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天才派遣所の秀才異端児 ~天才の能力を全て取り込む、秀才の成り上がり~  作者: 壱弐参
第一部

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第7話 仮説

 あの後、相田さんはすぐに天才派遣所に戻って行った。

 結局、ゴブリンジェネラルの死体の件は奴が転んだところを攻撃したら運よく倒せた……という事にしておいた。

 若干、相田さんは訝しんでいたが、それ以外の嘘を俺は思いつかなかった。

 妹の(みこと)も、家に帰って夕飯の支度をするというので帰って行った。

 俺はというと……、


「安静のために、一晩入院……か」


 そう呟き、見慣れぬ天井を見つめる。

 そして、おもむろに手を伸ばし、強く拳を握った。

 …………やっぱり、これが【剣士】の力。

 気絶する前にメッセージウィンドウを見た時は幻かと思ったけど、これはやはり、俺を助けてくれた【剣聖】水谷結莉の最下位天恵。

 戦闘系の天恵は俗に言う【大当たり】というやつで、手に入れただけで安定した生活が手に入るとも言われている。

【戦士】は全体的に力と体力寄りの身体強化を得、【剣士】であれば全体的に力と素早さ寄りの身体能力を得る。

 何が凄いかというと、これは【永続効果】なのだ。

 つまり俺は……スタートこそ遅れたものの、戦闘系の天恵を手に入れてしまったのだ。


「……【探究】か」


 あの時、俺の天恵【探究】は何故発動に至ったのか。

 …………おそらく、発動条件は驚異的な集中力(、、、)

 ゴブリンジェネラルに殺されそうになったあの一瞬。

 俺は過去起きた全てを見るような走馬灯を見た。

 つまり、死地に立たされたあの一瞬で、【探究】は発現したのだ。


「そして【集中】……!」


 モンスターにも種ごとに天恵があるという話は聞いた事があるが、ゴブリンジェネラルの天恵が【集中】だとは思わなった。

 だが、それが功を奏したのだろう。

【集中】状態が続き、【探究】が、ゴブリンジェネラルの天恵(しゅうちゅう)と、俺の天恵(しゅうちゅう)を暴き続けた。


「……【超集中】」


 死の淵による集中力と【集中】の天恵が、その進化を急速に早めた。そして集中は成長し、【超集中】へと至った。


「この仮説が正しければ……」


 俺はベッドの上で【超集中】を発動させ、【剣士】の上位天恵【剣豪】を思い浮かべた。

 すると、


 ――【探究】を開始します。対象の天恵を得ます。


「やっぱり……!」


 ――【探究】の進捗状況。天恵【剣士】の解析度8%。


「いいぞ、これなら俺は――」


 だが、


 ――失敗。技術リソースが足りません。

 ――天恵【剣士】の解析度は13%で停止しました。


「そうは問屋が卸してくれないって事か……」


 技術リソース?

 この意味を理解するには……やっぱり、実戦しかないか。


 ◇◆◇ 翌日 ◆◇◆


 朝一番で退院した俺は、一度家に帰った後、天才派遣所まで足を運んだ。


「あ、伊達くん! おはよう」

「相田さん、昨日はありがとうございました」


 頭を下げて相田さんに昨日の礼を言うと、彼女は俺の背中に目をやった。


「伊達くん……それは?」


 背中には相田さんがかつて見た事のないもの。


「それって剣だよね? 急にどうしたの?」

「訓練用の刃引きしてある剣ですよ。今日は訓練場を使わせてもらおうかと」

「珍しいね。いつもなら日課(、、)をしてから来るのに」


 日課とは、俺が毎朝やっている運動の事だ。

 天才と言えど、筋力がなくてもいいという事ではない。

 走り、負荷を加え、自分を追い込む。

 そうでもしなければ、宇戸田の時のような荷物は持つ事さえ出来ないだろう。

 理不尽にはもう慣れた。だけど、屈さぬ訳じゃない。

 理不尽に負けないために、俺は自分に言い訳をしたくなかったのだ。

 まぁ、それだけ自分を追い込んでも負けるのであれば、それはそれで諦めがつくしな。


「ははは、退院の手続きで時間とられちゃって」

「そう、今日は東寮の掃除依頼確保しといたよ」

「ありがとうございます、後程確認させてもらいますね」


 そう言って、俺は天才派遣所に併設されている巨大な広場、訓練場へと足を運んだ。

 派遣所の訓練場は天才派遣所に登録されている人間であれば、簡単にレンタル出来る。当然、基本使用料は無料である。素晴らしい。

 無論、特別なレンタルルームであれば別途使用料がとられてしまうが、そこを使うのは主に魔法士だったり、回復術士だったり、高ランクの天才だったりする。

 まぁ、使用料といってもグレードごとに500円から数千円のレベルだ。

 だが、500円は伊達家にとって大金。

 あの硬貨で我が家の一日の食費だ。

 いや、(みこと)の節約術を使えば場合によっては二日生きられるかもしれない。


「……ふぅ」


 訓練場の端の方に荷物を置き、身体の調子を見る。

 小走りし、腕を回し、首を回す。

 ……若干鈍痛は残っているものの、そこまで気にする程の事ではない。まぁ、実戦になればそれが命取りになるけど、今日はただの訓練だ。軽い運動ならば支障をきたす事はないだろう。


「でも……はは、凄いな」


 戦闘系の天恵がこれ程恵まれているとは。

 身体の底から力が漲ってくる。

 走っても、全力で走っても、身体に負担を感じる事はない。


「いや……これが普通なのか?」


 たとえ回復術士といえども、天恵を発現した者の身体能力は、一般人を凌駕する。回復系、補助系であっても、アスリートレベルの身体能力は手に入れられるのだ。

 そう考えてみると、宇戸田のチームにいた回復術士の田中は、まったく訓練していないとも言える。

 軽い準備を終えると、俺は訓練用の剣を鞘から引き抜いた。

 そして、【超集中】を発動しながら剣を構え……振った。

 直後、俺の仮説(、、)がまた動き出したのだ。


 ――【探究】を開始します。対象の天恵を得ます。


 ……ビンゴ。

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