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第2話

◆試合から1週間後のジム



試合の熱気が嘘のように静まり返ったジムの控室。


俺はチャンピオンベルトを椅子の上に放り投げ、床に大の字になっていた。


「おいおい、そんな大事なもんを雑に扱うなよ、チャンピオン」


そんな事を言っているのは、大会運営にて多大な貢献をしてくれた、ヤクザみたいな風貌の真柴ましばさんだ。金髪のショートカット、太めの黒縁眼鏡にグレイのダブルスーツ。どう見ても堅気には見えないが、優秀なプロモーターでありマーケターでもある。


親同士が知り合いの関係で、所謂旧知の仲ではあるが、向こうの方が7つも年上だし、何か怖いからという理由で敬語で接している。


俺が投げたベルトを拾い上げると、真っ白なタオルで丁寧に磨きながら話しかけてきた。


「なあ、ユキカズ。ここからお前の最強の道が始まるんだ。誰とやりたい?最高のマッチメイキングをするぜ。今大会には出なかったが、世界にはわんさか強豪がいるしよ」

「……正直いいますとね」


俺は天井を見つめたまま、独り言のようにつぶやいた。


「幸運という名前の通り、マジで運が良かったですわ〜、の一言に尽きますよ」


俺の言葉に真柴さんの手が止まった。


「ん?」


その訳が分からない、という表情は妥当だろう。逆の立場なら、俺もきっとそんなリアクションをするだろうから。


「今回はトーナメント戦だったわけですが、一回戦のお相手は、練習中に古傷の膝が再発したのを我慢して出場。序盤で直ぐに気がついた俺は、そこをチョコチョコ攻撃しては逃げてを繰り返して、ほぼノーダメージで準決勝進出したわけです」


俺の気だるそうな言葉に、真柴さんは不機嫌そうに言い返す。


「それがなんだ。お前の読みと戦略が優れてたってだけだろうが」

「……違いますよ。準決勝も決勝もですが、どちらの戦いも、デットヒートを繰り広げてボロボロになったお相手だったわけです。正直いうとね、一発蹴られた時に思いましたもん。『あ、これ効かないやつ』だって。俺がいうのも何ですが、マジで運でしたよ。全ての偶然が重ならなければ、1回戦で敗退していた筈です」

「お前はそう言うが、それを信じてる奴は誰もいねぇよ」


真柴さんは、鼻で笑う。


「お前が思うほど、このベルトは軽いもんじゃねえ。俺達がどれだけの時間と金を使って、このFUTUREって舞台を作り上げたと思ってる。お前が勝ったあの瞬間、この団体の歴史が始まったんだ。なぁ、チャンピオン?もう一度このリングで共に戦おうぜ」


真柴さんは真剣な目で俺を見つめた……そんなの答えは決まっている。


「嫌っああああああああああ!!!最高にクールで、伝説のチャンピオンのまま終わるんだあ!!」


俺は床を叩いて叫んだ。ここで引退すれば伝説として語り継がれるはず。そうすれば、本当は大して強くない事がバレずに終われる!


真柴さんは呆れたようにため息をついた。と、思ったら、ガバッとこちらへ凄い表情を浮かべて叫ぶ。


「何言ってんだ!?お前は世界最強のベルトを手にしているんだぞ!真っ当な理由もなく、引退を許すわけ無いでしょうが!」

「そもそもさあ!国内予選から運がよすぎたんだよお」


俺は涙目で訴える。


「風邪の影響で減量に失敗した相手とか、試合前日にFXで破産して試合中ずっと茫然自失だった相手とかさあ!!そんなんばっか……そもそも、本戦のトーナメント出場にすら相応しくないのが俺なんだ……」


名だたる国内のスター選手を押し退け、世界トーナメントへの切符を勝ち取った俺だったが、なんてことは無い。蓋を開ければ、一生分の運を使い果たしたかのような内容だった。


さめざめとベルトを濡らす俺を尻目にして、


「ふ~ん。しかし勿体無い話だな。FUTUREの現役王者ともなれば、さぞ女からモテるだろうに」


真柴さんはニヤリと笑う。俺の体はピクッと反応した。


「そりゃあそうだよな。今のお前は、誰がなんと言おうと最強の称号を手に入れたわけだし。今回の賞金額も中々高額だ。オマケにこの実績を引っ提げればスポンサーもガンガン付くだろうよ。それこそ、スポーツ用品メーカーや食品メーカーなんかの大手企業も付いてくれるかもな。そうなりゃ、大金もお前のものだ」


俺の体がもう一度ピクッと動いた。

嫌だな……僕はお金の為に挌闘技なんてやってないよ。ほんとだよ?


「若くて強くて金も名誉ある。そんな男がモテない訳ないわなあ……しかしまあ、お前さんの人生だ。止めはしないさ。早速ラウンドガールから合コンしたいというお誘いもあったが断っておくわ」

「ラ、ラ、ラウンドガールっすか?」


俺の体は、ピクッピクッ!ブルブルッ!!と激しく震え出す。


(もしかして、決勝の時に立っていたオッパイの大きいお姉さん?)


「やっ……でも、俺、もういいっすよ。もう十分にやったし、きっとモテるし?高校生なのにお金も入るし……」

ーった、分ーった!とりあえずパーッと飲みに行こうぜ、パーッとよ!」


真柴さんは俺の返事も待たず、肩を掴んで立ち上がらせた。


「の、飲むって!俺は未成年ですよ!?」

「たまには羽目を外して、チャンピオンとしてチヤホヤされて、気分転換でもしねぇと、お前みたいなお堅いヤツは潰れちまうんだよ。ほら行くぞ!」


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