第309話 探究・考究・討究2
「まず、【探究】系の特徴として、戦い、倒した相手の天恵を得られます。【考究】までは【固有天恵】は得られませんでしたが、天恵が成長し、【討究】となった時、【固有天恵】に関しても得られるようになりました」
すると、それを疑問に思ったのか、月見里さんが聞く。
「でも、伊達って【固有天恵】持ちの人と戦った事ないんじゃない?」
「あぁ、それは別の手段で」
「――それって、さっき言ってた『最下位の天恵であれば、集中し、視るだけで得られる』ってやつ?」
「そういう事です。ですが、どうやらそうとも言えない事例もあります。極限の集中状態であれば、最下位でなく、下位の天恵を得られたという事もあります」
そう言うと、月見里さんは「ふーん」とだけ言って納得してくれた。
「確かに、そうじゃないと私の【鑑定】系は得られないよな。そっか、それであの時きゅーめーの天恵が覗けなかったのか」
四条さんとの出会いの時、俺の天恵は先んじて【鑑定】を得た。まるで意思があるかのように。
「えーと、じゃあ今、伊達さんが月見里さんと組手して倒せば【脚力SS】が得られるんですかね?」
川奈さんにそう言われ、俺は月見里さんに目を向ける。
「な、何よ? や、やらないからね……?」
「おそらく無理でしょうね」
そう言うと、川奈さんが小首を傾げる。
「それはどうしてです?」
「ここがこの天恵のわからないところです。多分、相手が本気でないとダメなんだと思うんですけど……」
「【天武会】みたいに本気と本気の勝負じゃないと、天恵が反応しないって事ですかね?」
「その認識が一番近いと思います」
俺の説明に、川奈さんがふんふんと頷きながら理解を示してくれた。
「しかし、得られた天恵さえも成長させ得る能力……我らが代表ながら恐ろしいのう」
「カカカカカッ、片っ端から天才ぶっ潰していきゃ、最終的にゃ頭が最強って事か。おもしれーじゃねーか」
たっくん、翔の反応も概ね前向きな理解である。正直、話した後の事が不安だったが、杞憂だったみたいだな。
そんな事を考えていると、四条さんが俺に聞いてきた。
「これ、話すのか?」
「え……?」
「天才派遣所に」
その質問に、俺は言葉に詰まってしまった。
がしかし、その問いの答えを用意していなかった訳ではない。
「……はい、話します」
そう言うと、たっくんが静かに頷く。
「うむ、それが玖命の覚悟という事なら……我らは何も言うまい」
「あ、でも、ちゃんと話す人は決めてるんで」
「ほぉ?」
たっくんの片眉が上がる。
しかし、たっくんにそれを答える前に四条さんが言ったのだ。
「相田か?」
「うん、それと荒神さんと山井意織さん」
そこまで言うと、翔が得心した様子で言う。
「まー、荒神のばーさんとセンパイの弟ならいーんじゃねーの? 最終的にゃ言わなきゃなんねーんだしな。ま、受付のねーちゃんに言うのは納得いかねーがな」
そう言われ、俺は目を丸くした。
しかし、翔と同じ瞳を、俺以外の皆がしていたのだ。
「相田に言うのはやめた方がいいと思う」
四条さん、
「私も、相田さんへの説明は控えた方がいいと思います」
川奈さん、
「うむ、儂もそう思う」
たっくん、
「好きにすればー? 相田ちゃんが命を狙われてもいいのならね」
最後に月見里さんが、皆が躊躇っていた言葉を言った。いや、言ってくれたというべきだろう。
…………確かにそうなのだろう。
これを押し通してしまえば、相田さんは命を狙われる危険が付き纏う。
これは四条さんにも言える事だが、彼女は【命謳】というクラン、名前に守られている。
しかし、相田さんはそうではない。
ならば相田さんを【命謳】に誘うか。
それはない。あり得ないのだ。
相田さんは、あの仕事に信念をもって臨んでいる。
そんな相田さんだからこそ、俺は話そうと思ったのだ。
しかしながら、そんな相田さんだからこそ……やはり言うべきではないのだろう。
「……そうですね。そうした方がいいかもしれません」
俺がそう言うと、四条さん、川奈さんはホッとした様子でくすりと笑ってくれた。
すると、翔が拳を突き合わせ言った。
「そんじゃ、頭が【天界】に行く時にゃ、俺様たちがしっかり【命謳】を守らなくちゃな……なぁ、センパイ!?」
「ほっほっほ……そうじゃのう。【天界】に呼ばれるのはほぼ確定みたいなもんだしのう」
天界……天界!?
俺が驚きを見せる中、川奈さんが聞く。
「【天界】って、【World Genius Congress】……【世界天才会議】の事ですか?」
そう、WGCとか天界とか言われるアレである。3年おきに開催してるアレである。
「え、いや……俺まだAランクですし……」
「日本最強の伊達さんを、荒神さんが連れて行かないはずないじゃないですかー」
川奈さんがズバリと言う。
そういえば、越田さんも俺と一緒にどうとか言ってたような気がする。
あんな恐ろしい場所に俺が行く?
正直、そんな事考えてなかった。
「きゅーめーが行かなかったら、日本からは誰が行くんだよ?」
四条さんの追い打ちに、俺は、沈黙を選ぶ事しか出来なかった。




