銃と魔法 7
「……はっ、魔界か」
「そうだ、魔界、または魔族の住む場所はどこにある」
剣士の男は黙りこくった。
黙秘権という奴だ、まぁそれも現代世界でしか通用しない。
「俺じゃなく魔警団に聞けよ」
「俺はお前に聞いている」
「俺から言う事は何もない」
「言え、さっきと同じ目に遭いたいか?」
「やってみろよ、出来んのか?」
剣士は顎を口出して少し揺らす。
表情を見れば挑発とすぐにわかる、立ち上がって力を込めて顔面を殴れば、牢屋の壁に鈍い音が響く。
しかし男の余裕そうな表情は崩れない。
「いってぇ…マジで殴るかよ普通」
「殴っていいと言ったのはお前だ」
「魔警団が黙っちゃいないぞ、自分たち以外のやつが拷問をしてるって気づけば」
「それも取引済みだ、死ななければどうしても良い」
再度椅子に座り、質問を続ける。
「話の続き、魔界はどこだ」
「…真面目な話、俺たちは知らない」
「俺たちはと言う事は、誰かは知っているんだな?」
「さぁな、どうだが」
質問されている立場の男、未だ飄々とした顔。
時折り、少しの笑みも見せている。
「ならこれだけ聞かせろ…この世界はどうなっている?」
「……はぁ?」
剣士の男にとって予想外の質問。
今まで見せていない困惑の表情になる。
「どう言う意味だ?」
「勘繰るな、そのままの意味だ」
「……大きく分けて二つの種がいる、俺たち人類、そして魔族」
剣士の男は、淡々と流れるように口を動かした。
昔の昔、いがみ合っていた人類と魔族。
互いに殺し、互いに奪い、互いに牽制する。
ある日を境に、二つの種は住む場所を組み分け、互いが互いを干渉しないようにした。
それが俗にいう魔界と、人類界。
実質的な和解、平和協定を結んだようになっている。
魔界に介入する術を持っている、または知っているのは地位が高い者、貴族の一番上とか王国王子レベルだと。
「世界についてはそんなもんだ、後が知りたきゃ魔警団にでも聞くんだな」
「………いや、感謝する」
椅子から立ち上がってドアの方に歩く。
「おいおい、もう終わりか?拍子抜けだな」
「聞きたい事は全て聞いた、俺の時間は終わった」
ドアを二回叩く。
するとドアが開き魔警団の男が顔を出す。
「もう良い」
それだけ言って、魔警団と男と入れ替わるように外に出た。
そしてその壁のすぐ隣にいる吸血鬼に視線を向ける。
「終わったぞ」
『……何か分かった?』
「少しだけだ、早く金をもらいに行くぞ」
取引、あの男を渡す代わりに多額の金を要求した。
渋られると思ったが、案外すんなりと受け入れられた。
反逆人が捕まると言う事は稀なことで、目撃情報を報告するだけでもお金を貰える。
数日は、飯と宿に困らなそうだ。
♦︎
「……ふぅ」
ベッドに横たわる。
異世界にもベッドがあってよかった。
このふわふわ感、現代のベッドの遜色ない。
魔警団から得た金の量は、200万デル。
1デルは日本円で大体1円、つまり200万魔警団から得た訳だ。
正直な話貰いすぎだと思ったが、反逆人たちは指名手配犯と同じなら妥当な数字だ。
得た金でまず宿を、そして吸血鬼の服を見繕った。
少女は何でもいいと口うるさかったが、センスが絶望的にない俺がやると文句を言われる。
『……これからどうするの?』
奴隷の汚い服とは一転し、気品がありそうな黒い服に変貌を遂げた吸血鬼の少女。
金髪で赤い目が相まってまさに想像の吸血鬼。
「魔界に行く方法を探し出す、基場所を聞く」
『……どうやって』
寝っ転がったベッドの足元に、吸血鬼が座る。
「当てはある、一つは王国王子レベルの奴に聞く」
『……二つ目は?』
「反逆人だ、そいつらの幹部あたりが知っているはずだ」
やつの口ぶりからして、この吸血鬼を攫ってきたのはあいつらではない。
恐らく監視役だ、魔界から吸血鬼を連れてきた別のやつが居るはずだ。
『それが無理だったら?』
「己の足で見つけるしかない…まぁ世界地図も役に立たんわけだが」
ポケットから折られた地図を取り出す。
魔界と人類界が住み場所を分けて随分経っている。
当然の如く世界地図は人類界の世界地図、魔界の場所が載っていない。
「まぁとにかく、今はお前を連れてきた反逆人に話を聞く方針だ」
吸血鬼の解答を聞かずに、俺は寝た。