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天才派遣所の秀才異端児 ~天才の能力を全て取り込む、秀才の成り上がり~  作者: 壱弐参
第六部

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第329話 ◆困った人

「……え?」


 その声を聞き、御剣は即座に反応出来なかった。

 何故なら、声は耳に届くも、その主がいない。

 御剣の視界には映らないのだ。

 しかし、御剣はその声の主が誰なのか、すぐに理解出来た。


「カカカカカッ! まおー様のこーりんだぜっ!」


 不本意ながら、もう1人の声も。

 御剣はガクリと頭を下げつつも、表情を明るくした。


「だ、誰だっ!?」


 七海が間の抜けた声をあげ、周囲を見渡す。

 しかし、御剣同様、2人の姿は視認出来ない。

 夜風が吹き抜ける高架の上。

 最初に気付いたのは運転手の男だった。

 小さく軋む車体に違和感を覚えた、窓の外を見る。その視界には捉えられなかったが、運転手の視線を追って御剣が気付く。


「…………ずっと、つけて来たの?」


 高級車の上に立つ玖命にそう言った御剣。

 しかし、玖命は首を横に振った。


「いえ、つけてたのはそちらの(かた)ですよ。俺は彼をつけてた翔に着いて来ただけです」


 そう、玖命は御剣を追っていなかった。

 だが翔は、川奈社長から七海(ななうみ)総一郎(そういちろう)を調べるように依頼を受けていた。

 御剣と離れた直後、翔と合流した玖命は、結果的に2人を追う事になっていたのだ。


「でも、尾行は失敗ね」


 当然、2人が追っていたのは七海。

 それをバラすように姿を見せてしまった。

 御剣の「失敗」という言葉にくすりと笑う玖命。

 それを補足するように翔が言う。


「カカカッ、問題ねーよ」

「……え?」


 御剣の疑問も束の間、翔の視線はぎろりと七海を捉えた。


「き、君は……いや、君たちは……なるほど、【命謳】の【特攻隊長】と【魔王】が私を調べていたのか」


 聞き慣れない言葉に玖命が首を傾げるも、翔は嬉しそうにケタケタ笑っていた。


「お、わかってんな、おめー! そうよ、俺様が【命謳】の【特攻隊長】鳴神翔様よっ!」

「【魔王】って呼ばれてるの、俺……? ネットの世界だけの話かと思ってた……!」


 頭を抱える玖命だったが、そんな事を七海が気にするはずもなかった。


「【命謳】が何を嗅ぎ回る? 私には何も後ろめたい事はない……!」


 スーツを(ただ)し、胸を張りながら言い切る七海に、玖命と翔は顔を見合わせる。

 そして、七海の言葉などなかったかのように軽く言い放つ。


「別に? てめーがどんな後ろ(ぐれ)ぇ事があろうが、俺様はてめーを見張るだけだぜ、カカカカカッ!」

「……なるほど、超法規的な調査という事か。ふん、いくらでも調べるがいい!」


 不敵な笑みを見せた七海がそう言うと、そのまま御剣の腕を引っ張った。


「い、痛っ……ちょっと!」


 痛みに御剣の顔が歪むも、玖命が動く事はない。

 しかし、玖命、翔2人の視線が七海を捉える。


「七海さん」


 玖命はただそう呼びかけ、自身のジャケット――その胸元のポケットを指差したのだ。

 それは、玖命が常日頃愛用しているスマートフォン。

 カメラ部分が七海の顔を捉える。

 それに気付き、七海は驚きながら玖命を見る。



「と、撮ってるのかっ!? この私を……!」

「撮ってますよ」


 玖命がさらりと言い、今度は翔が短ランの胸ポケットを指差す。


「撮ってんぜ」


 複数のカメラに撮られた事に、七海はヒクヒクと顔を歪ませる。


「放して」


 そこに、御剣の一言。

 カメラに囲まれ、更に御剣からの拒否。

 これを受け、七海は引く以外の手段を持ち合わせていなかった。


「ぐぅ……! 麻衣、また連絡するからな……!」

「いりません」


 御剣の追撃の一言に舌打ちすると、七海は苛立ち溢れる表情で車に乗り込んだ。

 そんな七海の背中に、玖命は言った。


「七海さん」

「…………何かね?」

「俺たちは依頼がある限り、ずっと見てますからね。ずっと、ずっとです」


 玖命の見送りと言い難い言葉を受け、七海はただ黙って、自動ドアが閉まるよりも早く、自分で車のドアを閉めた。

 御剣、七海が、その一幕に区切りと見た。

 しかし、玖命は最後の最後まで詰めを誤らなかった。


「翔」

「おうよ」


 翔への指示は、たったそれだけ。

 だが、翔は玖命の意図を理解し、すぐに行動した。

 玖命に言われ、翔はノックをするように七海が乗る車のリヤガラスをコンコンと叩く。

 スモークがかかっているが故、七海の顔こそ見えなかったが、それは玖命たちの目的ではない。

 翔のノック、中指が狙う先はリヤガラスの奥にあったのだ。

 翔は手応えを感じ、玖命にコクリと一つ頷き、合図を送った。


「うん、お疲れ」

「おう! そんじゃ、俺様はまた七海のケツ追っかけてるわ! カカカカカッ!」


 翔が去り、残ったのは玖命と御剣のみ。

 何か言いたげな御剣だが、それ以上の言葉は出てこない。

 玖命は翔の背を見送り、御剣に向き直る。

 そして、どこかで聞いたような言葉を、いつもの調子で言ったのだ。


「御剣さん……最近、困ってませんか?」


 余りにも、思わぬ一言。

 しかし、御剣には、その言葉が一番響いた。

 そして、呆れつつも笑い、笑いつつも困った表情を見せた。


「……はい、困ってます」


 そして、ようやく玖命に言ったのだ。

 くすりと笑う玖命と、恥ずかしそうに笑う御剣。

 そして、気を取り直したように御剣が言う。


「とても、困ってます」

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