分の意思や姿を保ったまま天界に居残るのはそれ位にすごいことなんだ。だからこそ強い魂は貴重なんだけど、まぁ、“あの子”はボクのお気に入りだったから特別待遇だったのは認めるけどね。
……つまり、魂の姿のままとはいえボクの許可もなく意思を持つどころか会話をしていてさらにボクに攻撃までしてくるなんてあり得ないんだよ。“あの子”程じゃなくても、それなりに強い魂でなければ無理な事なんだ。
ほら、大事件でしょ?
それにさっきから文句ばっかり言ってくるから困ってたんだけど……それにしても神様に対して酷くない?おかげでちょっと冷静にはなれたけどさ。
「いてて……、ちょっと忘れてただけなのに何するのさ。酷いなぁ」
『酷いのはあなた様の方でございますわ!忘れないで下さいませ!!あたくしにとっては命懸けの大切な事ですのよ!だいたいあなた様があたくしの“大切な方”の魂を《《あんな目に》》遭わせたせいですのよ??!』
「だからそれはさっきも言ったけど、色々手違いがあって───『問答無用でございますわ!!』ぎゃふん!顔はやめてぇ?!」
思いっきりグーパンで殴っておいて“その子”は『あら、失礼致しましたわ。そこがお顔でしたのね。やたらピカピカしてらっしゃるからどこがどこやらわからなかったんですもの』と肩を竦めた。いや、光ってても顔がどこにあるかはわかるでしょ?!と言うか、魂のままの姿のはずなのになんでパンチ繰り出せるの?!そっちこそ手とかどこにあるのさ?!とにかく、神様に暴力とかダメ!絶対!
『とにかく、そんなことはどうでもよろしくてよ!「よくはないよ?!」まぁまぁ……落ち着いてくださいませ?なにも、あたくしも鬼ではございいませんわ。無理難題を押し付けてあなた様に言いなりになれだなんてそんな恐れ多い……。
実はご提案したい事があって馳せ参じましたの。ねぇ、あなた様……あたくしと取り引き致しませんこと?』
「取り引きだって?」
“その子”はにっこりと笑うと(魂のままの姿なのでそれこそ表情なんてないんだけど、笑ってるように見えるから怖いよね)とんでもないことを言い出したんだ。ボクはその内容に思わず息を呑んでしまったよ。
『────つまり、あたくしはあなた様のお役に立つ所存です。《《この方法》》ならば、あなた様の憂いを晴らすお手伝いが出来るのではないでしょうか?』
「そ、それって本気なの……?もし失敗したら君だって無事じゃ済まないんだよ。それこそ魂が消滅する可能性だってあるし、消滅を免れたって二度と転生も出来ずブラックホールを彷徨う事になるかもしれないんだ。もしそうなったら、ボクにだってどうする事も出来ないよ」
『それはもちろんでございますわ。それにあたくしは“あの方”の為ならどんな覚悟もありますの。それにきっと、あたくしになら出来ますわ────“世界の修正”のお手伝いが。これでもあたくし、お約束したお仕事はちゃんと致しますのよ』
突拍子もない提案だったけれど、確かにその《《方法》》ならば可能性はあるかもしれないと思ったよ。ただその分リスクはかなり大きいかな。なにせ、それはもう色んな〈神〉の目を掻い潜らなきゃいけないし、もちろん神々の法律なんて全部破っちゃうよね。
もしもそれがバレたらボクだって無事じゃ済まないだろうし、それくらいヤバい事をしようと持ち掛けられてるって事さ。
『あら、何を悩んでおられますの?これは千載一遇の好機でございましてよ?それにあなた様とあたくしの被害は一致しているはずでございますわ。ただあなた様がほんの少し手を貸してくだされば────あたくしの魂を“あの世界”に転生させて下さればよいだけですのよ。ただ、現在ではなく時間を遡って過去へ……“あの方”の魂が転生した時間軸へあたくしを送り込んで下さいませ』
「……確かに、出来ない事はないけど。でもあの世界はすでにボクの手を離れたパラレルワールドなんだよ。時間操作が成功したとしても、君の魂が世界のどこに転生するかまではわからないんだ。必ず君の望み通りに転生出来るとは限らないんだよ」
『それはわかっておりましてよ。それでもあたくしの“強運”で、あたくしは願いを叶える自信がありますの……だってあたくしは“強運”の持ち主ですもの!』
“この子”、自分で自分の事を強運だって言ってるよ?!しかもドヤ顔(の雰囲気で)二回も!
「な、なんでそこまでして……魂の生存の危険を冒してまで転生したいだなんて言うんだい?!確かに君の提案はボクには魅力的だけど、君のリスクが多すぎるよ!君の魂の強さなら、その内ちゃんと転生手続きがされるはずなのに……」
『そんなの、決まっておりますわ。あたくしは、あの方の為に存在しているのですもの。それなのにあの方はあたくしを置いて行ってしまいましたのよ、それならばあたくしはどんな手を使っても追いかけてみせると誓っていますので……こう見えてあたくし、とっても一途ですのよ?』
そう言って魂の姿がさらに燃え上がると、自分で言って照れたのかモジモジと体をくねらせたんだ。(たぶん)
でも、“この子”の必死さは伝わったよ。ふざけているわけでもなく、本気なんだって気持ちはよくわかったんだ。
でも────。
『だってこれまでずっとお食事の時もおトイレの時も水浴びの時も戦闘の時も、いつもあの方の事を背後からこっそり見つめてテレパシーで愛を伝えて参りましたのに全然振り向いてくれませんでしたのよ!それなのに告白の答えもくれないまま違う世界に行ってしまわれるなんて酷いですわ!しかも転生なされたという事はこれまで記録してきた身長体重、爪の伸びる速度等の三百年分のデーターも全て最初から記録し直さなくてはいけませんもの!それにあたくし、死ぬ時はあの方の足の裏を全身で感じながら踏み潰されて死ぬと決めていますのに!!』
────こんな生粋のストーカーなんかを送り込んじゃって本当に大丈夫なのかな?しかも魂の形はこんなだけど、この魂の本来の姿は……。
ボクがちょっとだけドン引きしたのは秘密だよ。
すると、なにやらため息をついて首を傾げてからボクをジッと見てきたんだ。(たぶん)
『別に断っても構いませんけれど……あたくしとの取り引きに応じなければ、あなた様にはパラレルワールド内に顔だけの残念イケメンを量産する趣味があるって言いふらしますわ、変態神様の異名を広げますわよ』
「え、ちょっ、もしかしてボク脅されてる?!」
『さらにあなた様に取り憑いて、耳元で毎日悪口を呟きましてよ。うふふ、いつまで耐えられますかしら……?』
ゴゴゴ……と笑顔の圧を感じ、ボクはがっくりと膝をつくしかなかったんだ。神様に取り憑こうだなんて本気なの?!とは思ったけれど、“この子”ならやりかねない気がするよ!
ううっ、耳元で毎日悪口を言われるなんて耐えられないよ!
「もぉっ、わかったよ!それなら、《《あのキャラ》》について頼みたい事があるんだけど……。どの場所に転生しても君なら必ず会えると思うから……こうなったら一蓮托生だよ」
そう言ってボクがとあるアイテムを託すと、『お任せ下さいませ』と魂が揺らめいた。




