第349話 ◆動く闇3
山井意織に情報を聞いた玖命は、すぐに次の問題に気付き、頭を切り替えた。
「っ! 門破壊は!?」
焦りながら山井に聞くと、山井は【天獄】の南側を指差した。
「既にモンスターの進行は防いだ。北側にあった門は【大いなる鐘】の第1班、西と東の門は第2班と3班が対応してる。南については第4班が門の外側に待機」
「侵入してないと?」
「出て来たモンスターがランクAを超えていてな。越田が外の安全を優先させた。だから俺が呼ばれた訳だが――」
「――山井さんはここの指揮を。俺が侵入します!」
「やってくれるか。正直助かる! 後ほど荒神さんも到着する、その時までに詳しい情報をまとめておく!」
「よろしくお願いします。もしかしたら【命謳】の件と関係あるかもしれないので、その件も合わせて荒神さんから話を聞いて頂けると助かります」
「何? お、おい、伊達っ!」
喧噪止まぬ中、玖命は山井の静止を聞かず真っ直ぐに【天獄】の中へ入って行った。
【天獄】に入ると、その異様さに玖命は驚きを隠せない。
(天才たちの死体の数が……なんて現場だ)
そこにあったのは天才の遺体の数々。
倒されているモンスターよりも人間の遺体の方が多かったのである。
(……当然か。収監されている犯罪者たちは魔石による身体拘束を受けている。モンスターを前にはただの人間同様。門からモンスターパレードを引き起こしながら開く人工門。人口密集地帯でこれが起きると、これだけ凄惨な状況を生み出してしまう…………これは早急に何とかしなくちゃ…………んっ? あれは……っ!)
食われ、引き裂かれ、引き千切られている死体の中に、玖命は比較的損傷の少ない死体を見つけた。
そこまで駆けると同時、玖命はその正体に気付いていた。
――……お前なら……もしかして……。
そんなやり取りを。
――…………私が馬鹿に見える。
そんな捨て台詞を頭に過らせながら。
「…………阿木龍己」
廊下の壁に背を預け倒れている死体。
それが北海道の千歳の密造アーティファクト工場【JCAF】で、銭樊=飯田一と共に玖命が戦った年老いた槍の巧者――【将軍】阿木龍己である。
「阿木さん…………ん? これは……!」
阿木の死体が他の死体と比べ損傷していなかったのには理由があった。
「……背後からの一突き、か」
そう、阿木の致命傷は背中にあった。
そしてそれは……、
「明らかに人為的……という事は――」
玖命が立ち上がり周囲を見渡す。
そして通路にある死体を注視しつつ、更に奥へと入って行った。
南側へ向かう途中。そんな限定的な状況下だったが、玖命はやはり見つけた。
――なるほど、良い着眼点だ……。
先日【天獄】で面会を果たした、
――番場や越田が潰れる様は実に滑稽だった。
四条棗を襲った鉄腕の男。
――いい暇つぶしだった。
「……羽佐間陣……死因はやはり背中への一撃」
不可解な死に方をする羽佐間を前に、玖命は思い出したくない事を思い出す。
否、この現場を見て、理解してしまったのである。
「……やはりいない……【八神右京……!」
玖命は確信に近いものを感じていた。
【天獄】のどこを探しても……おそらく【道化師】八神右京の死体は見つからない、と。
「残るは【将校】飯田一……あいつもおそらく」
その天恵の有用性から、飯田が生き残っている可能性が高い。そう考えていた。
しかし、玖命はその情報を追い出すように頭を振った。
「今はそんな場合じゃない。まずは南側の門だ」
最優先事項を決め、己が成す最高効率を見定める。
(まずは門、そして情報共有だ。……御剣さん、すみません……!)
そう、心の中で御剣に謝罪をし、南側の門へと向かった。
現場に着くと、緊張を隠せない【大いなる鐘】の第4班が玖命の接近に気付いた。
「っ! だ、伊達さんっ!?」
それは、玖命が見知らぬ長身の男だった。
しかし、玖命はその名を知っていた。
「【大いなる鐘】の第4班の……皆口さん、でよろしいですか?」
「は、はい!」
玖命が皆口と呼んだ男は姿勢を正し、大きく返事をした。
「よ、よくご存じで……!」
皆口が聞くと、玖命はニコリと笑って答えた。
「同盟を結んだ際、越田さんからメンバーの情報を共有しましたので、一通りは……確か、ランクAの【スナイパー】ですよね」
「こ、光栄ですっ!」
感激した様子の皆口を前に、玖命は簡潔に言った。
「情報部の山井部長より、ここの門破壊を依頼されました。状況説明を」
「は、はい! 当初、ランクA相当のモンスターパレードを確認! 代表越田を筆頭に【天獄】内のモンスターを一掃! 現状、門は安定しています!」
「内部モンスターの特徴は?」
「スケルトンやアンデッド系のモンスターが多い印象でした。討伐した時間から鑑みても、再出現の可能性は低いかと!」
「ありがとうございます。私が侵入している間、ここの保全をお願いします」
「はい! かしこまりましたっ!」
皆口が返事をするや否や、玖命は門に潜って行った。
その目にも止まらぬ迅速な動きに、皆口は思わず零す。
「あれが【無恵の秀才】……俺と同じランクなのに…………凄いな」




