第4話
◆最悪の目覚め
この見慣れた天井は夢でなければ自宅のアパートだ。昨日の出来事が衝撃的で、まるで夢でも見ていたみたいだ。
「ん〜」
体を起こそうとすると、枕元に何かが置いてあるのが目に入った。それは昨日、真柴さんに渡された、分厚い色紙だった。その横には薄いA4サイズの紙。そこに書かれている文字を読んで血の気が引いた。
『上桑幸運』
その下には、俺の字で力強く書かれている。
『誰とでもやりますよ』
「うそ……だろ……」
頭の中で、昨夜の記憶が断片的に蘇る。ファン◯タワー、チヤホヤしてくれる女性たち、そして真柴さんの「これで、お前はもう逃げられねぇぜ、チャンピオン」という言葉。あの時、俺がサインしたものは、まさか──。
ガチャリ、と扉が開く。
「よぉ、チャンピオン。昨日は楽しかったな」
真柴さんが、ニヤニヤと笑いながら部屋に入ってきた。その手には、湯気の立つ味噌汁が乗ったお盆。
「真柴さん……これ、どういうことですか……?」
俺は震える声で、手に持ったA4用紙を差し出した。真柴さんは、それを一瞥すると、楽しそうに笑い出しす。
「お前、マジで覚えてねぇのか?昨日の夜、お前はたくさんの女性にサインを頼まれて、大モテだったんだぜ?この『誰とでもやりますよ』って言葉が、特に大好評だった」
「そんな……これって……」
「でもよぉ、実はあれ、ただのサインじゃなくてな」
真柴さんは味噌汁を差し出すと、ヤクザみたいな顔つきになった。
「あれ、『FUTURE』との専属契約書だったんだよ。お前が引退しないようにって、俺が用意しておいたんだ」
「うえっ!?」
俺は言葉を失った。頭の中が真っ白になる。
「おいおい、そんな顔すんなって。お前が引退しちまったら、この最高の生活も終わりだぜ?モテなくなって、金もなくなって、ただの高校生にもどりてえのか?」
真柴さんの言葉が、俺の胸に突き刺さる。俺はただ、絶望的な気持ちで、その場に立ち尽くすしかなかった。
「……これから、俺、どうなるんですか?」
「どうもこうもねぇよ。お前は、俺たちの作った『FUTURE』の顔として、これからも戦い続けるんだ。そして『最強の義務』を果たすんだよ、チャンピオン」
真柴さんの言葉と共に、俺の逃げ道は完全に塞がれた……な〜んてね!
真柴さんも爪が甘いですわ。俺は17歳、つまり未成年者だ。なんかの法律で親の同意が無ければサインは無効になるはず。
格闘技ばかりで学が無いと思われているかもしれないが、これくらいの知識は有している。
「あ!そうだったわ。これさあ、いい写真だろ?」
「……こ、これは」
彼のスマートホンに映っていたのは、俺がお姉さん達にヨシヨシと頭を撫でられながら、シャンパングラスに入ったファン◯を飲んでいる画像。
「知っているか?ああいう店ってよ、風営法によって未成年者は立入禁止なんだわ」
「……えっ?」
「駄目じゃないか?こんなお店に《《一人で》》入っちゃあ」
「い、いや!真柴さんが連れて行ってくれたんじゃないですか!?」
「ん〜。まあ、よく覚えていないがよ。こんな写真が出回ったら、マスコミが面白おかしく記事にしちまいそうで怖いよなあ?あいつら、金の為なら何でもする屑ばかりだぜ?いやー、心配だわ〜」
真柴さんのわざとらしい一人芝居に、俺は戦々恐々と震え出す。そして彼は飛び切りの笑顔を浮かべてこう言った。
「契約、するよな」
次回、学園生活スタート!




