第一章30 静かな日常と覚醒
全面的に自己責任でお願いします。
スマホと鑑定士 第三十
学園の空気と、兄の忠告
◆◆◆
十一歳になった。
来年、学園に入学する年齢だ。
その事実が、少しずつ現実味を帯びてきている。
今日は、その準備の一つとして――
屋敷で、小さな茶会が開かれていた。
◆◆◆
場所は、いつもの応接室。
丸いテーブルに並ぶのは、
焼き菓子と、香りを抑えた紅茶。
集まったのは五人。
ユーリ・クロスフォード。
そして、彼の兄――
「改めて紹介するね。
こちらが、僕の兄様、デビット・クロスフォード」
そう言われ、向かいに座る青年が一礼した。
「初めまして。
ユーリの兄の、デビットだ」
穏やかな声だが、背筋は真っ直ぐ。
学園を卒業したばかりの空気が、まだ抜けきっていない。
◆◆◆
「じゃあ、俺からいくか」
最初に立ち上がったのは、
短く刈った髪の少年。
「カルロス・リードです。
リード伯爵家の長男」
胸を張り、はっきりと言う。
「剣が好きで、体動かすのが得意です。
五歳の儀式では、刀剣師のジョブをもらいました」
「ほう」
デビットが目を細める。
「刀剣師か。
基礎を疎かにしなければ、伸びるジョブだな」
「……!
は、はい!」
カルロスは、分かりやすく嬉しそうに背筋を伸ばした。
◆◆◆
「次は、僕ですね」
静かに立ち上がったのは、
淡い金髪のエルフの少年。
「ハイネス・ハートリーフです。
侯爵家の次男になります」
一礼。
「本を読むのが好きで、魔法理論に興味があります。
五歳の儀式では、魔術弓師のジョブを授かりました」
「魔術弓師……」
デビットは、少し考えてから頷く。
「珍しいが、理論と実践の両立が必要な職だ。
学園では、時間管理を間違えるな」
「……肝に銘じます」
ハイネスは、素直にそう答えた。
◆◆◆
「……最後、俺だ」
少し低い声。
「ゴードン・ベインズロック。
伯爵家の三男だ」
「物を作るのが好きで、
五歳の儀式では、錬金鍛冶師のジョブをもらった」
デビットは、わずかに目を見開いた。
「錬金鍛冶師か。
それは……扱いが難しい」
「……分かってる」
「だが、道具を見る目があるなら、学園でも貴重だ」
ゴードンは、一瞬だけ驚いた顔をしてから、頷いた。
◆◆◆
全員の紹介が終わり、
自然と視線がユーリに集まる。
「兄様。
学園って……やっぱり大変?」
そう聞くと、デビットは苦笑した。
「正直に言う」
一拍置いてから、続ける。
「学園は、才能の集積地だ。
家柄も、実力も、努力も、全部見られる」
「だが」
指を一本立てる。
「一番大事なのは、“自分を見失わないこと”だ」
◆◆◆
「選択授業は、欲張るな」
「得意なものを一つ。
伸ばしたいものを一つ」
「それ以上は、全部中途半端になる」
カルロスが、思わず声を上げる。
「じゃあ俺、剣は確定で……」
「あと一つだな」
「……体術?」
「悪くない」
◆◆◆
ハイネスは、静かに考え込む。
「魔法理論と……弓術、でしょうか」
「相性はいい。
ただし、休む時間を作れ」
「はい」
◆◆◆
ゴードンは、短く言った。
「錬金と、基礎魔法」
「……無理はするな」
「しない」
◆◆◆
最後に、デビットはユーリを見た。
「ユーリ、お前は」
「鑑定師です。
だから、基礎魔法と……領地運営」
「いい選択だ」
即答だった。
「お前は、“支える側”に回れる人間だ。
学園でも、それは武器になる」
◆◆◆
茶会が終わる頃。
テーブルには、空になった皿と、
少し冷めた紅茶。
ユーリは思う。
(……学園は、怖いけど)
(一人じゃない)
兄がいる。
友達がいる。
そして、自分の道も、少しずつ見えてきた。
来年。
学園で、また世界が広がる。
――第三十章・完
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