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第71話 面白い依頼

「伊達さ〜ん……(つら)いですぅ……」


 川奈さんの表情からは、(つら)さこそ感じるものの、実際にはそんなに辛くない。

 何故なら俺たちは、朝からずっと座っているからである。

 相田さんからの面白い依頼とは、要人警護の依頼だからだ。

 要人警護にはSPが仕事に当たる事が多いものの、モンスターが突然現れる世界にとっては、天才がこれに当たる場合も増えてきた。

 当然、予算が上がる事から国の連中には支払えない。今、それを改正するために政治家が躍起になっているというニュースもちらほら聞く。


「民間が直接警護を雇うなんて珍しくないですかー? 討伐依頼ならともかく、固定時間キッチリですよ?」


 討伐任務なら早ければ十数分で終わる事も珍しくない。モンスターを捜索したとしても、3時間程だ。

 だが、今回の依頼は12時間の固定時間。

 この時間は確かに川奈さんには厳しいかもしれない。

 テレビもないしスマホも触れず、動かず騒がず、トイレも食事も交代でとる。

 この何も起きないというのが大事なのだが、それは何もしないのと同義。

 緊張感の維持こそ大事だが、適度なリラックスが必要なのも事実だ。


「それに、ここ何なんですか? 東京の外れまで来て、外からは何も見えませんでしたが、怪しくないです?」

「管理区域」

「えっ!?」

「になる予定の建物だって」

「えっ!? 民間企業が管理区域を建てるんですか!?」

「しー。相田さんがコッソリ教えてくれたんだよ」

「なるほど……だから天才を警護に……」

「要人警護なのに建物の外れの警備に回されるとは思わなかったけどね」

「私たちのチームが一番ランク低かったですからね……」


 中にはEランク三人というチームもあったが、俺はEランクになったばかり、川奈さんはFランク。貧乏くじになるのは必然と言える。

 別にランクが低い事が悪い訳ではない。

 今はそういう世の中だって事だ。

 誰だって命は惜しい。金があり、高いランクの天才に守ってもらいたいという気持ちはよくわかる。


「でも、まさか民間企業が管理区域を建てる時代とは……」

「元々企業の開発予定地だったとか? おそらく大きなお金が動いてるんだろうね」

「うぅ……こ、ここには(ポータル)があるって事ですよね……? でもどんなモンスターがメインなんでしょうか」

「出来ればその情報も知りたかったけど、相田さんにも回ってきてないって話だよ」

「そ、そんなんで依頼消化なんて出来るんですかぁ……?」

「言ったでしょ? 大きなお金が動いてるって」

「え?」

「さっき顔合わせした警護の他に、しっかり雇ってるって事だ」

「それって、高ランクの天才を別に雇ってるって事ですか?」


 俺が頷くと、川奈さんは椅子の背もたれに身体を預けた。


「なーんだ、なら大丈夫ですね!」

「本来、何も起きない任務だよ。何か起こるのは本当に特別な時……ん?」


 急に川奈さんが壁に立てかけてあった大盾を正面に置いた。


「何やってるの、川奈さん?」

「あ、あはははは……その、ちょっと」


 まるで隠れているようだ。

 隠れる? モンスターはいない。

 いるのは――、


「あ」


 前方に見える十字の廊下。

 そこを左から右へ歩く集団を見る。

 そこには知っている顔があった。

 別に顔見知りという訳ではない。俺が一方的に顔を知っているだけだ。

 相手はそう、テレビの中の人物。

 KWN株式会社、代表取締役、社長執行役員兼CEO……川奈(かわな)宗頼(むねより)


「な、何でこんなところにぃい……」


 なるほど、ただの民間企業ではないと思ってたが、まさかKWN(カウン)が関わっていたとは。おそらく、相田さんはこの情報を知らなかったのだろう。

 何故なら彼女は、川奈さんがKWNのご令嬢だと知っているのだから。つまり、KWN(カウン)の下請けから依頼が入った可能性が高い。

 しかし、川奈さんと血の繋がった人物である。一応聞いておくか。それがチームリーダーというものだ。


「挨拶してくる?」

「するわけないじゃないですかっ!」


 川奈さんはたまに自ら墓穴を掘りに行く。

 そのボリュームであちらまで届かない訳がない。

 廊下にいる川奈氏がちらりとこちらを見たのだ。再び大盾に隠れる川奈さん。

 俺はぺこりと一礼し、足を止めさせた事への謝罪を伝えた。

 しかし川奈氏は遠目で見ても凄いな。

 スーツに包まれながらも、その気迫というかオーラは、一朝一夕(いっちょういっせき)で身に付けられるものではない。鋭い眼光と、王者のような立ち振る舞い。

 大会社の社長というのは、ここまでのものか。

 そう感心していると、川奈氏はいつの間にか消えていた。


「川奈さん、もう大丈夫みたいだよ」

「行きましたぁ……?」

「行った行った。カッコいいお父さんだね」

「見てくれはカッコいいかもですが、家では結構だらしないですよ。母にいつも怒られてますし」

「どういう風に?」

「『娘がいるのにパンツで過ごすな』とか、『靴下を脱ぎっぱなしにするな』とかですね。母は理不尽な事は言わないですから、基本的には父が悪いです」

「な、なるほど……」


 もっとキッチリしてるイメージだけど、家庭ではどこも同じなのかもしれないな。


「てことは、KWN(カウン)が管理区域を……?」


 川奈さんの問いに、俺は頷く他なかった。


「……そういう事なんだろうね」

「うーん……どうしよう」

「何が?」

「ちょっと気になってきちゃいました」

「まぁ気になるのはわかるけど……」

「……持ち場(ここ)、離れちゃまずいですよね?」

「え?」

「ご、ごめんなさい! 私ちょっと行って来ます!」

「えぇ……」


 まさかこんな事になるなんて……。

 確かに面白い依頼だよ、相田さん。

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