4.白昼夢
静緒さんが階段から滑り落ちた日から2日目の土曜日の休日の昼頃、テレビの映画を見ていた。
ゾンビ物であったが、全く恐くなかった。むしろ、笑えた。
それなりに楽しんでいたらテレビが消えた。テレビどころか、部屋が消えた。周りは暗くなり薄明かるい赤色がみえる。
突如として、得も言われぬ感情に襲われた。
物凄い恐怖感が全身を包む。心臓がバクバクして、冷や汗が出てくる。
周りには何もいないのに、何か得体の知れない怪物が、闇から襲い掛かってきそうな気がする。
そしてあの音がする。風の音。あの悪夢の中で聞いたのと同じ音。
しかし、今は確かに覚醒している。眠っているわけではない。
白昼夢?
とにかく抜け出したい。怖い。怖くて耐えられない。
その時、ガチャンと大きな音がした。そして、景色が戻った。元の自分の部屋だ。
しばらく呆然としたが、あの凄まじい恐怖感は失くなっていた。
音は壁の向こうから聞こえた。隣の静緒さんの部屋で大きな物が床に落ちたような。
何事かあったのだろうかと部屋を出て隣の部屋のインターホンを押した。
しばし間を置いてインターホンから静緒さんの声が聞こえてきた。
「はい」
「隣の中村ですが、大きな音がしたので。大丈夫ですか?」
「あっ、ごめんなさい。うっかりタンスの上の物を落としちゃって。うるさかったわよね。」
「片付けるの大丈夫ですか?」
「ありがとう。大丈夫ですよ。」
「そうですか。では失礼します。」
インターホンを切った頃、下から階段を上がって来る大家さんと目が合った。
凄い音がしたけど大丈夫か、と聞くので大丈夫みたいです、と答えた。
大家さんは、そのまま階段の中腹から下に下りて、僕も自分の部屋に戻った。
それにしても、あの白昼夢は何だったのだろうか。とりとめもない不安がいつまでも残った。
次の日の朝は、静緒さんにはあえなかった。残念であったが、夜に仕事から帰って来ると静緒さんに会えた。
会えたと言うか、帰って来た時静緒さんはアパートの階段を上っていて、そのまま自分の部屋に入ったので声は掛けられなかった。
ただ気が付いた事がある。
階段を上る静緒さんは、手すりを掴んで疲れた様に上っていたのだが、その手首に白い包帯が巻かれていた。
その日から暫くの間、朝に静緒さんの姿を見なかったのだが、金曜日の夜、静緒さんに会わなければならない事件が起きた。