逆行への覚醒③
修道院行きが決まると、私の手首に繋がれていた鎖は外された。
やっと自由になれた――そう思ったのも束の間、
それはシオンの「最後の恩恵」だと役人から聞かされる。
……だからといって、彼に感謝する気持ちなど、欠片も湧かなかったけれど。
そうして私は、修道院へ向かう馬車に乗せられた。
ガタガタと揺れる馬車の中で、これから始まる孤独な日々を覚悟していた、その時……
突如、馬車が急停止した。
外が騒がしい。
嫌な予感がして、息を潜める。
馬車の外から、下卑た笑い声が聞こえた。
山賊――
そう判断するのに時間はかからなかった。
しかも、荷台を操っていた御者の姿はない。
どうやら、私を置き去りにして逃げ出したらしい。
馬車の中に残されたのは、私一人。
「はぁ……どんだけの美人が乗ってるのかと思えば……」
リーダー格らしき男が、私をじろじろと見回す。
「……なんだよ、この豚か」
胸が、ぎゅっと締め付けられた。
「これじゃ奴隷としても売れねぇし、娼館にも出せねぇな。
顔を見られちまった以上、生かしちゃおけねぇ」
男は剣を抜き、無造作に肩に担ぐ。
「悪く思うなよ…
恨むなら――世の中を恨め」
振り上げられた剣。
――死ぬ。
そう覚悟した瞬間。
ピカッ――と、視界が真っ白に染まった。
強烈な光に目を開けていられず、そのまま私の意識はぷつりと途切れた。
※※※※※
次に目を覚ました時、
私は柔らかなベッドの上に横たわっていた。
「……?」
思わず、勢いよく上体を起こす。
目に映ったのは――
見慣れた、学園内の自室。
「……え?」
混乱していると、扉が開き、
聞き慣れた声が響いた。
「お嬢様、お目覚めですか?」
入ってきたのは――
メイドの、マリア。
「……マリア?」
喉が、ひくりと鳴る。
だって、彼女は――
「な、なんで……生きてるの……?」
私の言葉が可笑しかったのか、マリアはくすくすと笑った。
「お嬢様、いつ私が死んだと思ってるんですか?
もう、しっかりしてください」
そう言って、机の上に皿を置く。
「今日のお菓子は、これだけですよ?」
そこには、私の大好物だったクッキー。
マリアと私は、年も近く、
姉妹のように過ごしてきた。
いつも優しくて、
時には厳しく注意してくれる、頼れる存在。
――彼女は、本来なら三年前、私のためにお菓子を買いに行く途中で事故に遭い、亡くなるはずだった。
「……私、夢を見てるのかしら」
ぽつりと呟くと、マリアは心配そうに私を見る。
「お嬢様、大丈夫ですか?
顔色が悪いようですし……
今日のシオン様とのお約束、延期しますか?」
――シオン?
その名前を聞いた瞬間、心臓が跳ねた。
「……え?」
断罪されて、修道院送りになって、山賊に襲われて――
「ねぇ、マリア……今、私……何歳なの?」
恐る恐る尋ねると、彼女はきょとんとして答えた。
「先日、十四歳になられましたけど?
まさか、ご自分の年齢まで忘れてしまったんですか?」
十四歳――。
私は勢いよくベッドを降り、姿見の前に立つ。
そこに映っていたのは、
まだ幼さの残る、自分の姿。
断罪された時の、
百二十キロを超えていた体とは明らかに違う。
……とはいえ、決して細くはない。
たぶん、七十キロ前後。
それでも――
お腹が邪魔で足元が見えないほどではない。
「……よかった……」
胸をなで下ろす。
――もしかして…
これって……逆行、した?
なら。
断罪も、
マリアの死も、
すべて――回避できる。
私は、拳をぎゅっと握りしめた。
「……今度こそ」
二度目の人生は、
絶対に、奪われない




