腹黒ヒロインの策略
◇◆レイラside◇◆
……え?
ちょっと待って。
あの豚、何かおかしくない?
いつもならヒステリックに叫び散らかして、見苦しく泣き喚いて、それを見たシオンが一気に冷める――
そこまでが、完璧な流れだったはずなのに。
(叫んでくれないと困るんだけど!?
私のシナリオ、全部崩れるじゃない!!)
苛立ちを隠しながら、ミチに視線を送る。
すぐに意図を理解したらしく、彼女は前に出た。
「可愛らしい顔をして、シオン様に近づいて!
あなたは平民でしょう!?
身分をわきまえなさい!」
――そう、それよ。
(もっとよ!
周囲が「可哀想……」って顔をするくらい、派手にやりなさい!)
罵倒のタイミングを見計らい、私は涙を浮かべる。
声を震わせ、肩をすくめる。
(……ふふ。
私、女優になれるんじゃない?)
しかも運がいいことに、私の“下僕”が上手くシオンを呼びに行ってくれたみたい。
完璧なタイミングで、彼が現れる。
「ぐすっ……
シオン様、申し訳ございません……私が、カナ様を怒らせてしまったようで……」
涙を零し、必死に言葉を紡ぐ。
「平民の私が、シオン様と仲良くさせていただくのが、
お気に召さなかったみたいで……
身の程知らずだと、罵られてしまいました……」
――よし。
これで豚がヒステリックに爆発して――
……って。
……あれ?
何で、泣き叫ばないの?
何で、あんなに大人しいの?
(拍子抜けなんだけど……)
すると、ようやく豚が口を開いた。
……いや、待って。
何、その姿。
背筋を伸ばし、誇らしげに立つその様子に、一瞬、言葉を失う。
「シオン、ごめんなさい。
私が悪いの」
は?
「確かに、ミチ様が誤解から彼女を厳しく責めてしまいました。
ですが、それは私を思ってのこと……どうか、お許しいただけますか?」
……なに、それ?
更に追い打ち。
「私は、シオンを信じております」
ーーーはぁ?
「もし、私以外の方を想う日が来たなら――
その時は潔く身を引きますわ」
……え?
ちょっと待って。
この豚、どうしちゃったの?
シオンは、豚に嫌気がさして、私に靡くはずだったのに。
気づけば――
二人は、穏やかに笑い合っている。
その光景に、思わず息を呑む。
隣でミチも同じように感じたらしく、小声で呟いた。
「……豚に、何があったんでしょう?」
「私が知るわけないでしょ」
苛立ちを隠さず、吐き捨てる。
「それに、全然太ってないじゃない。
いつもの厚化粧もしてないし……」
視線を細める。
「豚は、豚のままで存在してくれないと困るのよ……」
ミチと視線が交わる。
お互い、同じことを考えているのが分かった。
……まぁ、いいわ。
「今回は、華を持たせてあげる」
口元を歪め、心の中で嗤う。
(本番は、これからよ)
――勝負は、ここから。
◇ ◇ ◇
「ど、どうしたんだい?」
「あ……シオン様……」
潤んだ瞳で、上目遣いに彼を見つめる。
――ほら。
案の定、頬を赤らめるシオン。
(やっぱり男なんて、こんなものよ。
常に浮気願望、持ってるんだから)
「実は……先ほど、ドレスが切り刻まれているのを見つけまして……」
声を震わせる。
「母の形見なんです……
誰かに、悪戯されたみたいで……ぐすっ」
シオンは私の顔を覗き込み、考え込む。
「……もしかして、誰かに嫌がらせを?」
私は俯き、ほんの少しだけ間を置く。
「……カナ様……いえ、違います。きっと、誤解かと……」
困惑する彼の表情を見て、
私は、思わず口元を緩めた。
(ふふ……
まだ終わってないわよ、カナ)




