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3.階段を落ちる静緒さん

 全然寝たり無かったが、何とかベッドから抜け出し朝のルーティーンをこなし、出勤の準備をする。

 部屋のドアを出るとラッキーな情景が目に飛び込んできた。

 静緒さんが階段を降りる所だ。またしても、片手にゴミ袋を持っている。

 僕は、喜び勇んで早足で階段に向かった。

 階段の上から静緒さんに声をかけようとしたら、歌声が聞こえる。静緒さんが口ずさんでいる。聞いたことのある歌だ。

 「ヴェルサイユのばら?」思わず口に出してしまった。

 静緒さんが振り返り「聞こえてました。恥ずかしい。」とばつが悪そうにしている。

 恥ずかしがる静緒さんも可愛いが、僕は慌てて言葉を繋いだ。

「宝塚のヴェルサイユのばらですね。好きなんですか?」


「知ってるんですか。ええ、大好きなの。何年かぶりにまた上演されることになって、すごい楽しみ。昨夜、ラジオで言ってたのよ。」


「そうなんですか、良かったですね。」


 静緒さんとの幸せな時間に浸っていると、それを破る者がゴミ置き場から現れた。


「おはよう。」


「あっ、おはよございます大家さん。」


 大家さんは、僕と挨拶をすると静緒さんに話しかける。


「奥さんまた、旦那さん遅かったのかい?昨日も深夜まで起きていたろう。」


 僕は、大家さんの言葉を背中で聞いてバス停に向かった。


 そう言えば、ヴェルサイユの薔薇のマリーアントワネットはギロチンで処刑されたと誰かが言っていた。

 それで、深夜にギロチンの夢を見たことを思い出した。


 それから2日経った朝、僕は仕事に出掛けるためドアを開けた。すると、隣の部屋のドアも開いた。

 静緒さん。期待が胸に膨らんだ。

 期待通り、静緒さんが出て来た。しかし、愕然とした。続いて旦那も出て来た。二人は、仲良く階段の方に歩いていく。

 僕は、ガッカリしてドアを閉めた。その時、女の人の叫び声が耳を貫いた。

 見ると、静緒さんが態勢を崩して階段を落ちて行く。

 中段ぐらいで足を滑らせて、両手で手すりに掴まりお尻をついた。

 下の部屋から大家のおばさんが飛び出してきて静緒さんに駆け寄った。

 旦那さんも「大丈夫か」と言って階段をかけ下りて来る。

 僕も慌てて走って駆け寄り、「大丈夫ですか」と声をかけた。


「すまない、僕の手が当たってしまった。」

 旦那さんが息を切らしている静緒さんを覗き込む。


「大丈夫よ、少し擦りむいたけど」

 静緒さんが旦那さんに気遣っている。


「気を付けなけゃだめだよ。一人の体じゃないんだから」

 大家さんが静緒さんの下で見上げてる。


 静緒さんは、膝や肘を擦りむいただけで済んだみたいだ。

 良かった。


 でも、あの時、僕には旦那さんが静緒さんを押した様に見えた。

 

 

 



 

 

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