表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/327

第80話 帰り道1

 (みこと)の提案とはいえ、まさか四条を家に招くとは……今朝の俺には信じられないだろうな。


「ほ、本当に送ってくのかよ? 一人で帰れ――」

「――だめ」


 四条の否定の言葉をスパッと止めたのは当然、(みこと)

 俺はクスクスと笑い、四条に言った。


「ちゃんと送られてやってください」

「……はぁ、仕方ねーな」


 四条は靴を履き、俺もその後に続く。

 玄関には親父と(みこと)が見送りに来ると、四条は恥ずかしそうに小さく頭を下げる。


「これ、本当にもらっちゃっていいのか……?」


 それは、(みこと)が着られなくなった洋服のお古。

 (みこと)の部屋に入った四条に、(みこと)が「お古の服はいらないか?」と聞いたところ、取り出した服を見て目を輝かせていたのが、隣の殊勝な四条さん。

 洋服の入った紙袋を抱え、(みこと)に聞くも、


「大丈夫大丈夫。もう着られなくなっちゃったやつだから」


 確かに、(みこと)と四条の身長差を考えると、ちょうどいいかもしれない。とはいえ、(みこと)の服は、家の事情もあり、そう多くない。

 四条もそれを理解していたようで、珍しく遠慮気味だった。

 だが、それでも欲しいというのには理由があった。

 ……が、(みこと)も四条もそれを教えてはくれなかった。

 家から出ると、俺は四条と共に歩き始めた。


「刀、持って行くんだな」

「夜はモンスターの動きが活性化しますからね。昼間見つかっていなかったとしても、普通に路地を歩いている事もあるのが今の世の中ですから。ところで、質問があるんですけど」

「何だよ」

「初めて八王子支部で会った時、八王子の事『ど田舎』とか言ってましたけど……四条さん八王子住みなんですよね?」

「…………」


 何か……黙ったな?


「……寮だよ寮」

「実家は違うと?」

「吉祥寺にある」


 それはなかなか強いな。


「し、新宿支部の近くに寮なんて高くて建てられる訳ないだろ! だから八王子に寮が建ったんだよ! 何か文句あるか!?」

「いや、別にないですけど、八王子に愛はないんですか?」

「私、何を説かれてるの?」


 何て純粋な目なんだ。


「いいところじゃないですか、八王子」

「それはきゅーめーが八王子の全てを知らないからだ」

「……寮ってどこにあるんですか?」

「……小宮」

「…………」

「何か……黙ったな? おい、今黙ったよな?」

「え、じゃあ今から小宮まで送らなくちゃいけないんですかっ!?」

「おま、きゅーめー! さっき『ちゃんと送られてやってください』とかほざいてたじゃないか!」

「小宮か……遠いなぁ。いいベッドタウンなんだけどなぁ……」

「で、電車で帰るよ! 駅まででいいから!」

「いえ、(みこと)の命令なんで、ちゃんと送りますよ」

「あの家の実権は何で高校生が握ってるの?」

「その方が円滑に回る事を、俺と親父は知ってるんですよ」


 俺の説明に、四条は珍しく納得した顔を見せた。


「なるほどな」


 そこから先は特に難しい話はなく、他愛のない話ばかりだった。

 電車に乗り小宮まで着いた時、四条は改札を抜けてから俺に言った。


「きゅ、きゅーめー……」

「どうしたんです?」

「そ、その……今日はありがとな」

「いえ、俺と(みこと)こそ、ご馳走様でした」

「あ、あれはもういい! 気にするな! っていうか思い出させるな!」

「そうですか? それじゃ、わかりました」

「そ、そうか……うん」

「寮はどちらです?」

「あっち」


 言いながら、四条は正面を指差した。

 俺が歩こうとすると、それを四条が止める。


「ほ、ほんとここまででいいから! 他の鑑定課の人間に見られたら私が終わる! いいから! 帰れるからぁ!」


 頑なな四条に、俺も困ってしまう。

 しかし、これ以上強引なのも四条に悪い。

 そこで俺は、及第点という名の(みこと)への連絡を考えた。

 コールする事三回、(みこと)はすぐに電話に出た。


『どうしたの、お兄ちゃん?』

「あ、(みこと)? 実はさぁ――」


 それから、俺は(みこと)に全てを話した。

 四条の寮が小宮にあった事、小宮に着いてから今日の礼を言われた事、そして、改札より先の護衛は必要ないと言い張っている事。


『何、お兄ちゃん、そんな事で電話してきたの?』

「いや、それしか正解が出なくてさ」

『ふーん、でも悪くないかも』

「だろ?」

『違う違う、そういう事じゃなくて』

「何だよ?」

『私が四条さんなら、お兄ちゃんが電話を掛け始めた瞬間に――』

「――瞬間に?」

『家まで逃げる』


 そこまで言われて俺は気付いた。

 (みこと)に電話を掛けて以降、四条から目を離した事を。

 (みこと)の言葉を疑うも、付近には誰もいない。


「おい……本当にいないぞ」

『でっしょー? なら、遠目から護衛すればいいんじゃない? 一応本人からの許可も最初にとったんだし、大丈夫大丈夫』


 なるほど、『悪くないかも』とはこういう事か。

 護衛対象を遠目から守る……か。

 確かにやった事がないからちょうどいいかもしれない。

 そう思い、俺は四条が指差していた方へ向かうのだった。

カクヨムにて先行掲載中。

気になる方は、お手数ですがページ下部のリンクから、カクヨム版へどうぞ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓カクヨムにて先行掲載中↓
『天才派遣所の秀才異端児 ~天才の能力を全て取り込む、秀才の成り上がり~』
【天才×秀才】全ての天才を呑み込む、秀才の歩み。
↓なろうにて連載中です↓


『善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~』
獣の本当の強さを、我々はまだ知らない。

『半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~』
おっさんは、魔王と同じ能力【血鎖の転換】を得て吸血鬼に転生した!
ねじ曲がって一周しちゃうくらい性格が歪んだおっさんの成り上がり!

『使い魔は使い魔使い(完結済)』
召喚士の主人公が召喚した使い魔は召喚士だった!? 熱い現代ファンタジーならこれ!

↓第1~2巻が発売中です↓
『がけっぷち冒険者の魔王体験』
冴えない冒険者と、マントの姿となってしまった魔王の、地獄のブートキャンプ。
がけっぷち冒険者が半ば強制的に強くなっていくさまを是非見てください。

↓原作小説第1~14巻(完結)・コミック1~9巻が発売中です↓
『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ』
神薬【悠久の雫】を飲んで不老となったアズリーとポチのドタバタコメディ!

↓原作小説第1~3巻が発売中です↓
『転生したら孤児になった!魔物に育てられた魔物使い(剣士)』
壱弐参の処女作! 書籍化不可能と言われた問題作が、書籍化しちゃったコメディ冒険譚!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ