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第41話 ◆決着

【剣聖】水谷結莉(ゆり)と、【元帥】越田高幸は、最初に遠目から巨大な赤鬼エティンを発見した。

 5メートルは超えよう体躯を素早く動かし、木槌を大きく振る姿は正にAランクのモンスターといえた。

 その姿を見、水谷は現場へと急いだ。

 だが、それを止めたのは越田だった。


「ちょっと、何よ高幸っ?」


 越田は眼鏡をくいと上げ見据える。

 水谷の視線の先には、赤鬼エティンが襲う玖命。

 だが、越田の見解は違った。


「あれは……何だ?」


 そう、小さく零したのだ。


「戦闘に……なっているじゃないか」


 越田には、玖命の実力とエティンの実力が、拮抗しているように見えたのだ。

 越田の言葉に、水谷も息を呑む。


(先日、手合わせした時とは明らかに違う。あれからこんなにも早く成長出来るものなの……? いえ、玖命クンの天恵なら(ある)いは……?)


 水谷は玖命の【探究】の全てを知らない。

 集中力が増すごとに天恵を成長させる、玖命の天恵を。

 だからこその不可解。

 救援に駆けつけたはずの越田が水谷を止め、その水谷も玖命を見て足を止める。

 救援から静観へ、静観から観客へ。

 既に二人は、玖命を助けるという行動は二の次になっていた。

 何故ならそこには、(おの)が全てを賭し、全身全霊を以て強敵と戦う秀才の姿があったからだ。

 二人が駆けつければ戦闘は終わってしまうだろう。

 二人にもそれがわかっていた。

 それでも水谷は歩くという選択をとった。


「気になるのかい?」


 越田も水谷の後に続くように歩いた。

 水谷の意図に気付いたからだ。


「可能な限り近付く。もし玖命クンに何かあったら(よしみ)に申し訳ないからね」


 水谷が言うと、越田が肩を(すく)めた。


「やっぱり知ってたじゃないか。しかも名前呼びとは……相当彼にご執心のようだね」

「高幸が絡むと面倒な事になるのがわかってたから黙ってたの」

「私が彼をどうすると?」

「【大いなる鐘】に加えようとするに決まってる」

「ハハハハ、同じクランのメンバーなら強い仲間が増えるのは良い事なんじゃないか?」

「彼には……玖命クンにはウチに入って欲しくない」


 長年の付き合いがある水谷からの、まさかの拒絶。

 その意図がわからない越田が水谷に聞く。


「何故、彼をウチに入れたがらない?」

「…………ウチに入れば、確かに玖命クンは強くなる。でも、それだけの存在で終わってしまう気がする」

「ほぉ?」

「高幸の駒にさせるのはもったいないって事」


 その言い方に、越田は目を丸くさせる。


「なるほど……それ程のお気に入りか……」

「玖命クンはもっと大きくなるから」

「それはどういう意味かな?」

「玖命クンは、きっと【大いなる鐘】をも超えるクランを作る。そう言ってるの」


 水谷の強い気持ちに圧倒され、ついに越田は押し黙ってしまう。


(……結莉(ゆり)が彼に惹かれる理由もわかる。あの刀はおそらくCランクの漣のものだろうが、他の防具は量産のアイアンランク。装備から収入を考えればおそらくGランクかFランク。だとすれば天恵が発現したのは最近の事だろう。私の予想が正しければ……おそらく彼が――【無恵(むけい)の秀才】。なるほど、発現しなかった天恵がついに日の目を見たか。低ランクでAランクモンスターと渡り合う天恵とは一体何なのか……非常に興味深い)


 そんな越田の視線に気付いたか、水谷が呆れた表情で言う。


「全然、諦めてないでしょう?」

「私がいつ諦めると言ったんだい?」

「んもうっ……だから高幸には知られたくなかったんだ……!」


 膨れる水谷の横で、越田が大きく笑う。


「はははは、遅かれ早かれ、彼は世に名を轟かせていたよ。その羽化を最前列で観られたんだ。結莉(ゆり)には礼を言っておくよ」

「……面倒な男」

「組織の長をやっていると面倒にもなる。まぁ、今はそんな事どうでもいい。今は――」

「――そう、今は玖命クンの成長を見守るだけ」


 水谷、越田が口を(つぐ)み、玖命とエティンの戦闘を見守る。二人の視線の先で、玖命は更なる成長を遂げる。


 ――成功。最高条件につき対象の天恵を取得。

 ――赤鬼エティンの天恵【心眼】を取得しました。


 そのメッセージウィンドウが消え、玖命が呟く。


「すぐに終わらせてやるよ……」


 その言葉を理解してなのか、エティンは過剰なまでの怒気を見せた。これまで以上の速度を見せ、玖命に突進したのだ。


(……【心眼】)


 直後、玖命はその能力を理解した。

【超集中】とは違う、戦闘特化の回避型天恵――【心眼】の能力を。

 これまで玖命は身体能力と【超集中】を使い、なんとかエティンの攻撃を避けていた。

 だが、【心眼】の天恵は、最適な活路を最速で導く能力。

 玖命の視界に視える光の糸のような誘導線。それをなぞるように動くと、エティンの突進を余裕をもってかわす事が出来たのだ。


(なるほど、動きの最適解……それが【心眼】の能力か。論文で読んだ事はあったが見たり聞いたりするより、やっぱり実践が一番わかりやすいな…………これなら――)


 玖命は正眼に刀を構え、木々を枯れ葉のように巻き散らしたエティンの背を見る。


「もう一度だ」

「ガァッ……!?」

「もう一度来い……!」

「ガギィイイイ……ッ!」


 煽られている事に気付いたエティンは、更に速度を増し、大地を抉りながら玖命に接近した。

 直後、エティンがニヤりと笑った。

 衝突する瞬間、エティンは自身にブレーキをかけたのだ。

 突進せず、その勢いを残しながら木槌を振るエティン最速最強の一撃。

 エティンは玖命に煽られた事により、冷静さを取り戻していた。怒りを演じ、最後の最後まで玖命に突進攻撃を信じさせる。そんなプランがエティンの頭にはあった。

 だが――、


「お前が利口(クレバー)なのは、戦いを通してわかってたよ」


 赤鬼エティンが最期に聞いたのは、エティン以上に落ち着いた伊達玖命のそんな言葉だった。

 突進攻撃ならば、左右どちらかに回避が必要。咄嗟のブレス攻撃があるので上への退路もない。

 だからこそエティンは止まって木槌を左から右へと振った。

 三方向全てに対応する一撃を。

 しかし、玖命はそれすらも読み、突進するエティンに向かって自分も駆けたのだ。

 互いの速度が重なりエティンは玖命を見失う。

 気付いた時には……玖命はエティンの肩口に乗っていた。

 赤鬼エティンの三つの頭が宙を舞ったのは、それから間もなくしての事だった。

 膝から崩れ落ちる胴体と共に、玖命が肩から跳び下りる。

 と、同時に、玖命は大地に背中を預けた。

 大きく息を吸い――、


「はぁああああ……終わったぁああ……」


 満身創痍(まんしんそうい)の中、Fランクの天才は、Aランクモンスターを倒し、勝利を得たのだった。

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