第1話
◆これは青春か?
「上桑君。お願いがあるの」
夕陽が暖かく照らす放課後の教室。上桑はクラスメイトの美谷華恋と向かい合っていた。
華奢な身体つきからは想像もできないほど、美谷は規格外の運動神経を持つ。バスケの練習を少し見ただけでレギュラーを凌駕し、テニスのラケットを握ればすぐにエース級のプレーを見せる。高校二年生にして、すでに複数の競技で大学から推薦の声が掛かる超高校級の才能だ。
そんな彼女に引き留められた理由が分からなかった。
「お願い?」
「ええ。少しだけ恥ずかしいのだけど……」
上桑の頭に浮かんだのは、告白の二文字。まあ浮かんだだけだ。実際にそうなるとは思っていない。
フワフワの綿毛の様な金髪。大きいのに涼しげでクールな印象を与える理知的な眼差し。彫刻の様に通った鼻筋。白い肌。これらが完璧な配置で小さな顔に収められていた。
おまけに出る所はハリウッド女優張りに出ている。
そんな美少女に万が一「貴方が好きです。付き合ってください」と言われたら?……そんな妄想くらい許してくれよと思いながら、上桑は彼女が話し出すのを待っていた。
そうして、美谷の薄紅色の唇がゆっくりと開かれる。
「あなたの子供を産ませてちょうだい」
妄想を軽々と飛び越えてきた発言に、上桑は白目を剥く。そんな彼に美谷は真剣な眼差しで言い放った。
「欲しいの。世界最強王者の子供が」
◆世界最強となった日
(((ウゥゥオオオオオオオオオオオ!!!!)))
リングを覆う熱気。それが最高潮に達した。
大きな会場を埋め尽くした人々は、スタンディングオベーションで勝者へと惜しみのない拍手を送り続けている。
それは、新たなスター選手の誕生を祝してのものだ。
この日……上桑幸運は、【現代最強のキックボクサー】という肩書を手に入れた。
今回の舞台は世界中の格闘技関係者が待ち望み、遂に開催されたという経緯がある。
【真の最強は誰だ!?】
増えすぎたキックボクシング団体。そのためか各団体の世界王者であっても、世間からは認知されない実情。ランカーどころか王者すら空位。そんな団体が溢れていた。
そんな憂いを払拭すべく立ち上げられたのが、今回の舞台だ。
大富豪として知られる謎多き人物[鈴木]が先導して、世界中に点在するキックボクシングの各団体が手を結び、選手の手配や集客といった運営が協力して行われた。
その大会名は【FUTURE】
そして上桑は、世界で最も層が厚いとされるアンダー70キロのトーナメントで優勝を果たし初代世界王者となった。
眩しいスポットライトの下。インタビュアーからの『チャンプ!ずばり今後の展望は?』という問いに、リング上から全世界へと力強く発信した。
「誰とでもやりますよ。それが最強の使命ですからね」
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