腹黒ヒロインの誤算
◇◆レイラside◇◆
……はぁ?
どうして、ここでルキ様が出てくるのよ。
――あり得ない。
隣国の皇太子ルキも落とす予定だったのに。
全てが狂ってる。
私の完璧なシナリオが、音を立てて崩れていく。
隣を見ると、シオンが魂の抜けた人形みたいに立ち尽くしていた。
「俺は……どうしてカナと婚約破棄してしまったんだ……」
……は?
今さら何を言ってるの、この男。
「それ、シオンが自分で選んだ結果でしょ?今更なに言ってんの?」
苛立ちを隠さず言い放つと、シオンは半狂乱のまま叫び出す。
「こ、こんなはずじゃなかった!!
どうして俺がカナと別れなきゃいけないんだ!!」
……呆れる。
本当に、救いようがない。
「知らなかったとか、通用すると思ってる?
私を取るか、あの女を取るか――自分で選んだんでしょ?」
その場に崩れ落ち、項垂れるシオン。
――使えない。
想像以上に、愚かだった。
「それより……ルキ様が調査するって言ってたけど大丈夫なの?
ちゃんと賄賂は渡してるんでしょうね?」
そう聞いた瞬間、シオンはきょとんとした顔をした。
……嫌な予感が背筋を走る。
「賄賂? 誰にするんだ?」
……あ。
顔から血の気が引く。
――まさか。
裏工作、何もしてない?
あのルキ・ソーエンを、何の準備もなしに騙せると思ってたの?
「……もういいわ!!」
苛立ちを抑えきれず吐き捨てる。
「私の方でやるから!
とにかくシオンは邪魔しないで!!」
急いで腰巾着の三人組を呼び寄せる。
――今まで通り、命令すればいい。
そう、駒は駒らしく動けばいいのよ。
「ねぇ、私の言いたいこと……分かってるわよね?」
……沈黙。
重苦しい空気の中、ミチが口を開いた。
「……それって、私たちに罪を被れって意味ですよね?」
その言葉に、眉がぴくりと動く。
「やってもいない嘘を並べて、
私たちに何の利益があるんでしょうか?」
……は?
「ふざけないでよ!!
今まで逆らったことなんてなかったじゃない!!何なの、その態度!」
声を荒げる私に、ミチは一歩も引かない。
「そもそも、私たちが協力してたのは…あなたの為じゃないわ」
……何?
「カナ様があまりにも我が儘だと思って、少し懲らしめたかっただけ。
でも――今のカナ様に、不満なんてありません」
他の二人も、黙って頷いた。
頭が、真っ白になる。
……何?
裏切り?
「……ちょっと、何言ってるの?」
あんたたち、私の駒でしょう?私の言う通りに動くためだけに存在してる、ただのモブじゃない。
――なのに。
どうして。
どうして、誰も私の言うことを聞かないの?
胸の奥で、ヒビが入ったみたいな嫌な音がした。
――これは、まずい。
私が“ヒロイン”じゃなくなる瞬間が、確実に近づいている。




