銃と魔法 4
「はい、お望みの死体だよ」
村上に案内されたのは施術室。
そこに大きな銀色の板に乗せられた一人の魔法使い。
俺が数時間前にぶち殺した女性の死体が、裸体にされ好き勝手に人体解剖されていた。
「ゾンビ君さぁ、持ってきてもらうのはありがたいけどもうちょっと良い死体なかったの?」
「傷がついてないやつを持ってきたつもりだ」
村上は死体と俺の顔を交互に見た。
「他の死体はどんだけ汚かったのさ」
「少なくとも腹は貫通していた」
「これも貫通してたんだけど?」
「なるべく風穴が小さいやつを選んだ」
「えぇ…」と村上は困惑した。
解剖には特に問題ないだろう。
それよりも、そろそろ補給の時だ。
「ヴィクシー、一旦退け」
「ヤダ」
背中に引っ付くヴィクシーを無理矢理離す。
駄々をこねるヴィクシーの無視して魔法使いに近づき手を近づける。
前触れもなく、俺の魔銃が手に現れる。
出てくる瞬間は時間を飛ばしたように、どんなに目を凝らしても、いつの間にかそこにある。
「本当に…いつ見てもゾンビ君は意味不明だよねぇ」
少し笑いながら、村上は魔銃に目を向ける。
村上は、俺の魔銃を初めて見るわけではない。
だが、いつ見ても魔銃は彼女の目からは興味深いものらしく、いつかは研究してみたいと思っているらしい。
「一通り解剖は終わったか?」
「うん、好きにして」
村上の了承を得る。
魔銃を解剖された死体ギリギリまで近づける。
側から見れば、意味不明な行動をとっているようだが、それは違う。
「……うーん、全く見えないねぇ、音もならないし」
「俺もだ」
見えなくとも肌でわかる、体が理解している。
俺の魔銃は、この魔法使いの魔力を吸い取っている。
魔銃が俺と感覚を繋いでいるように…魔銃の感覚が分かる。
数秒後、魔銃の魔力を吸う感覚が消えた。
魔銃は魔力を吸ったら用はないと、言いたげに消えていた。
「早いね、もう全部吸い終わったの?」
「いや、恐らく内包してる魔力が少ない」
これまでも、死体の魔力を魔銃に吸収さていた。
しかし、ものの数秒で吸い終わることは異例だ。
「その死体って、ビルが運んできたんでしょ?」
俺と村上の間から、ヴィクシーが声を出す。
ヴィクシーが死体の前まで歩み、死体に指を指す。
「あぁ、だから何だ?」
「内包してる魔力が少ないんじゃなくて、時間を置いちゃったから魔力が体から外に出ていった…とか?」
「なら、此処には魔力が空気を漂っているのではないか?ゾンビ君の魔銃が空気中の魔力を吸わないのはおかしい」
村上が言ったように、俺の銃は反応を見せない。
魔力を吸収するなら同様に空気中にある魔力も、当然吸う。
しかし吸わない、吸収するなら俺の魔銃は反応を見せるからだ。
自分が出した結論を早々に否定されたヴィクシーは更なる推測を出そうと頭を捻る。
「うぅぅん…」
結局用事はなかった、唯一の魔力補給も終わった。
ここに滞在する理由なし。
こいつらの研究話を聞くほどお人好しでもない。
ゆっくり気が付かれないよう尚且つ、素早く施術室を出る。
広場から出口まで歩き、顔認証システムに腹を立てながら外に出る。
「………」
自室に帰ろう。
今日はやる事はない。
ふかふかのベッドに思い切りダイブしてそのまま落ちよう。
「……殺したい」
おかしい…早く帰ろうと、俺は言った。
いや、言ったと思っただけ、呟いた本当の言葉が耳から聞こえる。
本能レベルで刻まれている。
体が魔法使いを殺せと…体の魂部分から塗り替えられたような感じだ。
「ゾンビ…か」
村上の言葉。
俺の心臓は止まった…なのに生き返った。
生き返ることもある、心肺蘇生法、AEDなどで可能性はある。
だが…それが要因ではない。
三年前のあの時、あの黒い手に応えた時から…俺の体は侵食された。
「……帰ろう」
今度こそ、その言葉を紡ぎ自室まで走る。
歩いていると、また余計なことを思ってしまう。
♦︎
「──、ご飯よ!」
そんな声が下から聞こえる。
何度も聞いた、懐かしい母の声だ。
「……ここは」
俺はさっきまで自室に居たはずだ。
いや、確かにここも俺の自室…嗜好品の数々が置かれた魔法使いが来る前の自室だ。
「ちょっと──!?早く降りてきて!」
「……あぁ、今降りる」
夢…だったか?
にしても、妙に現実味のある夢だ。
階段を降りてリビングに向かう。
ドアを開ければ、そこには母がいた。
「……生きてる」
「何言ってんのよ、ボケた?」
母が生きている、懐かしい母の顔が、声が。
全てが俺の感性を振るわせ、思わず泣き出しそうになる。
同時に笑ってしまった。
「確かにボケてたかもな…変な夢だったよ、現実味のある、まだ手に感覚が残ってる」
「また変なこと言って、早く座りなさい」
椅子に座る。
目の前には白米、味噌汁、卵焼き…全て懐かしい。
「「いただきます」」
合掌、箸を持ち卵焼きを食べる。
口に入れた瞬間、思わず体が固まった。
「……どうしたの?」
「……いや、何でも」
箸を進める、白米、味噌汁と食べ進めるたびに鮮明に母の料理だと分かる。
分かっている…分かっているんだ。
でも、終わらせたくない、この瞬間だけは…このままで。
「ご馳走様…美味しかったよ」
「あら珍しい、いつもはそんな事言わないのに」
「気分だよ…じゃあね」
食器をシンクに置き、リビングのドアを開けた。
俺の肩に手が置かれる。
「ちょっとどこ行くの?」
「外だよ…歩こうと思って」
「外は暑いから辞めなさい…また明日でもいいでしょ?」
俺は振り向かない。
今、母の顔を見れば…戻れない気がした。
母の手を振り切り、玄関のドアを開け、あと一歩で外に出られる。
「ねぇ──」
「……何?」
「私のご飯…美味しかった?」
俺は精一杯の笑顔を作り、母の方を向いた。
「ちょっと味が薄かったかな」
玄関から一歩、外へ足を踏み出した。
その瞬間、外の景色が一転、暗闇に包まれる。
ここに居てはいけない、夢か幻想かは些細な問題だ。
少なくとも、ここに留まる事を選んだら…最悪なことが起きる気がする。
「………チッ」
耳元で、そう呟く音がした。
俺の声じゃない他の誰かの声…聞いたことのある、いつかのあいつだ。
「……甘い」
そう言葉を残して、俺は目を閉じた。
俺は、俺のエゴで魔法使いを殺す、それだけだ。
♦︎
「……ここは」
目が覚めた場所は、俺の自室ではなく何処かの森の中。
しかも直立不動の状態の目覚めだ。
目が覚めたと言うよりも、返してもらったが似合う。
場所は理解できない、ただ分かるのは単純に森の中と言うことだ。
俺の知る限りでは、日本のどの場所にも、このような広大な森は見たことがない。
『や、やめて!!』
辺りを見渡していると、少女らしき声が響く。
しかし少女の声には違和感がある…言葉の意味を頭の中に捩じ込まれたようだ。
木々を避けながら、小走りに声の方向へ走る。
それにさらに違和感があるのは、この森の木の形だ。
日本に生えているような、真っ直ぐに伸びた木。
逆にここにある木はどこか歪な形だ。
一体どこの地域だ、俺が気を失ってここで気がつくまで、俺はどれほど移動した?
「……!」
目の前に謎の人影。
反射的に木の裏に体を隠し、チラ見する。
その人影は、とても先ほどの声の主とは思えない黒く長いマントを羽織った男。
『こ、来ないで!!』
その男の所から、先ほどの少女声が聞こえる。
まさか本当に…なんて思ったが、男の前に少女がいるだけだ。
少女を襲う男の図、手から赤いハンドガンを取り出し、男に向ける。
しかし、未だ状況がわからない。
仮に、男が少女を保護しようとしていた場合…殺せない。
そう思った瞬間、男の黒マントの中から金属製の嫌な音が鳴る。
引き金に徐々に力を込めると、魔法陣が銃口に現れる。
現物を見るまでは動けない。
男が取り出したのは、一種の両刃の剣。
「……死ね」
魔法使い確定、引き金を引いて魔銃弾を放つ。
全く予想だにしていなかった横から攻撃。
刃物を出した男の腹にでかい風穴の作った。
「さて、どうだか」
数秒、死んでいるかの様子見。
死亡していると判断した俺は銃口を男に向けながら近づく。
『ひっ…やめて』
男の生死を確認しようとすると、少女の声が声を出す。
見ると、少女は身の丈に合わない一際大きなフード付きのマントを着ていた。
「興味もない、早く帰れ」
男の死体を触る。
筋肉質な、魔法使いには多い体型。
そして心臓の位置、鼓動は止まっている、完全な死だ。
『……何で、分かるの?』
そう言うと少女は突然立ち上がりフード付きマントを脱ぐ。
フード付きマントの中から現れる色は、人間と同じ肌色。
しかし、その背中にはハロフィンのコスプレ衣装のようなコウモリの様な羽が付いていた。
『私たち魔族の言葉が…何でわかるの?』
ここまで見てくれた人ありがとう!
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