第一章34 静かな日常と覚醒
全面的に自己責任でお願いします。
スマホと鑑定士 第三十四
なんでや工藤……
◆◆◆
入学初日。
感慨に浸る時間は、学園から一切与えられなかった。
「――これより、クラス分けテストを行う」
淡々とした声が、大講堂に響く。
内容は、筆記、魔力制御、基礎理論、簡易実技。
派手さはない。
だが分かる――これは、“才能”を見る試験じゃない。
基礎。安定性。継続力。
つまり、逃げられない人間を選別するためのテストだ。
(……初日から本気やな。ほんま勘弁して)
ユーリは、答案を埋めながら何度も自分に言い聞かせた。
手を抜きすぎるな。
だが、出しすぎるな。
「できない」は即脱落。
「できすぎる」は目を付けられる。
その中間。
限りなく、平均に近い場所。
――その、つもりだった。
◆◆◆
結果は、容赦なく掲示された。
掲示板の前に人が集まり、空気がざわつく。
ユーリは、人波の後ろから、静かに名前を探す。
あった。
第一上級クラス。
そして、その一番上。
マイケル・ジョージア
第一王子。
(……はい、詰み)
胸の奥が、すとんと落ちた。
これは“優秀”という意味じゃない。
常に見られる位置に置かれた、という意味だ。
逃げ道がない。
(……なんでや工藤……)
思考の端で、白旗がひらひらと揺れた。
視線をずらし、親友たちの名前を探す。
カルロス・リード
ハイネス・ハートリーフ
ゴードン・ベインズロック
全員、別クラス。
(……せやろな)
能力も、得意分野も違う。
同じクラスになる方が不自然だ。
ただし。
寮は、同じだった。
学園寮は完全個室。
身分も家柄も関係なく、一人一部屋。
(これは……正直、助かる)
常に誰かと一緒、という状況は疲れる。
距離があるから、関係は保てる。
廊下ですれ違い、軽く言葉を交わす。
「クラス、違ったな」
「だな」
「寮同じなら問題ないですね」
「あとで工作室の場所教えてくれ」
いつも通り。
その“いつも”が、少しだけ心を落ち着かせた。
だが。
問題は、その日の夜だった。
◆◆◆
荷解きを終え、ベッドに腰を下ろした頃。
――コンコン。
控えめなノック音。
扉を開けると、そこにいたのは昼間見た顔。
壇上近くに控えていた、王子の側近。
「――クロスフォード伯爵令息。少し、お時間よろしいでしょうか」
(……来たか)
「殿下の側近を務めております。クロードと申します」
断る理由を探すが、表向きは“同級生”。
無碍に追い返すことはできない。
「……どうぞ」
部屋に通すと、彼は静かに切り出した。
「殿下が、あなたの職業に興味を持たれまして。鑑定師としての力です」
やっぱり、そこ。
「殿下ご本人が前に出るおつもりはありません。あなたも、裏方で構わないとの事です。」
その言葉を聞いた瞬間、嫌な予感が確信に変わった。
◆◆◆
その夜。
灯りを落とした寮の一室。
簡素な茶器を挟み、向かいに座る人物。
第一王子。
真夜中のお茶会。
「突然ですまない。無理にとは言わない」
王子は、最初から率直だった。
「君の職業が、鑑定師だと聞いた」
(聞いた、じゃなくて調べたやろ)
内心で突っ込みながら、ユーリは頷く。
「はい。ですが、表に出す気はありません」
王子は否定しなかった。
学園の役割。
貴族のふるい。
正確な情報の価値。
静かな声で、淡々と語られる現実。
「私は、全てを自分の目で確かめたい。だが、それには限界がある」
そして、まっすぐこちらを見る。
「君の鑑定は、武器になる」
一拍。
「そして――武器は、使う物だ」
背中が、ひやりとした。
「私は、君を表に出したくない。
」
(暗器にしたいってことか。)
ユーリは、はっきりと言った。
「表に出る気はありません。命も、平穏も、安売りするつもりはないです」
沈黙。
王子は笑わなかった。
「それで構わない」
即答だった。
「君に求めるのは助言だけだ。必要な時に、必要な分だけ。名前は出さない」
逃げ道は、ある。
だが、完全ではない。
しばらく考え、ユーリは溜息をついた。
(……なんでやねん。嘘やと言うてくれ)
「……裏方限定です。断る権利あり。命に関わることは即撤退。きちんと見返りも頂きます。仕事には、対価が必要です。表に名前が出たら、その瞬間降ります。」
「了承する」
迷いのない返答。
(……ほんま、真面目すぎて厄介な人や)
鑑定通り。
嘘はない。
「わかりました。俺は閣下の暗器になりましょう。あなたが、約束を守る限りは。」
◆◆◆
部屋を出る頃には、夜も深かった。
(初日から、これか)
目立たず、無理せず、生き残る。
その予定だった。
だが、この学園は――
最初から、それを許す気がない。
部屋に戻り、ベッドに倒れ込む。
(なんでや工藤……)
その言葉には、もう怒りも驚きもなかった。
ただ、覚悟だけが残っていた。
目立たない。
関わらない。
静かに学園生活。
――その予定は、もう修正が必要らしい。
学園初日。
すでに、想定外だらけだった。
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――第三十四章・完
読み終わってのクレームは、お止めください。
自己責任です。




