第297話 ◆天才特別収容所【天獄】2
「確かに、【JCAF】程の企業を擁するコミュニティが、私程度の天才に【腕力C】ものアーティファクトを渡すとは考えにくい。当然、派遣所もそこまでは行き着いた。荒神も、越田もな」
そう言われ、玖命が一つ頷いた後、羽佐間が続ける。
「だが、貴様たちの疑問を……この私も持っていたとしたら?」
「それはつまり、羽佐間さんもわからない、と?」
「然り。あれは四条暗殺前に八神から渡されたもの」
「八神さんが?」
「『【JCAF】からプレゼントだよ』と付け加えてな」
「……これまでになかった情報ですよね?」
「ふっ、貴様を見て、今、思い出したんだよ」
荒神、越田も聴取出来なかった情報に、玖命が口を噤む。
(八神が……一体何故……? いや、【JCAF】側に意図が?)
出ない答えを追っていても仕方ないと割り切り、玖命は羽佐間に聞く。
「四条さんの暗殺依頼は誰から?」
「資料は読んでるだろう? 指示はメールで届いた。私は、送信元を知る身分になかった。まぁ今となっては八神からだったと考えるのが筋かもしれないがな」
「……随分と協力的ですね? そういった憶測が添えられたという情報は聞いてなかったんですけど?」
「何、【天武会】での活躍の報酬みたいなものだ。それ以上でもそれ以下でもない。番場や越田が潰れる様は実に滑稽だった」
呆れ、苦笑する玖命。
その後、いくつか質問をするも、荒神から事前に聞いている情報以上の事は、羽佐間から得る事は出来なかった。
「いい暇つぶしだった」
そう言って、羽佐間はニヤリと笑い、玖命の前から去った。
面会室の扉が閉まり、しばらくの後、また開く。
そこにやって来たのは――、
「む? お前は……伊達玖命。なるほど、荒神、越田ときて次はお前か」
【将軍】阿木龍己。
【JCAF】で銭樊=飯田一と共に俺、小林さんと戦った年老いた槍の巧者。
「どうぞ」
「年長者を敬う姿勢は良いが、私がそんな事で気を許すとでも?」
「座らないのであれば、そのままでも結構ですよ」
「はっ」
そう悪態を吐きながら、阿木が椅子に腰かける。
「まったく、素直じゃないですね」
「ふん、足が疲れれば誰だって座りたくもなるわ」
「それじゃ伺いますね。あの【JCAF】の3つ並んだ人工門ですが、あなた方が作ったという認識でよろしいでしょうか?」
「知らんな」
「そうですか、ありがとうございます。次の質問ですが、羽佐間陣さんはアーティファクトを持っていましたが、阿木さんは持っていませんでしたよね? 何か理由があるんですか?」
「知らんな」
「そうですか、ありがとうございます。私としては阿木さんより羽佐間さんの方がそちら側の実績があると思ったんですが、そう結論づけても?」
玖命の言葉に、阿木がピクリと反応する。
「……違う、私はアーティファクトが嫌いなだけだ」
「アーティファクトが肌に合わないという方もいらっしゃるようですからね。阿木さんもそのタイプでしたか」
「武具は手足。他の力に頼るのであれば、それが鈍るは必然。そういう事だ」
「ありがとうございます。その調子で人工門の件も聞きたいのですが、話してくださる気になってくれました?」
「……知らんな」
「報復が怖いと?」
「どうやら交渉の心得があるようだな、伊達玖命。がしかし、それを喋ったところで、お前には何も出来んよ」
「それは武力的に……という事でよろしいですか?」
そう聞くも、阿木が口を開く事はない。
「そうですか、じゃあそういう事にしておきますね。そうですか、阿木さん何も知らないんですね……」
「おい」
「もう結構ですよ。用は済みましたから」
「おいっ!!」
玖命の態度に阿木が立ち上がる。
しかし、すぐにハッと我に返り、口を噤み、じっと玖命を睨む。
がしかし、阿木はすぐに目を逸らす事になる。
強化アクリル板を突き破るような玖命の殺気が、阿木を包み込んだからである。
(こ、この小僧……な、何という殺気を……!? この私が……こ、ここまで身体を委縮させる事など……!?)
「阿木さん」
(私と戦った時とも、【天武会】の時とも違う……! さ、更に成長を……!?)
「先程の話……武力的に、という事でよろしいですか?」
今一度繰り返される玖命の質問。
阿木は額に脂汗を滲ませながら、玖命を見る。
「……お前なら……もしかして……」
そこまで言うと、玖命の表情がパッと明るくなり、
「そうですか、ありがとうございます」
先程と同じようにそう言ったのだった。
そんな玖命の変化を目の当たりにし、ホッと一息吐いた阿木は言う。
「お前、敵には容赦ないな……」
「それはお互い様でしょう。それで、【JCAF】の人工門の件ですが――」
「――その通りだ」
3度目の質問に対し、阿木は半ばヤケクソになりながら肯定した。
そして、大きな溜め息を吐いてから玖命に言ったのだ。
「ったく、ただの裏どりだろうに、しつこいやつだ……」
「裏どりも重要な確認なので、すみません」
「謝るな」
「え……?」
「…………私が馬鹿に見える」
そう言われ、玖命は目を丸くするのだった。




