第一章35 静かな日常と覚醒
全面的に自己責任でお願いします。
スマホと鑑定士 第三十五
静かな暗器と、朝の教室
◆◆◆
――クロードは、確信していた。
あの少年は、危険だ。
それは能力が高いからではない。
欲がないからだ。
欲のない人間は、王の道具にはなりにくい。
だが同時に、最も信用できる存在でもある。
(……殿下は、拾ってしまわれたな)
真夜中のお茶会を終え、廊下を歩きながらクロードは思う。
クロスフォード伯爵令息、ユーリ。
表に出ることを拒み、
命と平穏を対価にしないと明言したうえで、
それでも「裏方なら」と条件を突きつけた。
忠誠ではない。
服従でもない。
――取引だ。
それを、あの年齢で当然のように成立させた。
(殿下が“使う”つもりなら、
逆に“使われる”覚悟も要る)
だが殿下は、それを理解している。
だからこそ厄介で――
だからこそ、王なのだ。
◆◆◆
翌朝。
第一上級クラスの教室は、静まり返っていた。
空気が、張りつめている。
ここに集められたのは、
成績優秀者、将来有望株、問題児予備軍。
そして――第一王子。
誰もがちらちらと視線を送るが、
真正面から見る者はいない。
ユーリは、一番後ろの端の席に座っていた。
(……やっぱ、このクラス息苦しい)
王子がいるだけで、教室は“舞台”になる。
無意識に、全員が振る舞いを調整している。
ユーリは視線を落とし、机に肘をついた。
(関わらん。目立たん。静かに)
その時。
「――おはよう」
低く、落ち着いた声。
顔を上げると、マイケル・ジョージアが立っていた。
クラスメイトとしての、ただの挨拶。
「……おはようございます」
最低限の礼。
それ以上でも、それ以下でもない。
王子はそれを見て、小さく頷いた。
それだけ。
それだけで、周囲の視線が一斉に刺さる。
(やめて。ほんまに)
だが王子は、それ以上何も言わなかった。
昨日の“取引”は、
この場には存在しない。
――暗器は、影にあるから意味がある。
◆◆◆
一方、その頃。
王子の私室。
「……どう思う?」
マイケルは、クロードに尋ねた。
「クロスフォード伯爵令息のことだ」
クロードは少し考えてから答える。
「裏切りません。ただし、縛れません」
「だろうな」
「ですが、殿下が約束を守る限り、
彼は刃であり続けます」
マイケルは、静かに息を吐いた。
「私は、彼を臣下にはしない」
「存じております」
「隣に置く。影として」
クロードは、深く一礼した。
(……殿下も、危ない橋を渡られる)
だが、その橋の強度を測れる人間が、もう一人増えた。
それだけで、この国にとっては――十分な価値がある。
◆◆◆
教室。
授業が始まり、ユーリは黙々とノートを取る。
内容は基礎。
だが、飛び交う質問の質が高い。
(……このクラス、静かに地獄やな)
誰もが理解している。
――落ちたくない。
だから無駄な衝突はない。
だが、油断もない。
ユーリは、気配を殺す。
暗器は、抜かれた瞬間に価値を失う。
(裏方でいい。ほんまに)
そう思いながら、ペンを走らせた。
だが。
この学園が、それを許すかどうかは――
まだ分からない。
◆◆◆
昼休み。
廊下の向こうから、
親友たちの笑い声が聞こえた。
別クラス。
別の空気。
(……もう、戻れんのやろな)
それでも、完全に切れたわけじゃない。
寮は同じ。
道は、まだ繋がっている。
ユーリはノートを閉じ、小さく息を吐いた。
暗器として生きる覚悟は、決めた。
(暗く考えすぎやな。
アホらしい。俺は俺や)
王子が求めているのは、
暗殺でも策略でもない。
――鑑定能力だ。
(逆に今の俺、暗すぎて怪しいんちゃうか?)
なら、逆だ。
普段は今まで通り、道理に生きる。
王子が“俺を抜いた瞬間”だけ、闇を噴き出す。
ピエロ。
道化。
周囲を欺く役。
(……なんか、カッコええやん)
今世、イケメンやし。
やれる気がしてきた。
あとは――
使われすぎないこと。
そして、折れないこと。
それだけ。
読み終わってのクレームは、お止めください。
自己責任です。




