第一章 静かな日常と覚醒 9
全面的に自己責任でお願いします。
守るための登録
~売らない選択と、残す証明~
◆◆◆
兄・デビットからの手紙が届いた。
学園に入学してから、初めての便りだった。
封を切る前から分かる。
几帳面で、無駄のない文字。
兄らしい。
僕は机に向かい、静かに開いた。
◆◆◆
――ユーリへ。
手紙をありがとう。
試作品でも六歳のユーリが、物作りをし、それを完成させたことを兄として、とても誇りに思うよ。
学園生活は順調だ。
だが、少し慌ただしく手紙が遅れたことをあやまる。
初等科は基礎が中心で、思っていたより堅実だよ。
基本の科目も家敷で習っていたものの応用だった。
剣術も、すぐに戦わせるわけではなく、姿勢、距離、判断それらの基礎からだ。
経済は面白い部分もあり、数字より「流れ」を見る授業が多い。
(……兄さん、ちゃんと学んでるんだ。)
ところで、家の様子はどうだ? 母上は香りの器がお気に入りのようだな。
手紙に書いてあった。
それと、安心しろ、外では何も聞こえていない。
少なくとも、学園やギルドでは、一切話は出ていないよ。
父上の「出さない」という慎重な判断は、正しいと思う。
それもまた立派な戦略だ。
学園に来る前に、焦る必要はない。
お互い、今は“土台”を作る時期だ。
また、手紙をくれると嬉しい。
――兄より。
◆◆◆
最後は、兄らしい締めだった。
胸の奥が、すっと軽くなる。
(……よかった。情報は漏れてないみたいだ。)
――
◆◆◆
手紙を読み終えて、深く息を吐く。
(……うん、まだだ)
僕の作っている香りの器も、オイルも、 まだ「家で使うもの」だ。
売らない。
見せない。
広めない。
それは、逃げじゃない。
◆◆◆
その夜、父の書斎で話をした。
「兄さんから、手紙が来ました」 「そうか」
父は、静かに頷く。
「外には、まだ何も出ていないそうです」
「ああ。意図的に、止めている」
父は、書類の束を指で揃えながら言った。
「だからこそ、今やるべきは“売る準備”ではない」
「……守る準備、ですね」
父は、少しだけ目を細めた。
「正解だ」
◆◆◆
「ユーリ。特許について、どう考えている?」
「……販売しなくても、取れますよね」
「もちろんだ。特許は、売るための許可証ではない。これは誰の発想かを残すための証明だ」
父は、はっきりと言った。
「使う人を守るだけじゃない、作る人、考えた人、そして、まだ世に出していない者を守るそれが我が国の特許法で制度だ。」
(……だから、今)
「特許を取ったからといって、売る義務はない、眠らせておいてもいい。だが、取らなければ、守れないものもあるのだ。」
僕は、少し考えてから頷いた。
「はい。父上、今回は、香りの“オイル”だけ、先に特許申請します。器は、まだ設計途中です。」 「うむ。それでいい。」
父は、満足そうだった。
「オイルは、消耗品だ」
「誰かが、似たものを思いつく可能性が高い」
「だからこそ、“先に名前を残す”」
(……売らないけど、奪わせない)
◆◆◆
その日、ノートの端に書いた。
・商品化は、学園に入ってから
・それまでは、新しい香りもいっぱい作る。
・中等科で、各ギルド登録
商人/冒険者/薬師/魔術師/錬金術師
・今は、家用のみ
・特許は、防具
(……準備は、戦いじゃない、前の世界でもアロマの種類や効能なんて、覚えられ無いくらいあった。スマホを見ながら、この世界の香料や前の世界の香料の組み合わせを考えたい。それにこの世界には、魔物も魔植物もいるし。薬効有るのと無いの色々できそうだ。)
◆◆◆
兄は学園で、剣と数字を学んでいる。
僕は家で、錬金と基礎知識を積み重ねている。
どちらも、まだ表には出ない。
でも、確実に前に進んでいる。
六歳の今は、 売らない。
名を出さない。
ただ、守る。
その選択ができること自体が、この家族の強さなのだと、僕は思った。
――第九章・完
読み終わってのクレームは、お止めください。
自己責任です。




