2.悪夢再び
黒い固まりは、巨大な大家さんの頭だ。静緒さんの部屋の下に住んでいる。世話好き話し好きの大阪型おばさんだ。
静緒さんが階段を降りた所で大家さんに捕まった。
「きのう、また旦那さんは遅かったのかい?」
大家さんが静緒さんに尋ねる。
「すいません。うるさかったですか?深夜までテレビで映画を見てたから。」
「いや、テレビの音は大丈夫だよ。床を歩く音とかで起きている雰囲気が分かるんだよ。」
僕は、静緒さんの背後を何食わぬ顔で通り過ぎる。もちろん、全神経は静緒さんに向いている。静緒さんのパーソナルスペースを横切り、耳を尖らせて静緒さんの声を体に取り入れた。
通り過ぎる時に、大家さんに会釈すると「行ってらっしゃい」と返してくれた。静緒さんも振り向いて「行ってらっしゃい」と微笑んでくれた。
幸福。
深夜映画と言うと『エレファントマン』のことか。たしか、それしかやってなかったはず。
それにしても、静緒さんの旦那さんの話しを聞くと胸にグサリと来る。静緒さんは、他人の妻ということを突きつけられる。
「だいぶ大きくなったね。何ヵ月だい。」
「もう6ヶ月になります。」
アパートの敷地を出る所で、背後でそう話してるのが聞こえたような気がしたが、バスが来るのが見えたので慌ててバス停に急いだ。
その日の夜7時頃、仕事から帰って来てアパートの門を通り、敷地の中に入ると嫌なものを見た。
人影が二人、前を歩いていた。静緒さんと旦那さんだ。
旦那さんは、背が高くてスラッとしている。髪もきっちりきまっている。男の僕から見てもカッコいい。一見するとホストの様だ。
二人ともピッタリ寄り添って歩いている、静緒さんは旦那さんを見て楽しそうに笑っている。
その姿を見て胸にグサリと来る。別に静緒さんとどうにかなりたい訳ではないが。
二人は階段をあがって自分達の部屋に入っていった。
旦那さんは、静緒さんの肩をがっしり抱いていた。まるで逃がさないと言ってる様に。
それから三日後。また奇妙な夢を見た。それはまた、風の音から始まった。
僕は、コタツに入ってテレビを見ている。ホクホクといい気持ちだった。コタツの上にあるミカンに手を伸ばした時、体が動かなくなった。何とか動かそうとするがどうにも動かない。気が付くと両肩が木の枠で固定されていた。そして、上を見ると大きな刃がギラリと先端を光らせている。
ギロチンだ。
そう思った瞬間、ギロチンの大きな刃が僕の頭めがけて解き放たれた。
目を開けた。
心臓が高鳴っている。眼球を動かすといつもの自分の部屋が闇に沈んでいる。
良かった生きている。
それにしても臨場感のある夢だった。本当に頭にギロチンが突き刺さると思った。
時計を見ればまだ深夜なので目を瞑った。アッサリ眠りに入り、目覚ましの音で叩き起こされた。