腹黒ヒロイン登場
久し振りに学園へ顔を出した。
体調不良という名目で、しばらく休んでいたのだ。
「カナ様、お体の具合はいかがですか?」
――出た。
出ましたよ、
私の取り巻き・腹黒友人トリオ。
(はいはい、どうせ心配なんてしてないでしょ?
だってあんた達、腹黒ヒロインの手先だもんね)
けれど、私は貴族、顔に出してはいけない。
にこやかに微笑み、上品に一礼する。
「ご心配をおかけしました。
ミチ様、ロン様、ネネ様」
(※心の中では舌を出しています)
「それにしても……カナ様、少しお痩せになられたのでは?」
「まあ!
わたくし、カナ様に召し上がっていただきたくて、お菓子を持ってきましたの!ぜひ――」
はいはい来た来た。
お世辞+太らせコンボ。
私は優雅に扇子を口元へ。
「ありがとうございます。
ですが、体調の件で医師から甘い物を止められておりますの。
お気持ちだけ頂戴いたしますわ。皆様でどうぞ?」
――完璧。
私がいつものように食いつかないので、三人の顔に明らかな焦りが浮かぶ。
(知るか)
「そういえば、ご存じ?
カナ様の婚約者・シオン様に、平民の女が付きまとっているらしいですわ!」
……ああ、この流れ。
以前の私なら、
怒り狂って殴り込みに行っていた。
でも、もう同じ過ちは繰り返さない。
「シオン様を信じておりますので、そのような噂話はお控えください」
静かに、けれどはっきりと発言する…
「シオン様にも、その方にも迷惑をかけてしまいますわ」
三人とも、呆然。
(……うん、反応が最高)
笑いそうになるのを、扇子で必死に堪える。
「では、失礼いたします」
背を向けた瞬間、
心の中でガッツポーズ。
(勝った!!
腹黒トリオに勝った!!)
◇ ◇ ◇
裏庭に出て、深く息を吸い込む。
はぁ……。
少しはギャフンと言わせられたかな…
高揚する頬を手で煽りながら、
私はふと、大きな樹木を見上げた。
――よし。
ドレスの裾をたくし上げ、軽やかに木を登る。
(田舎育ち、なめないで)
前世でも、高い場所が好きだった。佐藤花菜の名残かもしれない。
太い枝に寝転び、ぽかぽかの日差しに身を任せると――
そのまま、眠ってしまった。
◇ ◇ ◇
「……しまった!」
目を覚まし、慌てて降りる。
こんな姿を誰かに見られたら、どんな噂になるか分かったものじゃない。
周囲を確認し、そそくさとその場を離れた。
――その頃。
腹黒ヒロインは、私を必死に探していたらしい。
(嫉妬した私が現れなくて、焦ったのかな?)
「カナ様!どちらにいらっしゃったのですか!」
ミチに腕を掴まれ、強引に連れて行かれる。
……なにこれ?
ストーリーの強制力?
目の前には、ピンク色の髪に、潤んだ瞳。
――腹黒ヒロイン・レイラ。
(ああ……
子鹿と熊なら、そりゃ子鹿を守るよね)
嵌められたか……
「あ、あの……カナ様。
私を探していたと聞きまして……」
震える声、保護欲全開オーラ。
するとすかさず、ミチが噛みつく。
「可愛らしい顔をして、シオン様に近づいて!
あなたは平民でしょう!?
身分をわきまえなさい!」
……はい、私の台詞に仕立て上げられました。
そして――
お約束通り。
「どうしたんだ、カナ?」
シオン登場。
(子鹿を助けないの?
私は熊だよ?)
言葉に詰まる私を尻目に、子鹿の独壇場が始まる。
「ぐすっ……
私が、カナ様を怒らせてしまったみたいで……
平民の私が、シオン様と仲良くするのが許せないと……」
……言ってない。
罵ったの、ミチだし……
シオンの表情が歪む。
――私の言葉を待っている。
私は、胸を張った。
背筋を伸ばし、静かに告げる。
「シオン、ごめんなさい。
私が悪いの」
一同が息を呑む。
「確かに、ミチ様が誤解から彼女を厳しく責めてしまいました。
ですが、それは私を思ってのこと……どうか、お許しいただけますか?」
ミチの間抜けな顔に、
笑いを堪えるのが大変だった。
「私は、シオンを信じております」
はっきりと。
「もし、私以外の方を想う日が来たなら――
その時は潔く身を引きますわ」
そして、微笑む。
「婚約者としてだけでなく、
幼馴染としての絆を、私は信じています」
――沈黙。
やがて、シオンが口を開いた。
「……すまなかった。
噂は知っていたが、否定せず放置していた」
レイラへ向き直る。
「すまなかったな、レイラ」
そして――私へ。
「カナ。
俺にはお前だけだ。信じてくれ」
……え。
子鹿じゃなくて、熊を選んだ?
私は、静かに頷いた。
「はい。
信じております」
――第一ラウンド、完全勝利。




