第一章14 静かな日常と覚醒
全面的に自己責任でお願いします。
帰宅後の家族会話 ~選ぶことと、選ばないという選択もあること~
◆◆◆
馬車が、屋敷の門をくぐった。
ガーデンパーティーの余韻が、まだ体に残っている。
音楽、視線、評価。 七歳には、少しだけ濃すぎる一日だった。
「……ふぅ」
思わず息を吐くと、向かいに座る姉のリナが、くすりと笑った。
「お疲れさま、ユーリ」
「姉様こそ。ずっと踊ってたじゃないか」
「慣れてるだけよ。でも、今日は楽しかったわ」
その言葉に、嘘はなかった。
(パーティーは、確かに疲れたけど、この馬車移動がホント疲れる。これに、乗って王都とかいやだ。入学までには、馬車もなんとかしたいな。今の所やりたいことは、トイレ改装に風呂作りにシャンプー&リンス、それに馬車だな。)
◆◆◆
屋敷に戻り、いつもの居間。
香草茶が用意され、ほんのりアロマが焚かれている。
皆の空気が一気に“家”になる。
母が、穏やかに切り出した。
「今日はどうだった? ユーリ」 「……正直に言っていい?」
「もちろん」
少し考えてから、答える。
「……楽しかった。でも、疲れた」
父が、くくっと小さく笑った。
「正しい感想だな」
「はい。」
僕は、今日の光景を思い出す。
やんちゃそうで、でも逃げなかった少年。
悔しそうに、でも真っ直ぐな目で見ていた、あの子。
「でも、今日、話してた男の子がいたでしょう。」
「ああ、リード伯爵家のカルロス君だね。」
「うん。あの子、多分、学園で同級生になるでしょ?」
母が、少し興味深そうに眉を上げた。
「どうしてそう思うの?」
「家柄も年齢も同じだし、貴族は、学園に皆行くよね?」
そして、続ける。
「…たから…仲良くなりたいんだ。」
◆◆◆
一瞬、部屋が静かになる。
リナが、ぱっと明るく言った。
「いいじゃない! あの子、素直そうだったわよ」
「だろ?」
父は、顎に手を当て、ゆっくり頷いた。
「彼を選んだ理由は?」
「…えっと…一番は、逃げなかったからかな。」
それだけで、十分だった。
◆◆◆
「それと」
僕は、もう二人の顔を思い浮かべる。
「今日は、まだちゃんと話してないけど……多分、同じく同級生になる人たちにも、出会ってるとおもう。」
母が、微笑んだ。
「へぇ~誰かしら?」
「一人目はさっき言った、リード伯爵家の長男のカルロス。スポーツ系で剣術が得意らしい。ヒト族」
「うんうん。活発そうな子だったものね」
「うん。体動かすのが好きそうだった。」
「二人目は、ハートリーフ侯爵家の次男のハイネス。本が好きらしい、おとなしそうな子。エルフ族」
「……ああ、庭園の端で読書してた子か」
「そう。話し方が落ち着いてて、頭が良さそうだった。侯爵家だけど偉そうじゃなかったし。」
「ハートリーフ家の方々は、研究者きしつの方が多いわよ。私とおなじ純血のエルフ族だから、長生きでね、マイペースな方がめだつわね。」
「へぇ~。三人目は、ベインズロック伯爵家の三男のゴードン君。工作が好きらしい。ハーフドワーフ」
「道具とか魔道具をじっと眺めてた子ね」
「うん。目が、完全に職人だった」
◆◆◆
父が、静かに言った。
「バランスがいいな」
「でしょ?」
リナが、くすくす笑う。
「ユーリ、もう“派閥”作り始めてるみたい」
「違うよ。友達だよ」
そう言うと、二人は顔を見合わせた。
母が、穏やかに提案する。
「なら、お茶会を開きましょうか」
「え?」
「家でなら、肩の力も抜けるし、親同士の顔合わせにもなるわよ」
父も、頷いた。
「いい判断だ。学園前に関係を作っておくのは、悪くない」
「……いいの?」
「君が選んだ相手なら、なおさらだ」
◆◆◆
リナが、楽しそうに手を叩いた。
「私も手伝うわ! お菓子は何にする?」
「……姉様、気合入りすぎ」
でも、悪くない。
◆◆◆
「ユーリ」
父が、少しだけ声を落とした。
「今日の場で、君は“選ばれる側”だった」
「……うん」
「だが、これからは“選ぶ側”にもなる」
その言葉が、胸に残る。
「誰と一緒に立つか。それはプラスになることもあるし、反面間違えれば、マイナスにもなる。忘れるなよ。」
「はい。わかりました。」
僕はゆっくりと、しかし、ハッキリと頷いた。
◆◆◆
窓の外は、夕暮れ。
今日出会った顔が、いくつも浮かぶ。
(……一人じゃない)
それだけで、少しだけ未来が軽くなった。
◆◆◆
こうして、静かに決まった。
入学前の、初めての小さなお茶会それは、今のユーリには、立派な“社交”だった。
そしてそれは、貴族としてのただの、始まりだ。
――第十四章・完
読み終わってのクレームは、お止めください。
自己責任です。




