第284話 ◆天恵展覧武闘会13
【天恵展覧武闘会】――通称【天武会】。
会場の熱気はかつてない領域へ。
司会者の御剣が立ち上がり、観客は皆、前のめりになりながら、勝負の行く末を見守る。
『今日この時、日本一の、最強のクランが決まりますっ! 3大会覇者【大いなる鐘】と新星クラン【命謳】!! 【天恵展覧武闘会】!! 団体戦決勝………………試合開始ですっ!!!!』
御剣の合図により、低音のブザーが会場に響き渡る。
瞬間、【元帥】越田高幸が動く。
「伊達殿、悪いがこの試合……勝たせてもらう! はぁっ!」
天恵【元帥】の力により、【大いなる鐘】メンバーの天恵の力が底上げされる。
【元帥】ともなれば、その向上率は天恵の力を1段階は上げる。
これにより、【剣皇】水谷結莉の天恵が【剣神】クラスへ。
【天騎士】山王十郎の天恵が【神聖騎士】クラスへ。
【大聖女】茜真紀の天恵が【聖神】クラスへ。
【頭目】ロベルト・郷田の天恵が【大頭目】クラスへ。
【賢者】立華桜花の天恵が【大賢者】クラスへと上がる。
更に――、
「【闇駆け】……!」
ロベルトの天恵により、全員の足音が消され、
「【スピードアップ】!」
茜の天恵により、【大いなる鐘】全員の速度が上がる。
越田が眼鏡をくいと上げ、伊達玖命を見据える。
「さぁ……始めようか」
直後、真っ先に動いたのはロベルトだった。
真っ直ぐ【神聖騎士】川奈ららに向かい、その背後を狙おうと跳んだ。
しかし、その正面に現れたのは【拳神】鳴神翔だった。
「この戦場で跳ぶのは、ちと甘いだろーが!」
翔が拳を振り下ろそうとしたその瞬間、ロベルトは跳躍の軌道を変えた。
「んな!?」
なんとロベルトは宙に天井があるかのように、それを蹴り、川奈の背後をとったのだ。
その不可解な軌道の意味を玖命が知る。
(なるほど、背後に水谷がいたのか。ロベルトさんが飛んだ瞬間、既に水谷は跳んでいた。そして、ロベルトさんが翔に接敵する直前、その真上に斬撃を放った。ロベルトさんはその斬撃――即ち剣の面を天井として蹴り、下降した。最小限の動き、最短のルートで川奈さんの背後を取ったのか。しかも水谷の斬撃は――、)
「うぉっと!?」
(しっかりと翔の動きを制した……やるな。これが完璧に訓練された【大いなる鐘】第1班の連携! だけど、川奈さんも負けてないはず……!)
「やぁああああっ!」
「な、なんと!?」
ロベルトの小刀が受けたのは川奈のショートソード。
川奈はロベルトの動きを読み、先んじて反転しながら背後に向かって切り払いを放っていた。
「くっ!?」
ロベルトの【下忍】系の天恵は速度を重点的に向上させる。
力と頑強さを向上させる【騎士】系の天恵を持つ川奈と剣を交えれば、不利と言わざるを得ない。
更に、
「【パワーアップ】」
玖命の【大聖者】の天恵により、クラン【命謳】メンバーの力が底上げされる。
「お、重いでござるぅ!?」
これに援護を放つのが立華だった。
「【ボルトガトリング】」
連射される雷撃弾が川奈の背後を狙う。
「ほっほっほっ!」
そんな川奈の背後に降り立ったのが【阿修羅】山井拓人。
無数の雷撃弾を全て叩き、尚且つ、反射させるその行動に立華が目を見開いた。
「かぁああああああああああっ!!」
気合いを入れて立華の前に大盾を出し、構えた山王。
的確に大盾でそれを受け、弾いていく。
翔、水谷が無数の攻防を繰り広げる中、ロベルトが川奈に押し負ける。
「くっ!? にんにんっ!」
ロベルトは身体を大きく仰け反らせ、川奈のショートソードに押し切られながらも回避。その場を離れようと動くも――、
「集合っ!」
「ぬぉ!?」
川奈のヘイト集めがそれをさせない。
「【闇駆け】」
玖命もまた【命謳】メンバーの足音を消す。
駆け始めた玖命が狙う先は、川奈が逃がさぬようその場に固定したロベルト。
――だが、
「はぁああああっ!」
玖命がロベルトの背後を取り、斬りかかった瞬間、その攻撃を受けた者がいた。
「はっ!」
玖命の斬撃に合わせ、山王と同じ大盾を持つ男――越田高幸。
「前に出ますか……越田さん」
「出ざるを得なかったという事だよ……!」
8割の出力とはいえ、数多の天恵を持つ――玖命。
越田がその威の全てを受けられるものでもなかった。
「くっ!?」
「く……ぁぁあああああああっ!!」
強引な押し切り。
そうともとれる玖命の一撃に、越田はロベルトを巻き込みながら、吹き飛んでしまう。
「うぉ!?」
「と、とととぉ!? なんという威力でござるか!?」
ロベルトが驚きながらも、眼前には玖命が駆けて来る。
それを止めようと山王が走るも、その正面には山井が立ちはだかった。
「ぬぅ、一度立ち会ってみたかった、山井殿ぉ!」
「儂のファンクラブには入ったか、若造っ!?」
「当然だ! 聚強っ!!!!」
「ぬっ!? 流石は山王十郎っ! 何という意思の強さよ……!」
山王のヘイト集めにより、山井が動きを止められる。
立華が再度川奈を狙うも、既に川奈は正面に向き直り、その全ての魔法を大盾の中心で受け止めてしまう。
そんな中、戦局が動く。
「ぐぅううううっ!?」
ロベルトに追いついた玖命が小刀を押し切り、その右肩を巻き込んで打ち抜く。余りの衝撃に苦悶の表情を浮かべるロベルトだったが――、
「しっかり働きなさい、ロベルト……!」
茜の回復魔法により、瞬時にその痛み、傷を回復させてしまう。
着地したロベルトは再び撃ち合いを始める玖命と越田を見た。
越田を援護すべく、走り出すも――、
「おぅら!」
翔の攻撃によって阻まれてしまう。
「くっ!? 水谷殿は!?」
「てめーの代わりに越田んトコに行ってんよっ! らぁ!!」
凄まじい翔のラッシュ。
何とかロベルトが受け、捌くも、その威は凄まじく、攻撃を受ける手に鈍痛が溜まっていく。
「おう、そろそろ身体があったまったんじゃねーか!? 頭ぉ!?」
翔の言葉の意味を知る者は、【命謳】にしかいない。
そう、玖命はまだその全てを【大いなる鐘】に見せていないのだ。
【大いなる鐘】に【元帥】越田高幸がいようとも、【命謳】には【将校】伊達玖命がいるのだ。
水谷と剣を交え、越田と剣を交える玖命が言う。
「水谷さん」
「なーに、玖命クンッ!?」
「越田さん」
「何かね……っ!」
――【討究】を開始します。
「では、本番といきましょう……!」
玖命がそう言った直後、クラン【命謳】の真価を、全世界が知るのだった。




