第一章 静かな日常と覚醒第五・五章(幕間)
全面的に自己責任でお願いします。
~十二歳の門出と、まだ立てない場所~
屋敷が、朝から少しだけ慌ただしかった。
廊下を行き交う使用人の足取りは早く、荷をまとめる音や、控えめな指示があちこちから聞こえてくる。
その中心にいるのは兄のデビット・クロスフォードだ。
今日、兄は学園へ向かう。
◆◆◆
この国の学園は、十二歳から。
貴族も平民も、条件を満たせば入学できるが、実際に通うのはほとんどが貴族だ。
平民の場合は、町の学校で成績と素行を評価され、推薦を受けた者だけが、ようやく門をくぐれる。
(……狭き門、だよな)
◆◆◆
兄は、初等科からの入学で、十二歳から十五歳までの三年間のこの期間は、基礎を徹底的に叩き込まれる。
・読み書き、計算
・魔法理論の基礎
・剣や弓などの基本戦闘
・この国の歴史やダンジョン
・周辺諸国との関係と地理
(……けっこう、みっちりだ)
◆◆◆
ただし、すべてが必修というわけではない。
初等科の後半からは、将来を見据えた「選択授業」が始まる。
兄が選んだのは、戦闘、領地運営、社会経済。
(うん、兄さんらしい)
◆◆◆
「ユーリ」
荷物の最終確認をしていた兄が、僕に気づいて声をかけた。
「兄さん」
兄は少し屈んで、僕の目線に合わせる。
「俺は、しばらく屋敷を空ける」 「……うん」
「学園は寮生活だ。簡単には帰れない」
分かっている。
分かっているけど――
(……やっぱり、寂しい)
「うん。」
「戦闘だけじゃ、領地は守れないからな」
兄は、少しだけ笑って言った。
「剣が強くても、金の流れが分からなければ人はついてこない」 「……うん」
「だから、経済も学ぶ。領地運営もだ」
(…兄は…ちゃんと、考えてる)
そこへ、父アーサーが加わる。
「中等科へ進めば、さらに専門が増えるよ」
「承知しています」
「そして、多くの貴族は中等科を卒業したら家に戻る」
「結婚して、領地を継ぐ者も多いからですね」
父は頷く。
「そうだ。それに、高等科は別格だ。研究職や、国家中枢を目指す者しか進めん」
「はい。分かっています」
(高等科……大学と大学院みたいなものかな)
母アリアは、変わらず穏やかだった。姉も話に混じる。
「無理はしないでね」
「はい、母上」
「兄様、再来年には、私も行きますからね!」
「ああ、リナに色々教えてあげれるように頑張るよ。」
エルフである母にとって、
人の三年は短い。
でも、送り出す想いは、同じだ。
姉のリナは、今10歳だから、再来年だ
馬車が動き出す直前、兄は僕の方を見た。
「ユーリ」
「なに?」
「焦るなよ」
その言葉は、はっきりしていた。
「お前は、今、学園に行く年じゃない」
「……うん」
「でも、学ぶことを止めないようにな」
「……うん。手紙書いてね。」
「ああ、もちろんだよ。」
ギュッと兄に抱きつけば、兄は抱きしめかえしてくれた。
馬車が走り去る。
兄は、学園へ向かった。
資格を取り、知識を得て、
やがて家に戻るために。
(……僕は、まだだ。兄に次にあえるのは、僕の入学する5年後だ。父さんと母さんは、夏ごとに王室主催のパーティーがあるから、王都へ行くから会えるが僕は、行けないからだ。)
◆◆◆
その夜、僕はノートに書いた。
・学園:12歳から
・初等科:基礎と方向性
・研究・医療は15歳から
(……今は準備期間。)
香りを作ることも、器を考えることも、全部、“その先”に繋がっている。学びだ。
◆◆◆
兄の背中は、少し遠くなった。
でも、僕の道は、まだ始まったばかりだ。
学園に行く前に、できることが、山ほどある。
ユーリは、静かにペンを置いた。
次に兄と並ぶ時、胸を張れるように精進しようと決意を胸に。
――幕間章・完
読み終わってのクレームは、お止めください。
自己責任です。




