悪役令嬢への攻撃
「カナ、呼び出してすまない」
神妙な表情のシオンと、その隣で仁王立ちするレイラ。
嫌な予感しかしない布陣だ。
「大丈夫ですわ。それで、ご用件は……?」
――まあ、だいたい察しはついてるけど…どうせ私を嵌める気なんでしょ?
「実は……レイラのドレスが切り裂かれていたらしくてな。
どうやら、嫌がらせを受けているようなんだ」
……へぇ。
その言い方、私が犯人だって匂わせてません?
――完全に冤罪ですから!
「ち、違うんです……!
私も噂話など信じてはいないのですが……カナ様を見た、という目撃者が現れまして……」
ああ、なるほど。
証人まで用意済みってわけね…
以前の私なら、ここで感情的になって、ヒステリックに泣き叫んで――
自滅コース一直線だったでしょう。
でも、今の私は違う。
「レイラ様の大切なドレスが切り刻まれた……
そして、その犯人が私だと?」
静かな声で問い返すと、レイラはわずかに眉をひそめた。
私は胸の前で両手を重ね、ゆっくりと息を整える。
「神に誓います。
私は、レイラ様のドレスに指一本触れておりません」
その言葉に、レイラの肩がぴくりと揺れた。
――ふふ。
いつもみたいに取り乱さない私、そんなに意外?
悲しげに視線を落とし、そっと涙を浮かべてから、私はシオンを見つめる。
(儚げアピール?
ええ、これくらい私だって出来ますとも)
「……すまない。
最初から疑うような言い方をしてしまって……」
シオンの声が、明らかに私寄りになる。
一方、レイラは目に見えて追い詰められていた。
……あ、ちょっと震えてる?
私は間髪入れず、畳みかける。
「身に覚えはありませんが、
ドレスが切られたのが事実なら、犯人は存在しますわ。
私を見たという方を、こちらへお呼びいただけませんか?」
言葉を選びながら、静かに続ける。
「このまま、疑われたままでは……少し、辛いです」
レイラの表情が、明らかに歪んだ。
「そうだな。
俺も、カナが疑われたままなのは耐えられない」
――完全に、形勢逆転。
「……わ、私は……もう気にしておりませんわ!」
レイラは慌てて首を振る。
「誰かを犯人だと決めつけてしまうことが、
とても苦しくて……苦しくて……」
おお、見事な方向転換。
「母上の形見なのだろう?
それでも、いいのか?」
「はい……、騒ぎ立ててしまい申し訳ありませんでした」
そう言うと、レイラは深々と頭を下げ、
「……カナ様、申し訳ありませんでした」
一息に謝罪を済ませ、そのまま踵を返して立ち去っていった。
……嵐のようね。
残された私とシオンは、しばし呆然。
「カナ……本当に、すまなかった」
肩を落とすシオン。
少しだけ、可哀想になってきた。
「別に、気にしてないわ」
そう答えると、彼はほっとしたように笑って……
私の両手を、ぎゅっと握った。
……え?
ちょっと待って。
今の、キュンってしたんだけど!?
恥ずかしさに頬が熱くなるのを感じていると、シオンが、そっと私の頬に手を伸ばす。
ドクン、と心臓が跳ねた。
――今まで、婚約者なのに、こんなふうに触れられたことなかったのに。
距離が近い、近すぎる……
(え、来る?
これ、来ちゃう?
ファーストキ――)
思わず、ぎゅっと目を閉じた、その瞬間。
「……あ。睫毛、取れてた」
「………………は?」
ぱちり、と目を開く。
……え?
私、完全にキス待ち顔で目を閉じてたよね!?
「ち、違っ……!!」
一気に顔が熱くなり、私は耐えきれずその場から駆け出した。
「……カナ!?」
背後から呼ぶ声が聞こえるけど、恥ずかしさが限界で、振り返れなかった。
――ああもう!
心臓が、うるさすぎる!!




