プリン
私は呆気に取られたまま、口をあんぐりと開けて、しばらく茫然自失に陥っていた。
「ちぇっ!( •̀_₍•́ )やっぱりいいかげんな奴!」
けれども、彼を留めて置く術は無いに等しかったのだから、結果は仕方無い。奴は去ろうと思えばいつでも去れたのだから、まだうだうだとお人好しにも付き合ってくれただけましと考えるのが妥当というべきかも知れない。
『えっ?偉くあっさりと納得したって?』
とんでも無い。腸は煮え繰り返っているし、文句の一つも言いたい。けど無駄な事だ。
今、ここで割り切っても、たとえ一晩泣き喚いても、時間を無為に経過させるだけで、結果が変わる事は無い。なぜなら彼は既に去った。個人の力量でどうにも為らない以上諦める他には無かったのである。
それに大声で泣き喚いて、近所迷惑になると、この先ここに住み辛くなる。それがどういう事かというと、自分自身の身の上に反動となって却って来るって事だ。天に唾する様なものって事かな?
「さてと…( ≧ᗜ≦)੭ु⁾⁾」
私は一旦、自宅に戻って荷物を下ろし、服を脱ぐと、熱めのシャワーを浴びて、リフレッシュする。腹が減っていたので残り物の御飯とお味噌汁を用意して、簡単な猫まんまを拵えると、サラサラと一気に口に流し込んだ。
冷凍保存しておいて正解だったな♪極度に体内に残されたエネルギーが枯渇していたから、腸に染み入る。でも取り敢えずはこれで多少の元気回復には為っただろう。
『(๑˃ᴗ˂)さていよいよだが…』
私は左手に抱えて持ち帰った小さい葛籠を炬燵の上に置く…余り過度な期待は禁物で在る。見た目にも漆塗りの高そうな葛籠ではあるが、私は全くといって良い程に鑑定眼は無いので、もしかしたら見せ掛けの安物かも知れない。
単純に考えれば、人為らぬ物から渡された物だから、模造品…つまりコピーの事であるが、そう考えると模倣した原本次第といったところかも知れない。まぁ最悪、私にしか見えない『無い物』という可能性もあるので、そこら辺をまずは確認する事にした。
そう鏡である。写れば実態の在る物…写らなければ無い物と認定しても差し支えは在るまい。試してみたところちゃんと写っているから実態は在るのかも知れない。この場合の実態とは、自分以外の人にも見えるか見えないかという意味合いである。
『(´ᗜ`๑)さて…いよいよ御披露目だ♪』
私は葛籠の箱に掛かっている紐を解く。心なしか心臓がキュンと引っ張られる感覚に陥る。これがときめきというものかしらとふと気づく。
『(٥´∀`)…センチメンタルなお年頃でも在るまいし…』
そんな事を考えた自分に少し恥じ入る。そして遂にその箱の蓋に手を掛けた。
『Σ(´д`*)…待てよ?』
私は葛籠の蓋を開けようとした瞬間に思い止まる。よくよく考えてみたら中身が何かは知らないのだから、いきなり開けた瞬間に中身が飛び散ったり、膨張して巨大化する可能性だってあるのだ。
爆竹関係然りだし、形状記憶合金の如く『ジョワっ』とけたたましい掛け声とともに屋根を突き破られても困る。永年貯め込んだ頭金で購入した愛着のある我が家だ。まだローンだって残っている。
さらに言えば子供の頃に読んだおとぎ話の様にモクモクといきなり煙が出てきて、それは見事な"おじいさん"の出来上がり~チャンチャン♪…何てのも御免こうむりたい。
『ε-(•'д'• ۶)フゥ~良かったぁ、気がついて!神様ありがとう♡』
やはりここは一度慎重にならねば…などと胸を撫で下ろしていると、いきなり唐突に話し掛けられた。
「૮₍ - ⤙ - ₎აおぃ兄ちゃん…いい加減にしろや!いつまで待たせんねん♪優柔不断なやっちゃな!」
「…!?∑(OωO; )な、葛籠がしゃべったぁ~!!」
「૮₍⇀‸↼‶₎აど阿呆!ツズラがしゃべるかい!中だよ中!早よ開けんかい、この馬鹿たれが!」
そう言われてみれば確かにツズラの中から言葉が聴こえる。それにどんだけ自己主張すれば良いのか、ツズラが生き物の様にのたうち回っている。
とても分かりやすい。そしてこれならどんなに鈍感な奴でも気がつくに違いない。
僕は驚きを通り抜けると想わず苦笑いしていた。けれども言葉の主はかなりお冠だ。
「ε-ε-ε-( ノ゜∀゜)ノはいはい、今開けますからね…」
いきなり飛び出して飛び蹴りされても困るし、ましてや呪いを掛けられても甚だ迷惑なので、僕は速やかに蓋を開けた。
するとそこにはつぶらな瞳をした何とも可愛らしい小さな生き物が収まっていた。垂れた耳が特徴的で、見た目は子犬の縫いぐるみと想っていただけると分かりやすい。
「おっ♪⁽⁽٩(◍˃ᗜ˂◍)۶⁾⁾可愛いやん♡」
僕は反射的に口走る。けれども次の瞬間にその言葉を後悔した。
そいつはパチッとまばたきするとヒョコっと立ち上がる。その軽快さは見事なものだった…が!、突然腰を抑えると「アイタタタ…」と顔を歪めた。爺じゃあるまいに…。
「(๑˃ᴗ˂)✧大丈夫?」
僕は心配そうに声を掛ける。するとそいつはいきなり食ってかかった。
「૮₍⇀‸↼‶₎აお前、優柔不断なやっちゃな…観てて腹立ってくるわ!まぁでもしゃあない。これも運命や!おいらが導いてやるさかい、しゃんとしいや♪」
そいつは腰の痛みをごまかす様に、両手を充ててふんぞり返る。何か現金な奴である。
状況を今ひとつ理解出来ない僕は、恐る恐る尋ねた。
「あのぅ…ꉂꉂ(°ᗜ°٥)このツズラは僕が奈落から貰ったお土産だったはずなんですが、これはいったいどういう事なんですかね?」
「૮₍⇀‸↼‶₎აあぁ…そうだったな…」
そいつは急に思い出した様に機嫌を治した。
「૮₍ ˃̵ࡇ˂̵ ₎აチェッ…思い出したぜ。今でも腹が立つ!アイツのお陰でどんだけ不自由な想いをさせられた事か…やっと解放されたんやからな!そう言う意味では少なくともお前はおいらの恩人や♪何でも言うてくれや。大抵の事はやったるで♡」
どうやらこのアプローチは成功だった様だ。コイツも奈落には腹を立てているらしい。今後はこの線で共闘するのが正しい選択というものだ。
「(๑´❛ ᗜ ❛)੭ ੈへぇ~お前さんも奴が気に入らないのかい?僕もアイツのわがままに振り回されて散々さ♪なら仲良くやれそうだね♪よろしく、僕は只野安易だ!」
「ꉂꉂ૮₍˶ᵔ ᵕ ᵔ˶ ₎აおいらはプリンや♪よろしゅう♡それにしてもお前、面白い名前やなぁ♪愛着が湧きそうだわっ!愉しくやろうや♪」
『(✧(°ᗜ°´٥)プリンかい!どっちが面白いんだっちゆ~の♪まぁでもせっかく機嫌が治ったんだ!ここは大人の対応をするとしようか…』
僕はすぐにそう考えると頭を切り替えた。だから素直に同意した。
「(๑´❛ ᗜ ❛)੭ ੈだね♪こちらこそよろしく♡それでプリンは何が出来るんだい?」
「૮˃̵֊ ˂̵ აおいらの特技は時空転移やん♪スゲ~やろ?但し、行けるんは確定した過去だけや!不確定な未来に行くんは死んでも出来へん♪まぁその他モロモロや!もっと親しくなったらイロイロ教えたるわ♡」
プリンは平然と言い切った。その他モロモロが何かは知らんが、時空転移ってスゲ~じゃんて話に尽きる気がする。て言うかこれこそ出し惜しみするべき特技なのではと想わぬでも無い。
それをサラッと気軽に述べちゃうところなんかは、気のいい善い奴である。
それにしても過去しか行けないとは残念な事だが、ものは考えようだ。やり方によってはとても有益な事になるかも知れない。
そう…良い子のみんなも気がついたよね?過去なら良いんだから、この2ヶ月間の当たり馬券の確定を書き留めておいてから、そのレースの前日までに目的の馬券だけを買っておけば良いのだ。
万馬券だけごっそりまとめ買いしておけば、すぐに家のローンなんて完済可能だし、好きな旅行も行き放題だ。チーズバーガー1000個だって夢じゃない。
それに銀行から諭吉君をたくさん卸して来て、ベットの隅から隅まで並べてみたいって衝動にも駆られるな♪そんな事を想っていると、プリンはすぐに反応した。
「૮₍⇀‸↼‶₎ა…お前、馬券で儲けようとか想ってるやろ?」
そう言うと大きな溜め息を洩らした。