表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鑑定士は表に出ない  作者: 南月 阿鬼羅


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/40

第一章 18 静かな日常と覚醒

全面的に自己責任でお願いします。

排水とスライム革命


~仕える者たちが誓った夜~

◆◆◆

シャワー設備が完成した時、

次に問題となったのは「排水」だった。

水を使えば、必ず汚れが出る。

それは、どれほど清潔な設備であっても変わらない。

この世界では、汚水は庭先へ流され、

土に染み込み、やがて臭いとなり、病の原因となる。

それを理由に、

多くの屋敷が「水浴び以上」を諦めてきた。

◆◆◆

「……若様」

屋敷裏に設置された処理槽を前に、

執事が一礼し、静かに口を開いた。

「こちらに収められているのは……

スライムでございますか?」

「はい。排水処理用です」

ユーリの返答は簡潔だった。

処理槽の内部では、

刺激性のない雑食性スライムが静かに蠢いている。

油分、汚れ、有機物を分解し、

水だけを残す設計だ。

今回は、トイレの排水も同じ処理槽へと繋いでいる。

「……臭気が、ほとんど感じられません」

執事は、僅かに眉を動かした。

「通常であれば、

排水が集まる場所には必ず不快な匂いが生じるものですが……」

「スライムが分解してるから」

「左様でございますか」

一拍置き、執事は深く頷いた。

「これは……

屋敷の衛生管理としても、極めて理に適っております」

その背後で、数名のメイドが思わず息を呑んだ。

「こ、こちら……本当に……」

「鼻を近づけても、何も……」

「信じられません……」

声は小さいが、

抑えきれない驚きと感動が滲んでいる。

◆◆◆

その日の午後、

最初にシャワーを使用したのは母だった。

程なくして浴室から聞こえてきた声に、

廊下の空気が一変する。

「……まぁ……!」

驚きと歓喜が入り混じった声。

「温度が……一定ですわ……!

一切、冷たくなりませんし、

熱くもなりません!」

控えていたメイドが、

思わず胸元で手を組んだ。

「そ、そのようなことが……!」

続いて姉が入室する。

「……こ、これは……!」

扉越しでも分かるほど、

声が弾んでいた。

「髪が……指に絡みませんわ!

洗っているのに、きしみませんの!」

執事は一つ、咳払いをする。

「リナ様。お時間が過ぎております」

「承知していますわ。

でも……あと少しだけです!」

その声には、

はっきりとした高揚があった。

◆◆◆

やがて、使用人たちの視線が

自然とユーリへ集まった。

誰もが口を開きかけ、

しかし、躊躇している。

その空気を察し、

執事が一歩前へ出た。

「……若様」

「なに?」

「誠に僭越ではございますが……」

言葉を選ぶ、短い沈黙。

「この設備、ならびに

シャンプー、リンス、ボディーソープにつきまして……」

「我々使用人にも、

使用の許可を賜ることは可能でしょうか」

メイドたちが息を詰める。

父が、静かに立ち上がった。

「条件がある」

その声に、

全員の背筋が伸びた。

◆◆◆

「本日、この屋敷で見たもの」

「感じた使用感、香り、仕組み」

「それらを、屋敷の外で語ることを禁ずる」

「もし一言でも漏らした場合――

その時点で、使用は全員中止とする」

執事は即座に片膝をついた。

「クロスフォード家執事として、

主に、そして神に誓い申し上げます」

「本日知り得たすべてを、

決して口外いたしません」

それに続き、メイドたちも深く頭を下げる。

「誓わせていただきます」

「この命に代えても、お約束いたします」

「このご恩は、決して裏切りません」

父はその様子を見渡し、

短く頷いた。

「よろしい」

◆◆◆

その夜。

屋敷には、

これまでにない静けさがあった。

排水の臭いはなく、

庭の空気は澄み、

使用人たちの表情は明るい。

執事は執務室で日誌を記す。

――本日、屋敷内における

衛生と労力の在り方が、大きく変化した。

――若様の発想は、

支配ではなく、配慮に基づいている。

――仕える者として、

これほど誇らしい主は、そうはいない。

ユーリは、まだ知らない。

だが、この日を境に、

クロスフォード家の使用人たちは

この家に仕えることを、

心からの誇りとするようになった。

――第十八章・完

読み終わってのクレームは、お止めください。

自己責任です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ