腹黒ヒロインの憂鬱
◇◆レイラside◇◆
……な、何なのよ、あの男…
――『俺も転生者だ』
……はぁ?
私と、同じ“転生者”ですって?
理解が追いつかないまま呆然としていると、ふいにカナと目が合った。
その瞳は――哀れむようで、同情するようで。
まるで「もう勝負は終わった」とでも言いたげな目。
隣でルキが口元を歪める。
……ええ、分かってる。
あの男、確実に私を嘲笑ってる。
どうして、こんなことになったの?
そもそも、ここは何の世界なのよ。映画みたいに、どこか他人事で…
私はずっと“観客”のつもりでいた。
――まさか、自分がその中に落とされるなんて。
◇ ◇ ◇
冷たい床。
手錠で繋がれた両手。
牢屋の中で横たわる私は、ひどく惨めだった。
……私は、ヒロインでしょう?
それなのに、どうしてこんな場所にいるのよ。
この結末は、本来なら――
“あの女”が辿るはずだったのに。
冷え切った身体を抱きしめていると、鉄格子の向こうに人影が立つ。
……カナと、ルキ。
「……大丈夫?」
心配そうな声。
その一言だけで、虫酸が走った。
「……で?何の用?」
吐き捨てるように言うと、ルキが静かに口を開く。
「一言だけ言っておく。
今後一切、俺とカナに近づくな!それだけだ」
……ああ、なるほど。
わざわざ嘲笑いに来たってわけね。
「馬鹿みたい。
二人して、そんな同情に満ちた目で見ないで。
不愉快だわ」
すると、今度はカナが前に出た。
「……あなたに言いたいことがあるの」
その声は、驚くほど穏やかだった。
「私は、一度あなたと同じ目に遭ったわ。
でもね、悔い改めたら……奇跡が起きたの」
……何、それ。
「あなたにも奇跡が起きるといいなって、思うの。
それから――ここは、ゲームでも小説でもない。
現実の世界よ」
淡々と、でもはっきりと。
「誰かが傷つくってことを、分かってほしい。
……でも、ひとつだけ。お礼を言わせて」
「はぁ?意味分かんないんだけど…あんたも転生者なの?」
動揺を隠せない私に、カナは続ける。
「前の世界では出会えなかったルキに出会えた。
それは、ある意味……あなたのおかげだから」
そして――
深々と、頭を下げた。
「……ありがとう」
……本当に、意味が分からない。
◇ ◇ ◇
翌日、私は予定通り修道院へ送られることになった。
――なるはずだった。
道中、山賊に襲われるまでは……
「……最悪なんだけど」
荷車が止まり、視線を感じた瞬間。
山賊の男が、いやらしく笑った。
「お、上玉じゃねぇか。
久しぶりだな、こんなべっぴん」
乱暴に顎を掴まれ、顔を上げさせられる。
「殺すな。連れていけ」
気がつけば、私は奴隷として山賊の荷車に乗せられていた。
……もう、どうとでもなれ。
そう思いかけた、その時。
「大丈夫か!?」
――目の前に現れたのは、シオン。
元貴族だけあって剣の腕はまだ健在らしく、山賊と刃を交える。
……助かった。
そう、思った。
けれど。
現実は、小説より奇なり。
「……なんで、あんたも捕まってるのよ……ここは助ける側でしょ?」
最悪のオチとして、私たちは揃って奴隷商人に引きずられた。
脂ぎった小太りの男に“夫婦”と勘違いされ、まとめて買われる。
最初は、ただ嘆いていた。
でも――生きるためには、働くしかない。
そこで、ようやく理解した。
……私は、ヒロインでも悪役でもない。
ただの、モブなのだと。
それを受け入れた瞬間、
不思議と肩の力が抜けた。
気づけば、シオンとの間に子どもが生まれ、
小さな、でも確かな幸せがそこにあった。
奴隷になって、落ちぶれたかもしれない。
それでも――
今の私は、案外……幸せなのかもしれない。




