表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/327

第4話 真価

「は……ははは……」

「ガ……ガァ……?」


 突然笑い出した俺を見て、ゴブリンジェネラルも不可解を顔に浮かべている。

 それもそうだ、こんな変な奴……たとえモンスターでもドン引きだろう。

 これは……つまりそういう事か。

 俺は今まで、どうして自分の天恵が使えないのか考えていた。

 だが、考えるだけでは何も解決しなかったというだけの話だ。

 俺は今まで、戦闘の場に立ってこなかった。

 いや、立ったとしても今と同じ状況になる可能性は低い。

 これ程の……これ程の窮地……天恵なしでは立てるはずもない。


「ハハ……ハハハハハハッ!!」


 高らかに笑う俺に、ゴブリンジェネラルが対抗するように吼える。


「ガァアアアアアアアアアアッ!!!!」


 まるで、「自分の方が強い」と誇示するかのように吼える。


「勘違いさせたなら悪かった。お前を笑ったんじゃないんだ。これまでの俺が滑稽でな……ははは」

「グアァ……?」

「まぁ、詳しい事は後で調べればいい」


 言いながらナイフを構えた時、ゴブリンジェネラルも理解したようだ。

 ――次で決着だ、と。


「集中ぅ……集中っ……集中ぅう……!」


 腰を落とし、呼吸を整え、息を吸い……止める。

 そして、俺は気付いた。

【集中】の天恵が成長した【超集中】の真価を。


「はっ……凄いな」


 見える……観える……視える……!

 動作がスローモーションに見えていた【集中】とは違う。

 俺の全てがゴブリンジェネラルを捉えて離さないかのようだ。

 奴の視線の動き、視界の範囲、死角の範囲。

 血管の脈動さえも視える。

 だからこそわかる。

 奴が次にどう動くかが……!

 奴は言葉すら発さず、小指が欠けた右手から……左手へ大剣を預け……投げた!

 俺はそれを屈んでかわし……そう、そこはやはりタックルだよな。それがお前の癖であり、お前の弱点だ。

 丸めた身体で飛び込んできたゴブリンジェネラルを、屈んだままかわす事は困難。

 だが、この【超集中】があれば――、

 どのタイミングで足が上がり、どのタイミングでその下をくぐればいいかを教えてくれる。

 そして、どのタイミングで跳べばいいか……!


「っ! そこだぁああああああああああああああっ!!」


 反転しながら大地を蹴り、ゴブリンジェネラルの後頭部……狙うは――首の付け根!


「ッッッッ――!?」


 刺さった瞬間、ゴブリンジェネラルの悲鳴は聞こえなかった。

 ただ、ナイフから伝わる振動だけが、奴の悲痛を伝えた。


「悪いな、まだ死ぬ訳にはいかないんだよ……」


 俺の言葉が伝わったのかそうでないのかはわからない。

 だが、奴は奴で自らの負けを悟り、自らの死を理解したように見えた。

 ゴブリンジェネラルは膝から崩れ落ち、そのまま地面に倒れていった。

 ……緊張からか、震えてナイフから手が離れない。


「はぁはぁはぁ……」


 身体から全てが抜けていくようだ。

 ダメだ……何も考えられない。

 死闘を終え、気が抜けた?

 いや、違う。


「ぁ……やば……」


 俺は思い出した。

 そうだ、俺の背中は血塗れだった。

 今の死闘の中、傷口が更に拡がったのだ。

 背中から流れる血を、満身創痍(まんしんそうい)の俺が……止められる訳がない。


「くそ……」


 そんな俺の願いのような悪態でも拾ったのか、更に俺を地獄に叩き落とす光景が目に広がった。


「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 響く咆哮。今の今まで聞いていた足音。


「嘘だろ……」


 そして、またゴブリンジェネラルは現れた。

 まさか、二体目がいたとは思わなかった。


「っ! くぅっ!」


 ダメだ、身体が動かない。

 当然だ。ランクGの俺がランクBのゴブリンジェネラルを倒したんだ。大金星と言えるだろう。だけど、二回目の奇跡を起こすのはもう――。


「グルァ! グルァアアアアア!!」

「ははは、怒ってるのか。まぁ……そりゃそうだよな」


 仲間の殺害現場だ。

 ゴブリンジェネラルに仲間意識があるのかはわからないが、誰が敵かはわかっているようだ。


「クソッタレ……」


 自分の最期を悟った俺は、地面にどっと腰を落としてしまった。

 ナイフを握る力もない。そもそも血が足りない。神にでも祈ろうか。いや……奇跡はもう見せてもらったか。

 ゴブリンジェネラルの足音も、聞いてみれば悪くないかもしれない。


「ごめん……(みこと)


 不甲斐ない兄を……許して欲しい。

 最後に残ったのは、妹への懺悔のみ。

 ニタリと笑うゴブリンジェネラル。振り上がる大剣。

 あぁ……最後に一花咲かせる事が出来たし……仕方ない、か。

 大剣が振り下ろされるその時、俺は死を悟りゆっくりと目を閉じた。瞬間、俺の頬を風が撫でたのだ。

 同時に鼻腔を通る華やかな香り。何と言うか……ほんとフローラル。

 戦闘の場に似付かわしくない肌と鼻からの情報は、再び俺の目を開けさせた。


「間に合って良かった」


 目を開けてすぐ、俺はその背中に圧倒された。

 背後から得られる情報は確かに少なかった。

 だが、これだけは言える。この細見の身体からどうやって、あのゴブリンジェネラルの一撃を受け止められるっていうんだ。

 細剣を手に、大剣を振り払う程の膂力。


「ガァアアアッ!」


 ゴブリンジェネラルも、一瞬で彼女(、、)が脅威だと気付いたようだ。

 すらっとした体躯、長い四肢。赤みがかった黒のショートボブは、おそらく戦闘に特化するためだろう。端正な顔立ちから見える芯のある強い視線は、ゴブリンジェネラルを捉えて離さない。

 何で……何でこの人(、、、)がこんなところにいるんだ?

 そう、俺はこの人を知っている。

 顔見知りではない。あまりにも有名過ぎて知っているのだ。

 日本には、三つの巨大なクランがある。


 ――一つ、北の【ポ()ット】。

 ――一つ、西の【インサニア】。

 ――一つ、ここ東の【大いなる鐘】。


 そして彼女は、その【大いなる鐘】が誇るランクSの強者。

【剣聖】――水谷(みずたに)結莉(ゆり)

カクヨムにて先行掲載中。

気になる方は、お手数ですがページ下部のリンクから、カクヨム版へどうぞ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓カクヨムにて先行掲載中↓
『天才派遣所の秀才異端児 ~天才の能力を全て取り込む、秀才の成り上がり~』
【天才×秀才】全ての天才を呑み込む、秀才の歩み。
↓なろうにて連載中です↓


『善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~』
獣の本当の強さを、我々はまだ知らない。

『半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~』
おっさんは、魔王と同じ能力【血鎖の転換】を得て吸血鬼に転生した!
ねじ曲がって一周しちゃうくらい性格が歪んだおっさんの成り上がり!

『使い魔は使い魔使い(完結済)』
召喚士の主人公が召喚した使い魔は召喚士だった!? 熱い現代ファンタジーならこれ!

↓第1~2巻が発売中です↓
『がけっぷち冒険者の魔王体験』
冴えない冒険者と、マントの姿となってしまった魔王の、地獄のブートキャンプ。
がけっぷち冒険者が半ば強制的に強くなっていくさまを是非見てください。

↓原作小説第1~14巻(完結)・コミック1~9巻が発売中です↓
『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ』
神薬【悠久の雫】を飲んで不老となったアズリーとポチのドタバタコメディ!

↓原作小説第1~3巻が発売中です↓
『転生したら孤児になった!魔物に育てられた魔物使い(剣士)』
壱弐参の処女作! 書籍化不可能と言われた問題作が、書籍化しちゃったコメディ冒険譚!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ