表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/327

第42話 いつか見た天井

 ……ここはどこだ?

 目を開けたというのに、どこだかわからない。

 目の端から見えるのは、自分の家ではないという情報だけだ。

 さて、何故正面が見えないのか。

 それには理由がある。

 一つ、目の前に顔があるから。

 一つ、顔が非常に近いから。

 一つ、どう見ても(みこと)の顔だから。

 目を逸らせば噛みつきでもしそうな顔だ。

 正直、赤鬼エティンの方が怖くないと思えてしまうくらいには、(みこと)の顔は恐ろしかった。


「……おはよう(みこと)

「おはよう、お兄ちゃん」


 とても強い語気だ。ゴブリンくらいなら倒せそうな程に。


「ここはどこでしょうか」


 時には(へりくだ)る兄がいてもいいじゃないか。

 だって怖いのだから。


「毎度お馴染みの病院ですが、何か?」

「最近多いよね、(みこと)と病院で会うの」

「お兄ちゃんくらいだよ、病院を無料で出入りする天才って」


 という事は、今回も治療費は派遣所持ちなのか。


「や、やったね」

「私としては、お兄ちゃんが何をやったのか聞きたいんだけど?」

「モンスターと戦い、ちょっと怪我をした?」

「何で疑問形なのよ?」

「いや、何だかんだで身体に影響はないみたいだし……ね?」

「【回復術士】の人が頑張ってくれたからでしょ!」


 その通り過ぎて何も言えない。

 内臓にダメージを負っても回復出来たという事は、かなりの出費だっただろう。

 命はぷんすこと頬を膨らませた後、身支度をし始めた。


「どこか行くのか?」

「学校に決まってるでしょ」


 そう言われて、俺はようやく窓を見た。

 なるほど、曇っているがどうやら朝のようだ。

 だが、朝というには少し昼に近いような?


「もしかして午前中休ませた?」

「ご名答。面会が9時からだったしねー。それじゃあ私は行くから、今日はゆっくり休む事、じゃね~」


 そう言って、(みこと)は手を振ってから病室を出て行った。

 ホッと息を吐く暇はなく、その後すぐに病室の扉が開いた。


「目が覚めたようだね、玖命クン」

「伊達くん、よかった……!」


 水谷結莉(ゆり)と、相田(よしみ)さん。

 この二人は最早(もはや)セットなのかな、と思う今日この頃。


「相田さん、水谷さん、この度はご迷惑をおかけしました」

「ううん、迷惑なんて事はないから。(むし)ろ、こちらが毎回悪手ばかりで申し訳ないくらい……」


 相田さんの言葉もわからないでもない。

 本来、起きてはならない事が起きている訳だし。

 だが、それとこれとは違うのだ。


「いえ、イレギュラーが続いただけです。誰も川の中に(ポータル)とは思いませんし、FランクモンスターのボスがAランクとは思いませんよ」

「そうだけど……」

「最近、こういった事が起きてるんですか?」


 言うと、相田さんは水谷と顔を見合わせた。

 すると、相田さんの代わりに水谷が話し始めた。


「比較的増えているという報告は受けているよ。以前、私が大怪我を負ったのもCランクダンジョンに現れたボスがSS(ダブル)のボスだったからに他ならないからね」


 そうか、水谷が病院に運ばれたってニュースになったのはイレギュラーが関係していたのか。


「最近、【大いなる鐘】は派遣所からの要請で、大きく安全マージンをとったダンジョン攻略をし、その報告をしている」

「そ、それって話していい情報なんですか?」

「問題ない。玖命クンは当事者だし、高幸にも許可はとっている」

「そう……ですか」


 すると、相田さんが補足するように教えてくれた。


「現在、天才派遣所ではダンジョン侵入の適格者のランクを上げるという話があがっています」

「……具体的には?」

「Bランク以上という事に決まりかけていましたが、今回のケースと水谷さんのケースを(かんが)みて、Aランク以上という事になりそうです」


 Aランク以上か。

 となると、俺が(ポータル)の中に入るのはまだまだ先だろうな。


「玖命クンはダンジョンに入っても問題ないんじゃないか?」

結莉(ゆり)、何言ってるのよ?」

「赤鬼エティンを単独で倒せる天才よ? 【大いなる鐘(ウチ)】でも出来る人間は数える程。手札を考えるのであれば、ダンジョンに侵入出来る人間はかなり絞られる。なら、実力のある者だけが入れるようになるべきじゃない?」


 水谷の言い分はわかる。

 Cランク以上は全天才の30%と言われている。

 Bランク以上は15%。これがAランク以上となると、5%を切ってしまうだろう。

 5%の天才だけで、世界の(ポータル)を破壊して回れるかと言われると、派遣所も首を縦に振れないだろう。


「……わかりました。有識者の意見として、Sランク以上の天才に認められた天才は、ダンジョン侵入の許可証を得られるような仕組みを構築する……という事で上に上げてみます」

「なるほど、テストをするのか。それはいい考えだね。さっすが(よしみ)!」

「ま、まだ決まってないからね? 聞くだけだから」

「派遣所はそういうところは柔軟だし、何とかなるでしょ。ハハハハ」


 これを機に、天才派遣所の仕組みが変わる可能性がある。

 俺はもしかして、とんでもないタイミングで天恵を発現したのかもしれない。


「あ、そうだ」


 思い出したように水谷が言う。


「これ、玖命クンのね」


 どちゃりとベッド脇の箪笥の上に置かれた麻袋。


「何ですか、これ?」

「ダンジョン破壊した時の魔石と、エティンの魔石だよ?」


 何をしれっと言ってるんだろうか、この人は。


「うぇ? エティンはわかりますけど、何でダンジョン破壊の魔石まで俺のって事になるんですかっ?」


 そんな驚いた俺を見て相田さんと水谷は見合ってから俺に聞いた。


「伊達くん……」

「玖命クン……」

「「……覚えてないの?」」


 どうやら俺は、記憶の一部を失っているようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓カクヨムにて先行掲載中↓
『天才派遣所の秀才異端児 ~天才の能力を全て取り込む、秀才の成り上がり~』
【天才×秀才】全ての天才を呑み込む、秀才の歩み。
↓なろうにて連載中です↓


『善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~』
獣の本当の強さを、我々はまだ知らない。

『半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~』
おっさんは、魔王と同じ能力【血鎖の転換】を得て吸血鬼に転生した!
ねじ曲がって一周しちゃうくらい性格が歪んだおっさんの成り上がり!

『使い魔は使い魔使い(完結済)』
召喚士の主人公が召喚した使い魔は召喚士だった!? 熱い現代ファンタジーならこれ!

↓第1~2巻が発売中です↓
『がけっぷち冒険者の魔王体験』
冴えない冒険者と、マントの姿となってしまった魔王の、地獄のブートキャンプ。
がけっぷち冒険者が半ば強制的に強くなっていくさまを是非見てください。

↓原作小説第1~14巻(完結)・コミック1~9巻が発売中です↓
『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ』
神薬【悠久の雫】を飲んで不老となったアズリーとポチのドタバタコメディ!

↓原作小説第1~3巻が発売中です↓
『転生したら孤児になった!魔物に育てられた魔物使い(剣士)』
壱弐参の処女作! 書籍化不可能と言われた問題作が、書籍化しちゃったコメディ冒険譚!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ