銃と魔法 6
「……ようやくか」
まっすぐ歩いて約一時間、俺の視界に一筋の光が差し込む。
見間違えるはずもなく、それは外の光だ。
もし夜に入っていれば朝まで抜けられないのは確実、運が良かった。
『………すぅ』
俺の耳元で、小さな寝息が聞こえる。
あの後、吸血鬼に歩くスピードを合わせるのは効率を求める俺にとって愚策であると気づいた。
俺がおぶって歩く、一番効率が良く、吸血鬼の体力回復にも繋がる。
まっすぐ歩き森を抜ける。
森を抜けた先の景色に視線を固定された。
「……おぉ」
森の抜けた先は一面の緑色の大地。
そこから奥の方に大きな街が見える。
一目見れば日本のどの景色も比べることができない、新鮮で綺麗な画面。
何というべきか…本当にアニメの世界に入った気分だ。
「街に行くか…」
いや待て…現代世界じゃ奴らの声を聞き取れなかった。
なら、街に繰り出した所でコミュニケーションが取れない。
要約、運ゲーだ。
「クソ、見失った」
「どこ行ったんですかね…結局あいつも消えたし」
俺の数メートル右の方から五人の男が出てくる。
正直ホッとした。
一応言葉の意味は理解できる、後はコミュニケーションが取れるか否か。
「そこの五人衆」
「あ?んだよ」
コミュニケーションは出来る。
それが分かれば十分だ。
「すまない…知人に似ていた」
「……そうか」
男の黒いマントの中から両刃の剣が現れる。
次の瞬間、男が俺めがけて飛び、首に両刃の剣を振る。
それは予測していた。
首をそらして男の剣を避け、距離を取るように後方に歩く。
予めわかっているのなら容易い。
「聞くに反逆人と言ったところか、狙いはこの少女…ん?」
違和感のある首に触れば若干の痛み、それと同時に手には血が流れていた。
完全によけたと思っていたが、現代世界に来たあの剣士よりも早い。
後方に下がった俺に、二人目の男が剣を抜き俺めがけて駆ける。
その他三人は、魔法使いと言ったところか…ここは。
「……殺す」
手に赤いハンドガンが現れる。
向かってきた二人目の剣士の腹に合わせて引き金を引く。
「ぐ…ふぅ!」
丸腰と思った二人目の剣士は、突然現れた魔銃に遅れを取った、魔銃弾は見事に剣士の右腹にめり込む。
綺麗な草原は噴き出す血によって赤い草へ変化。
貫通はしなかった…防具差か?
足に力を入れ、後ろに跳ねて蹲っている男と距離を取る。
魔銃魔法使いどもに向け、それぞれ一発ずつ撃つ。
その一瞬前に、剣士の一人が魔法使いの前に入り込む。
「……ふぅ!!」
剣士は集中し、目を瞑った。
そして、剣を振るう。
剣の軌跡は魔法使いに当たるはずの魔銃弾を全て弾いた。
魔銃弾を放った時、時間差1秒もない。
奴の剣は、その誤差1秒未満の魔銃弾を切ってみせた。
「………チッ」
あんな奴、現代世界を探しても何処にも居ない。
詠唱が終わった、魔法使いたちからはデカく強い魔法。
………よし。
「ッ!魔法を撃て!」
逃げの一択だ。
吸血鬼をおぶったまま全力で街の方を目指す、街までくればさすがに奴らも追ってこない。
魔法使いたちの魔法は合計三つ、各角度から襲ってくる。
だが、焦りを感じない、何故か感じられる。
後ろから迫り来る大きな魔力…数は三つ、速度、魔法の軌跡。
一つ目は右に避け、二つ目は左に大きく移動して回避する。
そして三発目、手に持つ魔銃からの魔銃弾で迎え撃つ。
魔銃弾で相殺された魔法は、大きく爆発して草木を揺らす大きな煙幕となる。
それは丁度、反逆人の視界を遮るものとなった
それに焦った反逆人たちは、急いで煙幕を抜けようと中に入る…それが奴らの穴。
「ぐはぁ!!」
魔銃弾を弾いた剣士に近づき、腹、顎の順番で拳を打ち込む。
剣士は意識を失い、糸が切れたように倒れる。
逃げる?馬鹿げた事だ。
ここで逃げたところで、後からずっと追われるのがオチ。
「……死ね」
煙幕内の戦闘は俺の十八番。
それはどの世界に居ようと変わらない事実だ。
一人気絶、あと一人の剣士は右腹をつぶされ戦闘不能。
あとはいつもと変わらない流れ作業のようだ。
煙幕を切り裂く一つの魔銃弾、煙幕の中で鮮血とうめき声が飛ぶ。
その間に体に感じる予感に、急いで煙幕から抜ける。
魔法使いが新たな魔法を煙幕内に叩きつけるようにぶつけた。
煙幕内を抜けた所から多少の距離をとる。
それでも、髪が抜けるてしまうほどの風が吹き荒れる。
煙幕が晴れたところ、気絶した剣士と死亡した魔法使いの二人、そして少し後ろから体を震わす二人の魔法使い、さらにその後ろには右腹を撃ち抜かれ動けなくなっている一人の剣士。
「「うわぁぁぁ!!」」
魔法使いの二人が逃げたのは、煙幕が晴れ生きていた俺を視認した瞬間の事だった。
逃げられる…そう思っているのか。
所詮安全の域を出ていない、力無き者を一方的に狩ってきたようだ。
魔銃を奴らに向ける、一方通行なのが好都合。
戦争に限った話じゃない、奴らには俺の信条を送る。
「敵に背中を見せるな」
引き金を二回引く。
逃げることに頭が一杯になり、少しも斜めに移動する事はしなかった魔法使い。
そんな奴らの結末、見なくてもわかる。
予想通り魔銃弾を避けれず死んでいく。
「うおぉぉぉ!!」
「あ?」
右腹に穴が空いた剣士が、最後の力を振り絞って攻撃を仕掛けてくる。
右腹の痛みを気にしていない動きだ。
だが、それでもあくびが出てしまうほど遅い。
体全体を横にずらすと簡単に避けられた。
最後の力を振り絞った奴に避ける気力はない。
足に力を入れて腹を蹴る。
剣士は数メートルすっ飛び、起き上がらなくなる。
当たるとでも思ったか…さっきの魔法使いといい希望的観測がすぎる。
こいつも俺に構わず逃げればいいものを。
「さてと…」
気絶させた剣士を肩に乗せ、改めて街に出向く。
ここにある死体は…魔物に喰われた事になるだろう。
そして、案外早く金と情報が手に入りそうだ。
♦︎
「……クッ」
剣士の男が目を覚ました。
剣士の男は周りを見渡す。
自分の置かれた状況を理解した剣士は感情を露わにした。
「おい!これ解きやがれ!」
「………」
「聞いてんのかよ、おい!」
男のいる所、椅子に縛られ身動きが取れない剣士。
その目の前に俺が座っている。
椅子から立ち上がり、剣士の前まで行く。
そして顔面を勢いよく殴る。
剣士の顔面が赤く腫れ、目的の黙らすことに成功した。
「自分の命が惜しければ静かにしろ、質問命令をするのは俺だ…が、三つぐらい質問に答えてやっていい」
「…ここは何処だ」
質問一つ目。
「ここは牢獄の中だ、見ればわかるが窓もない、俺のいる方にしか扉はなく、出る事は不可能」
「……全員死んだか?」
質問二つ目。
「お前以外はな…運がいいと思え」
「……お前は魔警団じゃねぇだろ、何でここにいる」
質問三つ目。
「お前を連れてきたのは紛ごうことなき俺だ、その魔警団と取引をした…以上で質問の受付は終了だ」
「待て、まだ聞きたいことが」
懲りない剣士の顔面に今度は蹴りを入れる。
口の中を切った剣士は少量の血を吐いた。
「話を聞いていたか?お前の質問タイムは終わりだ」
男と向かい合うように椅子に座る。
俺もこれは初めてやる…刑事ドラマでよくみる。
「魔界は何処にある」
取り調べの時間だ
[おまけ]
男は吸血鬼はこれほどの戦闘音で何故起きないんだと不思議にそうな目でみていました。