第350話 ◆動く闇4
黒装束の集団に襲われている山井が苛立ちを見せる。
「くっ! 少しは老人を労わらんかっ!」
「はははは、老人扱いしたら怒るくせにー」
「飯田ァ! ちょっとこっちに来い、可愛がってやる」
「いやー怖いっすねー!」
先程まで攻め切れずにいた山井だが、【将校】飯田一による戦力増加能力により、山井が押されつつある状況。
強気で飯田に声をかける山井だが、それが強がりだという事は、飯田にはわかっていた。
(この状況なら、ソッコーで山井の爺さんをボコして……命謳の連中を迎え撃てばいいかな~……)
そんな飯田の考えを見透かしているのか、ここぞとばかりに山井が動く。
「ふんつ!」
山井は自身に向かってきた投げナイフを飯田に向かって撃ち返す。
「あぶ!? あっぶ!?」
飯田は辛うじてかわすも、次の一手をかわす事は出来なかった。
「っ!? 何だ……これ?」
飯田の頬を掠めたのは、山井が打ち返した投げナイフではなく、闇夜を駆ける銃弾。
頬を伝う血に触れ、その軌道を読む。
「当たった!? 今の当たったでしょっ!」
弾む声。
その声を聞き、驚きを見せる山井。
「あずっちっ!? 何故こっちに来たんじゃ!?」
山井の驚きは当然と言えた。
月見里が向かったのは御剣が寝泊まりしているホテルの部屋。
しかし、月見里の近くに御剣はいない。
「いなかったのよ!」
月見里のその言葉で、山井は全て理解した。
「何とっ!? ちぃ、敵のが一枚上手じゃったか……!」
御剣は、山井が最初に襲われた段階で既に攫われていた。
月見里が黒装束の男を一人怯ませた後、その男は山井によって倒された。しかし、その時既に、敵の行動は全て終わっていたのだ。
(ならば、今ここで儂と戦っているのは単純な遅滞戦闘! あずっちが応援として来た今、奴らの次なる行動は……!)
「初めて見る相手だけど、装備を見る限り斥候……うん、速いね。【脚力】系の天恵っすねー」
飯田は月見里の動きを見ながら、即座にその天恵を見極めた。
しかし、月見里が持つ武器については情報を持っていなかったのだ。
「何すか、その銃? ……これまでの銃とは威力がダンチじゃないっすかー?」
「こんのっ!」
【KW-00T】を使い、飯田を狙う山井だが、相手は第四段階【将校】。戦力向上さえされていないものの、集中していればかわせない事はない。
「ふんふん……ランクC、Bくらいなら対処出来そうっすね。ふんふんふん……なるほど、ちょっと怖いっすね。はいじゃ、撤退って事で」
そう言って飯田は手をポンと叩き、山井の予想通りの動きをした。
だからこそ山井は反応出来た。
飯田が撤退行動に移った時、周囲の動きを搔い潜り、一直線に飯田に向かえたのだ。
「っ! ちょ、狙ってたんすかっ!?」
「ほっほっほ、伊達に長く天才やっとらんわっ!」
飯田への一撃。
確実に捉えたその胴体。
山井も、当の飯田でさえも致命傷だと理解した。
そのはずだった――。
「ぬぉっ!?」
弾かれた山井の双剣。
離れて行く飯田の背中は追わず、山井は痺れる手を見た後、飯田への双剣を止めた犯人を見据えた。
睨むような視線を受け、犯人は言う。
「ヒ、ヒヒヒ……怖いなぁ、玖命君のお仲間は……」
遠目に見える男の正体。
月見里、山井はその存在感に、身体が動く事を拒否した。
飯田率いる黒装束の集団が逃げようとも、身体が最優先に選択したのは――警戒。
「あずっち……」
「何よ?」
「ちと撃ってみてくれんか? 弾薬代は儂がもつ」
50m程先にいる男に向かって指差し、山井は言った。勿論、月見里の懸念事項を踏まえた上で。
そこまでする理由を、相手の存在感という答えに見出した月見里は、【KW-00T】を納め、【KW-00K】を選んだ。
最高弾速を誇る狙撃銃を選んだ月見里に間違いはない。
山井はそれを止めず、ただ、その行く末を見守ったからだ。
「……っ!」
月見里が【KW-00K】を撃った直後、男はゆらりと揺れた。しかし、【阿修羅】に達した山井は視た。
【KW-00K】の弾速を一瞬で見極め、掴み、握り潰し、その残骸の粉末を投げ返す男の姿を。
「ちぃ!」
即座に山井が動き、剣の結界を敷く。
ショットガンにも匹敵するその威力を山井はかき消し、月見里を守りつつ、その男が消える姿を……最後まで見つめながら。
「ヒヒヒヒ……」
そんな笑い声を耳にしながら。
「………………何じゃアイツ……こわっ」
「何よ山じー、知らないの? 城田よ、城田英雄」
「城田? はて、どこかで聞いた事が……?」
「やーがーみ! 八神右京! これならわかるでしょっ!」
「おぉ、玖命が倒した【大いなる鐘】のはぐれか。なるほどのう……いやぁ、中々ヤバい相手じゃのう……」
山井の言葉を聞き、月見里が焦りを見せる。
「あやつ、かなり強い。攻撃に回られればちと危なかったのう……」
「何? 山じーより強いの?」
「むぅ……どっこいどっこいといったところかのう? 更に飯田、あの黒装束の連中まで加われば……負けとったかもしれんのう」
「うわやば。でもそれなら何で相手は逃げたのよ?」
「『かも』と言ったであろう? あの応援を八神が捌き切れるかは難しいからのう」
言いながら、山井は駅側を指差して行った。
山井の指先に見えたのは――二つの影。
「なるほど……ららちゃんと水谷ちゃん……来てくれたんだね」
そう、応援に駆け付けた水谷と川奈が間に合ったからに他ならなかった。




