第一章15.5 静かな日常と覚醒
全面的に自己責任でお願いします。
スマホと鑑定士 第十五・五章
返書という名の返事
~招かれた側の本音と、親の判断~
◆◆◆
リード伯爵家
(カルロス側)
「……カルロス、これを」
朝食の席で、父が一通の手紙を差し出した。
「クロスフォード伯爵家?」
カルロスは、パンをくわえたまま目を丸くする。
「昨日のガーデンパーティーで会った、あの子からだ」
(……あ、あの俺と同じ、七歳のやつだ)
封を切り、ゆっくりと読み進める。
剣の話が面白かったこと。
また話したいということ。
堅苦しくない、気軽な招待の言葉。
「……」
カルロスは、しばらく黙ったまま手紙を見つめていた。
「どうだ、行くか?」
「……行く」
迷いのない即答だった。
母が、少し驚いたように微笑む。
「即決するのね」
カルロスは、ぽつりと言った。
「俺、あいつと話してて、嫌じゃなかった」
父は、その一言を聞いて、静かに目を細める。
「そうか。なら、返事を書け」
「俺が?」
「招かれた以上、自分の言葉でだ」
カルロスは、少しだけ背筋を伸ばした。
(……貴族って、こういうのか)
「わかった。でも……恥ずかしくない文章にしたいから、母様、書き方を教えて」
「ふふ。あらあら、いいわよ。一緒に書きましょう」
その声は、どこか楽しそうだった。
◆◆◆
ハートリーフ侯爵家
(ハイネス側)
静かな書斎。
ハイネスは、暖炉の前で手紙を読んでいた。
「……ふふ。とても丁寧だね」
控えめで、押しつけがましくない文章。
それでいて、自分が“きちんと見られていた”ことが伝わってくる。
(本の話、覚えていてくれたんだ……)
それが、少しだけ嬉しかった。
「母上」
ハイネスは、手紙を差し出す。
「クロスフォード伯爵家の次男からです」
母は、ゆっくりと目を通し、穏やかに微笑んだ。
「良い招待状ね」
「はい。無理がありません」
父も、静かに頷く。
「相手の年齢を考えれば、十分すぎるほどだ」
「……行っても、いいですか?」
母は、即座に答えた。
「ええ。学園前に、同世代の知己を得るのは大切よ」
「それに」
父が、言葉を継ぐ。
「クロスフォード家は、急がない。そこがいい」
ハイネスは、少し安心したように息を吐いた。
(……今回は、ゆっくり話せそうだな)
◆◆◆
ベインズロック伯爵家
(ゴードン側)
工房の一角。
ゴードンは、手紙を読み終えると、静かに顔を上げた。
「……変わった道具」
その一言に、父が反応する。
「ほう?」
職人気質の父は、興味深そうに眉を上げた。
「クロスフォード家に、そういう物があるのか」
「多分……ある」
ゴードンの目が、わずかに輝く。
「あの子、道具を見てる時の目が……ちゃんと“分かってる”感じだった」
母が、くすりと笑った。
「珍しいわね。あんたが人を褒めるなんて」
「……行きたい」
父は、少し考えてから言った。
「行ってこい」
「いいの?」
「ああ。職人肌同士の縁は、悪くない」
ゴードンは、珍しくはっきりと頷いた。
◆◆◆
クロスフォード伯爵家
(返事を待つ側)
その日の午後。
使用人が、銀の盆に三通の返書を乗せて運んできた。
「……来た?」
ユーリは、思わず立ち上がりそうになるのを、必死で堪える。
母が一通ずつ目を通し、柔らかく微笑んだ。
「ええ。三家とも、参加の返事よ」
「……!」
言葉が、喉で止まる。
リナが楽しそうに言った。
「全員来るなんて、珍しいわね」
「……よかった」
それだけで、胸の奥がじんわりと温かくなる。
父は、静かに言った。
「覚えておけ、ユーリ」
「はい?」
「“招いた”のは君だ。だが、“来ると決めた”のは、彼ら自身だ」
その言葉は、重く、そして優しかった。
「……はい」
◆◆◆
こうして、小さなお茶会は、
ただの計画から、確かな「約束」へと変わった。
まだ遊び。
まだ友達。
それでも、学園に入る前のこの一歩は、
確実に、未来へと続いている。
――第十五・五章(閑話)・完
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