第一章24 静かな日常と覚醒
全面的に自己責任でお願いします。
スマホと鑑定士 第二十四
小さな背中と、守るということ
◆◆◆
最近、足音が増えた。
正確には――
自分の後ろを、ちょろちょろとついてくる小さな足音だ。
「にーちゃ……」
振り返ると、そこにいる。
少し舌足らずな声で、両手を広げて立っている三歳の弟。
マルコフ。
愛称は、マルコ。
「どうした、マルコ」
そう声をかけると、嬉しそうに駆け寄ってきて、裾をつかむ。
(……兄さんも、こんな気持ちだったのかな)
ユーリは、ふとそう思った。
◆◆◆
兄デビットは、いつも一歩後ろに立っていた。
守るでもなく、縛るでもなく。
ただ、見ているという距離。
今、自分がしているのは、それに近い。
歩くたび、マルコは後ろをついてくる。
転びそうになれば手を伸ばし、
危なそうなら抱き上げる。
「にーちゃ、たかい」
「はいはい」
肩車をすると、きゃっきゃと笑う。
小さな体温が、首元に伝わる。
(……守る側、か)
悪くない。
◆◆◆
その日の夕方。
マルコの様子が、少しおかしかった。
いつもなら走り回るのに、今日は膝にくっついたまま離れない。
小さく、咳をする。
「……マルコ?」
抱き上げると、身体が熱い。
「っ……」
苦しそうに咳き込むのを見て、ユーリは迷わなかった。
◆◆◆
「レオン先生!」
研究棟に駆け込むと、白衣の魔法医――レオンが顔を上げた。
「どうしたんだね?」
「弟が、風邪です。咳が強い」
状況を説明すると、レオンはすぐに頷いた。
「連れてきなさい。軽いが、放っておくと長引くから」
診察のあと、レオンは言う。
「薬を作る。だが――」
「一緒に、ですよね!」
ユーリの言葉に、レオンは一瞬だけ目を細め、笑った。
「そのとおりだ」
◆◆◆
薬草の選別。
咳を鎮める成分。
熱を下げる調合。
子ども向けに、刺激は極力抑える。
「香りも大事だ」
レオンが言った。
「安心する匂いは、回復を助ける」
ユーリは、すぐに理解した。
アロマ。
刺激が弱く、呼吸を楽にする配合。
「……これなら」
二人で調整し、完成したのは
薬と、焚くだけの簡易アロマだった。
◆◆◆
「父上」
出来上がったものを持って、許可をもらいに行く。
事情を説明すると、父は静かに頷いた。
「問題ない。だが、記録は残せ」
「はい」
――研究は、独断ではしない。
それも、兄が教えてくれたことだ。
(……おっと、特許も申請しないと)
◆◆◆
夜。
マルコはベッドに横になり、少し楽そうに呼吸していた。
部屋には、ほんのり甘い香りが漂っている。
「にーちゃ……」
小さな声。
「ここにいる」
そう答えると、安心したように目を閉じた。
◆◆◆
翌日。
熱は下がり、咳も軽くなった。
「ご褒美だ」
ユーリは、厨房を借りる。
卵。
牛乳。
砂糖。
前世の知識で作る、なめらかなプリン。
「……あ」
火加減を見ながら、ふと思う。
(これ、普通に価値あるな)
味。
保存性。
作りやすさ。
(……これも特許、だな)
◆◆◆
「おいし!」
スプーンを持つマルコが、満面の笑みを見せる。
それを見て、ユーリは少しだけ肩の力を抜いた。
守るものがある。
それは、力になる。
(……兄さんも、こうだったのか)
小さな背中を撫でながら、そう思った。
◆◆◆
夜、メモ帳に書き足す。
・子ども用薬の簡易調合
・安心効果のあるアロマ
・プリン(要・特許整理)
――世界を変えるほどじゃない。
でも。
誰かを守るには、十分だ。
ユーリは、灯りを落とした。
――第二十四章・完
読み終わってのクレームは、お止めください。
自己責任です。




