第一章22 静かな日常と覚醒
全面的に自己責任でお願いします。
スマホと鑑定士 第二十二章
静かな準備と、次の一手
朝の空気は、ひんやりと澄んでいた。
ユーリは中庭の端に立ち、並べられた三台の馬車を静かに見渡していた。
・王都の学園へ通う兄のための馬車
・両親が使用する夫婦用の馬車
・そして、自分自身のための一台
どれも屋敷の敷地内に収められ、陽を反射しながら静かに佇んでいる。
外見は、ごく普通。
華美な装飾も、威圧的な意匠もない。
(……これでいい)
目立つ必要はない。
違いは、中身だけで十分だ。
◆◆◆
「保管状態も問題ないな」
馬車の周囲を確認し終えた父が、そう言って頷いた。
「デビットの馬車は、夏の社交で王都へ向かう際に持って行く。それまでに最終点検だけ済ませておいてくれ。夫婦用は……当面使わん」
「じゃあ、僕のは完全に実験用だね」
そう言うと、父は小さく笑った。
「実験用にしては、完成度が高すぎる」
◆◆◆
ユーリは、自分用の馬車にだけ乗り込んだ。
走らせるのは、あくまで敷地内。
足回りの反応。
揺れの収まり。
座席が返す力。
すべてが、想定通り。
(……過剰じゃない)
それが何よりの満足だった。
魔道具に依存しすぎていない。
壊れても、手を入れれば直せる。
「使い続けられる」こと。
それ自体が、価値だ。
◆◆◆
昼過ぎ。
馬車を戻したユーリは、書斎に籠もった。
机の上には、
・特許関連の控え
・今後の設計メモ
・異世界通販の簡易まとめ
《異世界通販》
残高表示には、まだ余裕がある。
(使えるって分かっただけで、十分だな)
前世のように、見るだけで我慢する必要はない。
だが、無駄に使う理由もない。
ユーリはノートを開き、項目を書き出す。
・公開してもいい技術
・家専用で止める技術
・改良予定
・危険だから封印
一つずつ、線を引いていく。
(……世界を動かすには、まだ早い)
◆◆◆
夕方。
書斎を訪れた父が、ノートを一瞥して言った。
「デビットの学園生活は、馬車が届いてから少し楽になるだろう」
「……揺れないだけで、だいぶ違うよね」
「ああ。集中力も、疲労も変わる」
それ以上、父は何も言わなかった。
急かさない。
煽らない。
それが、今の距離感だった。
◆◆◆
夜。
灯りを落とし、ベッドに横になる。
今日も、何かを売ったわけではない。
何かを広めたわけでもない。
それでも――
技術は整い、
金はあり、
選択肢は増えた。
(……次は、デビットとリアからの手紙かな)
王都の学園。
その向こう側。
まだ、踏み込まない。
今はただ、静かに備えるだけでいい。
――第二十二章・完
読み終わってのクレームは、お止めください。
自己責任です。




