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天才派遣所の秀才異端児 ~天才の能力を全て取り込む、秀才の成り上がり~  作者: 壱弐参
第六部

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第354話 ◆追撃の後の先2

「う……っ……!」


 小さく漏れた声と吐息。

 薄暗い一室の中で、KWN(カウン)堂記者【御剣(みつるぎ)麻衣(まい)】が顔を歪ませながら目を覚ます。


「こ……ここは……?」


 周囲を見渡すも、そこには誰もいない。


「痛っ! こ……これは……?」


 頑丈な椅子に拘束された手足を見て、自身の状況を周囲に求める御剣。

 見渡すも、大きな部屋である事以外の情報を得られない。

 動こうにも御剣は一般人。天才ならまだしも、手足の拘束を解けるはずもない。


「誰かっ! 誰かっ!?」


 声を張り上げるも、その声は虚空に響くばかり。

 身体を大きく動かし、脱出を試みるも、やはり動かない。

 何度も声をあげ、何度も藻掻くも、全ては自身の手足を傷つけるだけ。

 呼吸を粗くし、歯を食いしばる御剣。

 拘束具が食い込み、すり切れた手首や足首から血が流れる。

 やがて俯き、何も言わなくなった御剣は、ただ床を見つめ気を強く持つ事だけを考えた。


(……落ち着け。落ち着け……大丈夫。ベルトの内側には伊達さんが仕掛けてくれたGPS発信機がある……! だから……だから大丈夫。攫われただけ。何もされてない。何もされてないのは、私に攫うだけの価値があったから……だとすれば、犯人は……!)


 口から一滴の血を流し、震える身体を何とか落ち着かせ、ゆっくりと顔を上げ、天井を見る。

 流れそうな涙をこらえるため。

 そんな御剣の頬をぼんやりと光が当たる。

 それは、窓に月明かりが差し込んだためである。

 御剣は、それをチャンスとばかりにまた周囲を見る。

 そして知る。そこがどこなのか。


「……あれは……!」


 御剣が見たのは、壁に掛けられた賞状の数々。

 賞状、表彰状、果ては感謝状まで並び、そこには授与された者の名が書かれている。


七海(ななうみ)甚一(じんいち)……!」


 それは、七海建設創始者の名であり、七海(ななうみ)総一郎(そういちろう)の父親の名前。

 前社長の名前を見つけると、その端に飾られている七海総一郎の賞状を見つけるのにそう時間はかからなかった。


(……やっぱり七海君が……!)


 自身を攫った主犯が七海総一郎だと知った御剣は、大きく息を吸い、すんと鼻息を吐いた。


(……バカみたい……)


 相手がわかればどうという事はない。

 そう思った御剣だったが、その身体の震えが止まる事はなかった。


(……な、何……?)


 これまで経験した事のない感覚に、焦りを見せる御剣。

 再び周囲を見渡し、更なる情報を求める御剣だったが、それ以上の情報は得られなかった。

 しかし、その直後に新たな情報が鼓膜を揺らす。


(……足音……?)


 御剣は徐々に近づく足音に不安以上の恐怖を感じた。


(何、これ? 怖い……怖い怖い怖い……ここに……いたくない……!)


 ガチガチと鳴る歯と、止まぬ震え。

 そこで御剣は気付く。その恐怖に似た感覚を思い出したのだ。

 それは、スポーツの日に行われた【天恵展覧武闘会】――【天武会】で行われた団体戦の初戦。

【インサニア】番場(ばんば)(あつし)と、【命謳】の山井(やまい)拓人(たくと)が、団体戦の最中ながらも個人戦を行った時の事。

 観客の多くが大きな震えを体感した。

 天才派遣所所長――荒神(あらがみ)(かおる)の魔力操作により事なきを得たあの一幕。

 そのまま放置されていれば、観客は大きな混乱へと陥っただろう。

 それに似た震えが、恐怖が今、御剣の身体に起きている不可思議。


(嫌だ……いやだ……やだ……ヤダ……!)


 その場にいる恐怖に抗えず、御剣の身体は再び大きく動く。

 コツコツと響く足音と共に、徐々に強く、大きく。

 拘束具が食い込む痛みより、その場から逃げ出したい恐怖が勝る。

 明らかに異常……そんな事態を止めたのは、扉を開く音だった。


「……っ!」


 ハっと息を呑み。

 生きているのか死んでいるのかわからない恐怖と混乱の中、男は御剣の前に現れた。


「……やぁ、麻衣。起きてたんだね」


 いつもの、七海総一郎。

 白い歯を見せ、万人が好感を抱くような完璧な笑顔。

 その貼り付いたような笑顔に、御剣は小さく「ヒッ」と悲鳴を零す。

 それを聞き、七海は両手を広げいつものように言った。


「おいおい麻衣、落ち着けよ。僕だよ。ほら、七海総一郎。な? わかるだろう?」


 おどけたように笑い、無害をアピールするその姿を見、御剣の警戒は更に上がる。


「近寄らないでっ!」


 悲鳴交じりの、明らかな拒絶。

 七海はピタリと足を止め、今度は作ったような困り顔を浮かべた。


「うーん……困ったな。麻衣のために食事を用意したんだけど……?」

「あなた……!」

「……ん?」

「……本当に七海君……?」


 その疑問がおかしかったのか、七海はくすりと笑った。


「ふ……ふふ……」


 それは徐々に大きくなり、


「ふ、はっはっはっはっはっはっ!」


 部屋中に響き渡る。

 七海は腹を抱えて笑い、ついには涙まで見せる。


「はっはっはっは! 何を言ってるんだ、麻衣? 僕だよ、七海総一郎! ついこの前も会ったばかりだろうっ?」


 その問いに、御剣は何も答えなかった。

 否、答えられなかった。


(……違う。この人は……七海君だけど、七海君じゃない……!)


 それは、確信とも言える御剣の勘。


「はははは…………まいったなもう」


 ようやく笑い止んだ七海に、御剣がゴクリと息を呑み、そして意を決した様子で言った。


「……もう、家に帰りたいんだけど」


 この場を離れるだけ。

 これまでの七海相手であれば通じた言葉。

 しかし、正面に立ち、自信に満ち満ちた七海は違った。

 視線を落とし、御剣の目をじーっと見て言ったのだ。


「何を言ってるんだ、麻衣? ここが、麻衣の家じゃないか」


 その、べったり貼り付いたような笑顔で。

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