銃と魔法 1
「……もう無理だ」
灰色に焼けた木々が倒れる大地を進みながら呟く。
失った、大切なものの数々を失った、もう俺には何もない。
ただ目的もなく、死というゴールの先を目指して歩き続ける。
「…はは」
何も面白くもないのに、不意に笑ってしまう。
ある言葉が頭によぎる
それは一昔前に聞かれたテレビの取材だ。
「……違った、何もかも」
『ズバリ!今この世界の兵器と魔法、どっちが強いと思いますか!?』
俺は答えた。
『勿論現代兵器だと思いますね』と、答えは半々。
魔法と答える奴は現代兵器を舐めすぎている。
「…何で、こうなった」
いつだ、世界が震撼したあの日は…一体いつだ、いやいつだった?
現代兵器が勝つとそう思っていた俺は、逆に魔法を舐めすぎていた。
「……うっ」
足がほつれて地面に倒れ込む。
本格的に体力の限界に近づいたのだ。
視線先には割れて飛んできた鏡の破片、そこに写っていた俺の目は深く濁っていた。
「……殺したい」
もう何でもいい、死んでくれ魔法使いども。
死ねよ、何なんだよテメェら死ねよ早くお前たちは何の目的があってこんな事してんだ、死ねよ。
消えろ、死ね、そう思うたびに俺に目は深く、そのさらに深く濁る。
殺したい。
けど力がない、俺にはそれを完遂するほどの力がない。
……魔法、それがあれば…あんな奴ら。
「……あ?」
割れた鏡の破片の中に俺の頭に手を添えている謎の手が写る。
手とも呼べない、かろうじて手の形を保った黒い物体。
触れられている感覚はない。
『力がいるか?』
ありがちな質問。
これは理想、つまり幻覚だ。
最後だ、最後の最後まで現実見て死ねよ俺。
「………銃だ、魔法使いをぶち殺せる銃」
何を言っている、お前にはもう生きている価値なんてない。
お前に残っているものを数えろ。
両手で数えられる程度の物もない。
縋るな、ここで死ね、現実を見て死ぬんだ。
『……次に目覚めた時、それは手元にある』
俺の頭から手がそっと離れ、俺の意識は薄くなる。
狭い視界の中、謎の黒い手が小さな粒子状になり、俺の体の中に入り込むのが見えた。
その瞬間、意識は落ちた。
♦
世界は、戦争状態になった…いや、日本だけか。
理由は不明、ただ誰の原因かは皆口を揃えて言う。
『魔法使い』と。
東京の至る所に拠点がある中、俺は一番上の司令官と言う立場にある。
そしてここは東京の拠点の中でも一番人数が多く、生存確率が一番高い場所と聞く。
それはこちらが持っているトランプでいうジョーカーがあるからだ。
「こちら三番隊!一番隊がやられました!」
手に持つトランシーバーから、耳が痛くなるほどの音圧が響く。
魔法使いが現れた、魔法使いには特徴がある。
「生き残りは!?一人もいないのか!」
「通信、応答はありません!」
一、服装が現代技術とまるで違う事。
二、何かしらの武装をしている事、剣に杖に多種多様。
三、明らかに変なところから生まれるという事だ。
一番隊がやられた…すなわち殺された。
先鋒の二十人前後の数、俺は逃げられるのなら逃げろと…そういう相手なんだと、言い聞かせてきた。
しかし、それでも逃げることは叶わない。
立ち向かった瞬間、やられる。
「逃げながら戦え!なるべく時間を稼いで一発を狙え!」
「不可能です!銃弾が謎の壁に阻まれ通りません!」
目の前にある巨大画面に目を向ける。
画面には五人、確かに銃弾が何かに阻まれ妨害されている。
その原因を作っているのが五人の中で一番前を歩く盾を持っている男。
俺たちにも理解しがたい異次元の力、このままでは直に…ここまでたどり着くかもしれない。
「時間を稼げッ!!今打つのを辞めたら近づかれて終わりだッ!」
「…了解ッ!!」
手に持つトランシーバーを切り、あいつのトランシーバーに周波数を合わせる。
悔しいがあいつは特別だ。
団体行動…軍隊、どれも似合わない。
一人で淡々と、それが奴を一番強くする。
「応答しろッ!!今どこにいる!!」
トランシーバーに向かって大声を上げる。
絶対反応できる声量、トランシーバーからは奴の声がしない。
「…なんだ」
さらに数秒待つと、トランシーバーから、無機質の男の声が聞こえる。
「どこにいるんだお前ッ!!」
「どことは?現場に決まっているだろう」
「あ!?」
「死にさせたくなければ即退却させろ、以上だ」
「ま、待て!敵の情報は─」
俺の言葉を最後まで聞く前に、奴はトランシーバーを切った。
必要ない…そう言いたいらしい。
トランシーバーの数は数を変えて叫ぶ。
「お前ら全員即退却!決して背中を見せず、打ちながら下がれ!」
「了解ッ!!」
これで、ひとまずは何とかなる。
後は何とかしろよ…ジョーカー。
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